30度を超える猛暑。

まだ5月だというのに社内に豊田が持ち込んだ新たな業務用扇風機が、彼自身の体臭をおそろしいほど拡散していく。


以前日記にて、豊田の業務用扇風機が壊れた、ということを書いたことがある。


豊田は50半ばで、猫を複数匹飼っていて、そのとんでもない獣臭と彼自身から発せられるアンモニア臭が混じりあい、ひとつの兵器のような強力さを発揮している。


あまりにも強烈で耐え切れず、本当に何人かは部屋を出て、何人かは然るべき部署に報告を入れていた。


豊田の住む狛江のアパートは独身世帯向けとはいえ明らかに学生が住むような建物で、もちろんそうなってくるとペットなんか飼える部屋ではない。


「拾った猫をアパートに無断で飼ってるんだよ」

「そんなことしたら追い出されるんじゃないですか?」

「多分豊田さんもそれを分ってるけど意地でも出ていかないんだよ。ペット禁止の部屋に猫を数匹、その上あの強烈な臭い。退去ってなったらとんでもない額の退去費になるよ」


北村は呆れながら言った。


「部屋だってロフトつきの6.5畳だぞ。50過ぎの独身がロフトの布団洗ったり干したりするわけないよ。最悪な環境だよ」


これは一歩間違えれば悪口だ。

だが同様に、こちらは確実にスメルハラスメントの被害を受けている。



「何か良い方法はないですかね」

「本人にはっきり言うか、芳香剤を山ほど買うかだよ」

「でもそんなお金払いたくないですし、やっぱり誰かに面と向かってお前臭いよと言うのは抵抗があります」

「そりゃそうだよ。だから会社に任せよう。対処するのも会社。芳香剤を大量に買うのも会社だよ」


翌日、豊田の扇風機が壊れた。

二台目の愛機を失い、豊田は悲しげだった。


これは会社が、なんらかの手をくだしたのだろうか。