誰が悪いのか、よりもまずは死を悼むことではないだろうか。
りゅうちぇるさんのご冥福をお祈りします。
◯
4月にアシスタントとして入社30年のベテラン女性社員が配属されてきた。
そこから1ヶ月間、わりとコミュニケーションをとりながら一緒に仕事をしてきたつもりだった。
けれどもゴールデンウィーク明けに彼女に提出物の郵送をお願いしたとき、『わかりました。ところであなた、お名前は?』ときかれた。
すぐに名乗り、不躾で申し訳ないと謝罪をしたが、1ヶ月も密に仕事をしてきたのに俺は名前すら覚えてもらえていないのか…と少しばかり落ち込んだ。
まさかこんなにも存在感がないとは。
だが1週間ほど経って、私の隣の席の村田さんが、雑談交じりに「実はこないだすごくショックなことがあって…」と切り出した。
「もうアシスタントさんが配属されて1ヶ月経って、それなりにコミュニケーションもとってきたつもりだったんですけど…こないだ頼み事をしたら"すみません、お名前は?"って言われたんです。まだ名前すら覚えてもらってないんですよ」
と言った。
驚いてすぐに「僕も全く同じことをこのあいだ言われました」と返すと「え??僕だけじゃないんですか??」となり、「なんか安心する反面、引きますね」とお互い呆れてしまった。
『それほんとに忘れてるんですよ。なんでも忘れますよあの人。やれって言ったことも忘れるし、やるなって言ったことも忘れる。昨日教えて"わかりました"って言ったことを、今日まるで初めてきくかのように"これのやり方教えてください"って言うんですよ。パソコンも使えないしメモもとらない。ミーティング中は携帯をいじってる。ストレスめっちゃ溜まりますよ』
そうもう一人のアシスタントである藤井さんが言った。
藤井さんは普段まったく他人を批判したり悪口を言ったりしないので、なかなか説得力のあるものがあった。
『勤続30年だからめちゃくちゃ給料高いし。ほんと無意味です』と彼女はさらに憤った。
昨日のことだ。
お中元でビールが届いたので、上司がそのベテラン女性社員に「みんなに配ってあげて」と指示をした。
『有馬さんはお酒飲めますか?』
そう尋ねられ、私は「飲めます。是非いただきたいです」と伝え、ビール缶を一本もらった。
明けて今日、前日外出で不在だった村田さんをみた上司が再びベテラン女性社員に『ビール余ってるから村田さんにいるかいらないかきいてあげて』と指示をした。
『わかりました!』と彼女は元気に返事をした。
そして何故か私の席に真っ直ぐきて、こう言った。
『村田さんはお酒飲めますか?』
「…え?」
『ビールが届いたんです』
「あの、僕、村田さんじゃないですが…」
『え、じゃあ村田さんはどこに?』
「ここにいます」
隣の席にいた村田さんが手をあげた。
『ああ。村田さんはお酒飲めますか?』
「僕は飲まないのでいりませんので。他の方にあげてください」
『わかりました』
そう言って彼女は村田さんにビールを渡し、去っていった。
いやなんやこれは。
なんやこのバカの跳満みたいなエピソードは。
何役のったらこんなに満載になるんだ…。
『以前はできたのに突然あんなふうになったなら軽度の痴呆を疑いますけど、聞くと前からあんなんだったみたいなんで、多分学習障害持ってるんだと思います』
「えー。でも昨日は僕の名前、ちゃんと覚えてて呼んでくれましたよ?」
『多分それも覚えてたんじゃなくて、勘で名前言って当たったんだと思いますよ』
「それならずっとあの状態のまま、わりと大事な仕事やらされてるんですか?閑職じゃなくて」
『縁故かなんかなんじゃないですか?』
この会話の間に、ベテラン女性社員は共有フォルダ内のファイルを消してしまった。
これからも使用し続けるエクセルファイルだったが、「会議に使うからPDFとっといてくれ」と指示を受け、PDFをとるやいなやなぜかそのエクセルを消してしまった。
幸い大事なファイルなのでバックアップがあったので事なきを得たが、やはり普通ではない。
彼女は、私よりも給料が高い。
