賢者は語る。


全てに於いて意味があり、凡てに於いて忌みが明ける。


選択せよ。理か、王なる力か。


我はなろう、アギトへと。


鐘を鳴らそう。世界を震わせ伝えよう。


9と9が9を迎えし時


識なる底、脈動せし。


そして始まりの封が切れし時、雷のごとき声音が響かん


我ら来たれり……と。





裏オプをするかしないかは正直、嬢の明るさ暗さでなんとなくわかる。

 

それは丁寧さであったり感じの良さとはまったく別で、とにかく明るいか暗いかだ。

 

恐らく接客用の明度なのだろうが、その分違いが明確にわかる。

 

昨日行ったメンズエステで出迎えた嬢は、一目瞭然に暗かった。

 

前述の通り感じが悪いとか、挨拶ができないとかではなく、“この人は裏オプをやるぞ”という暗さだった。

 

 

『オプションはマイクロビキニが3000円ですが、どうします?』

 

「・・・つけます」

 

どこか最低限のみのやりとりの徹底に、私の予感は確信に近いものとなっていた。

 

これは手だけじゃなく、口もあるな。

 

 

正直私は気分じゃなかった。

 

数週間前、とある懸賞があたり、私は50,000円の臨時支給を得ていた。

 

 

この泡銭、すべて下半身のために使おうと現金を手にした瞬間から決心し、その方法を考え、結論としてメンズエステと店舗型ヘルスを梯子しようとなった。

 

つまり私はこの日、あくまでメンズエステでのムラムラを前菜に、店舗型ヘルスで発散することをメインとしていた。

 

そのため、裏オプは絶対避ける必要があり、ネット口コミで過激店且つ健全店という二律背反な検索を行い、ようやくみつけたメンズエステに赴いたわけだが、いま目の前にいる嬢は当社調べ95%の確率で裏オプを仕掛けてくる類である。

 

健全のみにすればよかった・・・紙一重のラインを狙ったことが完全に裏目に出てしまった。

 

 

こうなればもう、いざその瞬間を迎えた際にはっきりと「NO!」をつきつけるしかない。

ここでは出さない。

 

決意を胸に戦々恐々としながら施術が始まる。

 

そしてすぐに気づく。

 

すっごく黙々と施術してくる。

 

すっごく黙々としっかり乳首を弄ってくる。

 

すっごく黙々としっかり乳首を弄り、しっかり股間に触れて刺激してくる。

 

 

ああ・・・これはあるわ・・・

 

 

即座に私は仕事で失敗してめちゃくちゃ怒られるシーンを思い返した。

 

そうすることで膨張を縮小させ、この人はその気ではないとわからせようという本当に淡い魂胆だ。

 

 

だが無駄だった。

 

 

『もう1個オプションがあります。15,000円なんですけど。どうします?』

 

「・・・そのオプションというのは?」

 

『ゴム有りならばどこまでも』

 

 

なんと・・・。

 

もはや手だけじゃなく口もあるレベルではない。

 

「それは、本番可能ということですか」

 

『言葉にしたくないですけど、ハイ』

 

 

それを聞くや否や、私の股間が一気にはちきれんばかりに膨張した。

 

予想以上の展開に興奮してるんじゃないよ・・・俺。

 

 

「じゃあ・・・、ハイ」

 

 

すぐに嬢は、勝手に私の貴重品入れから、私の財布を取り出したのだった。

 

 

 

 

 

『私、こう見えて暗いの。この部屋にいるときも、一人になると考えこんじゃう』

 

「それはわかるよ。僕も思い悩む」

 

『どんなことを?』

 

「老後のこととか」

 

『私はそんな先どころか、目前の生活とか未来とかで病むよ。すごく暗くなる。だからずっとお酒を飲んじゃう。逃げたくて』

 

 

暗くなるのは本番をしているからだよ・・・と言いたかったが、少なくとも私にそれを発する権利はないとわかっていたので口を噤んだ。

 

代わりに

 

「それは健康に良くないよ」

 

と伝えた。

 

 

行為を終え、外したコンドームの中身を見て『さすがに出し過ぎでしょ』と言ってから、彼女はすっかり敬語で話さなくなった。

 

一度身体を重ねれば、どんな距離感であったとしてもそれはわずかでも短くなる。そういうものだ。

 

 

『健康なんて気にしてても仕方ないよ。結局運動でしょ?』

 

「そうだね。それは思う」

 

『私はほら、こういうことしてるから』

 

 

それ故の暗さが滲み出てたよ、とは口がさけても言えなかった。

 

 

『セブンイレブンがさ、お弁当すっごく美味しいの』

 

「わかるよ。いまセブンほんと美味しいもんね。おにぎりも総菜も」

 

『ぶぶかの油そば知ってる?あれめちゃくちゃ美味しいんだよ』

 

「えー知らないや」

 

『美味しいよ。ぶぶかの油そば食べながらおにぎり3個食べてビールで流し込むのが最高だよ』

 

 

聞くだけで悪魔的に不健康なことがよくわかる。

 

 

「じゃあ次きたときはそれを差し入れるね」

 

『ほんと!?めっちゃ嬉しい。楽しみ』

 

 

 

 

帰り道に早速セブンイレブンに寄り、インスタント麺のラインナップを見た。

 

そこにたしかにぶぶかの油そばがあった。

 

なんて身体に悪そうな食べ物なんだ・・・・

 

 

すぐにそれをスルーし、おにぎりを3個と大盛の肉蕎麦を購入した。

 

身体的な不健康という意味では、ぶぶかの油そばを買おうが買うまいが同じことなんだと思うとあたため息が出てしまう。

 

すっかりと薄くなった財布から1000円札とわずかな小銭を取りだす。

 

 

そして気づいた。

 

 

あれ?思ったよりまだ金あるな、と。

 

 

本来であればエステ施術24,000円にヘルス代18,000円で42,000円。

 

これが施術24,000円に本番15,000円で39,000円。

 

 

と、得してるじゃねえか!

 

いれてるのに!得してる!

 

 

そう認識した瞬間、あの本番嬢が愛しくてたまらなくなった。

 

せっかくならこの3,000円チップであげればよかったとすら思う。

 

 

同時に、なんとなくだが私は認識している。

 

 

おそらく、あの店も、あの女の子も、そう長くはもたないだろう、と。