これは確実に拒否されているな、と感じた。

いや、拒否は生ぬるい。

もう周りに守られているな、と感じた。



社内から鍵を持ち出したかった。

鍵を持ち出すためには総務課に申請書を提出し、捺印を受けなくてはならない。


私は普段最も席が近い佐伯さんかその隣の藤田さん、あるいは仕事で絡む機会の多い平山さんに申請書への捺印をお願いするのだが、生憎この日は3人とも不在だった。

それどころか総務課は皆忙しそうで、電話対応をしていたり、何やら業務の打合せをしていたりと声が掛けずらかった。


唯一、私が想いを寄せ、お気に入りでもある井本さんだけが手が空いている感じであった。


私は申請書を持ち、井本さんに話しかけた。


「すみません井本さん。鍵をお借りしたいのですが」


すると真後ろにいた課長の柴崎さんが振り返り、すぐに『待って。池山さん、対応して』と言った。


すぐに池山さんが私の下へ来て、『私が対応しますので』と私の申請書を奪った。



おや。仕事が忙しい最中だったのだろうか井本さんは。

そんな中で声を掛けてしまって申し訳ない。

そういう感覚しかこの段階では持ち合わせていなかった。



だが、昼休みのことだ。


固定電話に出るのは我々の会社では総務課と決まっているのだが、昼休みは皆ランチに出かけるので層が手薄になる。

この日も社内に残っていたのは池山さんだけであり、その池山さんは別の電話対応を行っていた。

そのタイミングで固定電話が鳴る。

そうなると誰も電話対応をできないので、やむなく私が電話に出ることにした。



「爽想社の山瀬と申します。20分程前にこちらの番号からお電話いただいたのですが…」



電話を保留にし、社内にいる人間に「爽想社の山瀬さんに連絡した方いますか?」と尋ねるが、誰も心当たりがないと言う。


「恐らくお昼に出ていると思いますので、大変申し訳ありませんがお昼過ぎに再度お電話していただいてもよろしいでしょうか」


そう電話口で伝え、電話を切った。



しばらくして池山さんが私の座席を訪れ、『先程は代わりに電話出ていただいてありがとうございました』と礼を述べた。

「いえいえー」

そう返すと池山さんは私の席に目をやり、【爽想社 ヤマセ 090-××××-××××】と書かれたメモをみつけ

『あ!爽想社ですか?』と言った。


「そうです。誰かが電話したようなんですが」

『それなら井本さんですね!井本さんがお昼前に電話してました』

「そうですか。じゃあ井本さんに伝えておきますね」


『いやいやいや!!!私が伝えますので!!大丈夫です!!』




んん?


んんん???



さすがに私も薄らと感じる可能性を無視できなかった。


あれこれ、井本さんと俺が会話しないようにしてない!?

井本さんに俺が接触しないようにブロックしてない!?

これ俺一切関われないようになってない!?



これは確実に拒否されているな、と感じた。

いや、拒否は生ぬるい。

もう周りに守られているな、と感じた。




このパターンが何を意味するのか。

冷静に色々と考えてみたが、思い当たる可能性が二つしかない。


井本さんが私をNGにしたか

池山さんが私をめっちゃ好きか

だ。



んなわけねーわ。

なんだその池山さんがめっちゃ好き説。ほぼ0やんけ。




最後に井本さんと絡んだのは5月だ。

旅行のお土産のお礼を言われたのが最後。


この1ヶ月で一体何があったというのだろうか。


私は特に何もアクションはかけていない。


というか会話すらしていない。




嫌われるのなんて慣れっこじゃないか。


そう自分に言い聞かせてはいるものの、質量が毎回異なり、今回は濃密だ。



意外と人間は、こういう些細なことで、心を病んでしまうものだ。