まったくやりきれない話だ。
りゅうちぇるさんのご冥福をお祈りします。
◯
4月にアシスタントとして入社30年のベテラン女性社員が配属されてきた。
そこから1ヶ月間、わりとコミュニケーションをとりながら一緒に仕事をしてきたつもりだった。
けれどもゴールデンウィーク明けに彼女に提出物の郵送をお願いしたとき、『わかりました。ところであなた、お名前は?』ときかれた。
すぐに名乗り、不躾で申し訳ないと謝罪をしたが、1ヶ月も密に仕事をしてきたのに俺は名前すら覚えてもらえていないのか…と少しばかり落ち込んだ。
まさかこんなにも存在感がないとは。
だが1週間ほど経って、私の隣の席の村田さんが、雑談交じりに「実はこないだすごくショックなことがあって…」と切り出した。
「もうアシスタントさんが配属されて1ヶ月経って、それなりにコミュニケーションもとってきたつもりだったんですけど…こないだ頼み事をしたら"すみません、お名前は?"って言われたんです。まだ名前すら覚えてもらってないんですよ」
と言った。
驚いてすぐに「僕も全く同じことをこのあいだ言われました」と返すと「え??僕だけじゃないんですか??」となり、「なんか安心する反面、引きますね」とお互い呆れてしまった。
『それほんとに忘れてるんですよ。なんでも忘れますよあの人。やれって言ったことも忘れるし、やるなって言ったことも忘れる。昨日教えて"わかりました"って言ったことを、今日まるで初めてきくかのように"これのやり方教えてください"って言うんですよ。パソコンも使えないしメモもとらない。ミーティング中は携帯をいじってる。ストレスめっちゃ溜まりますよ』
そうもう一人のアシスタントである藤井さんが言った。
藤井さんは普段まったく他人を批判したり悪口を言ったりしないので、なかなか説得力のあるものがあった。
『勤続30年だからめちゃくちゃ給料高いし。ほんと無意味です』と彼女はさらに憤った。
昨日のことだ。
お中元でビールが届いたので、上司がそのベテラン女性社員に「みんなに配ってあげて」と指示をした。
『有馬さんはお酒飲めますか?』
そう尋ねられ、私は「飲めます。是非いただきたいです」と伝え、ビール缶を一本もらった。
明けて今日、前日外出で不在だった村田さんをみた上司が再びベテラン女性社員に『ビール余ってるから村田さんにいるかいらないかきいてあげて』と指示をした。
『わかりました!』と彼女は元気に返事をした。
そして何故か私の席に真っ直ぐきて、こう言った。
『村田さんはお酒飲めますか?』
「…え?」
『ビールが届いたんです』
「あの、僕、村田さんじゃないですが…」
『え、じゃあ村田さんはどこに?』
「ここにいます」
隣の席にいた村田さんが手をあげた。
『ああ。村田さんはお酒飲めますか?』
「僕は飲まないのでいりませんので。他の方にあげてください」
『わかりました』
そう言って彼女は村田さんにビールを渡し、去っていった。
いやなんやこれは。
なんやこのバカの跳満みたいなエピソードは。
何役のったらこんなに満載になるんだ…。
『以前はできたのに突然あんなふうになったなら軽度の痴呆を疑いますけど、聞くと前からあんなんだったみたいなんで、多分学習障害持ってるんだと思います』
「えー。でも昨日は僕の名前、ちゃんと覚えてて呼んでくれましたよ?」
『多分それも覚えてたんじゃなくて、勘で名前言って当たったんだと思いますよ』
「それならずっとあの状態のまま、わりと大事な仕事やらされてるんですか?閑職じゃなくて」
『縁故かなんかなんじゃないですか?』
この会話の間に、ベテラン女性社員は共有フォルダ内のファイルを消してしまった。
これからも使用し続けるエクセルファイルだったが、「会議に使うからPDFとっといてくれ」と指示を受け、PDFをとるやいなやなぜかそのエクセルを消してしまった。
幸い大事なファイルなのでバックアップがあったので事なきを得たが、やはり普通ではない。
彼女は、私よりも給料が高い。
まったくやりきれない話だ。