豊田さんは吐いた。

盛大に吐いた。


朝イチ出社した豊田さんは、「体調が優れないんだ」と周囲に漏らした。


その1時間後には顔が真っ白になっていた。


白…


「あのー無理せず早退したほうが…」

誰かが豊田さんにそう告げたが豊田さんは頑なに帰ろうとせず、自分の机で麻雀アプリをやっていた。



豊田さんは事務処理ができなかった。

入社20年を超えるベテランにもかかわらず、彼は一切パソコンが使えない。

たまにメールがくるが、それはあまりにもひどい誤字脱字に溢れ、長文で平仮名だらけで、何より改行ができていなかった。



「今年は豊田にもノルマをもうける。営業としての給料をもらっている以上は営業もやるし、事務処理もやれ」


部長からかけられた発破だったが豊田さんは何も変わらずアプリをやり続けた。



14時10分。


豊田さん、嘔吐。



会社内が悲鳴で溢れる。




なぜこんなことになるかと言うと、豊田さんは物凄く不潔だからだ。


彼は学生用のアパートに1人で住み、ペット禁止のその部屋に猫を2匹住ませていた。


また、彼はスーツも作業着も一切洗濯せず、コーラを好む。


月曜の朝9時だというのに、彼の服はコーラと思われる茶色いシミ、大量の猫の毛、獣臭、そして猫のオシッコと思われる強烈なアンモニア臭に覆われていた。



その豊田さんが吐いたのだ。



正直、私は彼の身体よりも真っ先に思ってしまった。



いやそれだけ不潔でも免疫ないんかい。と。


これは悪意にまみれた悪口なのかもしれない。


でもやはり思わずにはいられない。

なんでこんな奴より給料低いんだ…



「タクシー代ないから家まで社用車で送って」

そう豊田さんは言った。



いや病院行けや。