理由があり毎週土曜日の午後は毎回決まった喫茶店で同じ時間に約1時間ほど暇を潰すのだが、それを繰り返しているうちにその時間に来る客も固定化されていることに気付く。
土曜日は休みなので私は服装も気をつかわずに胸元ダルダルの部屋着、髪型もボサボサのままで外出することか多いが、毎回同じ時間にいる私と同い年くらいの男性は、オシャレな服を着て髪型もきっちりとセットして同じ席でパソコンをいじっている。
これで店の無料Wi-FiでYouTubeでも観ていれば多少なりとも私の気持ちも安定するのだが、以前チラッと画面が見えたときそこに映っていたのは何やら難しい数字の羅列と折れ線グラフだった。
意識たっかいなあ…
本来であれば、私くらいの年齢の男性は彼のようでならなければならないのかもしれない。
しかしながら到底私はそのような生活に身を置くなんてことはできないと思っており、彼の存在をやたらと眩しく感じた。
なんならちょっと悪態をついていた。
喫茶店でわざわざやんなよ…
そこまでしてモテたいのかよお前は…
と。
今日その彼が女性を連れて店を訪れた。
いつものようなオシャレな服装、髪型に加え、やたらとドギャーン!と先端が尖った革靴を履いた彼は、自慢気に彼女と肩を寄せ合い、そしてどこかトローンとした目で斜め上の角度から話しかけていた。
彼女は少し彼よりも歳上に見えた。
奥さんなのだろうか?
そう思えるのは、やたらとキメキメな彼に対して、いささか身なりが質素に見えたからだ。
ストレートの黒髪に白いインナー、オレンジ色のボーダーの薄着を羽織り、赤いパンツ。靴は動きやすそうなスニーカーだ。
年齢的には結婚していてもおかしくないので、左手を見つめてみたが、そこには指輪もそれらしい跡も見えなかった。
同様に彼の左手を見てみると、やはり薬指に指輪や跡はなかったが、人差し指や右手の薬指、手首等にはジャラジャラとアクセサリーがついており、「あれ?この人こんな節操の無さそうな人だったっけ?」と少し不思議な感覚に陥った。
二人はしばらく楽しそうに彼のパソコンの画面を見て、それを終えると密着し、そしてキスをした。
キスすんなよ…と思った。
脳内で椎名林檎のここでキスしてが流れる。
無罪モラトリアムは素晴らしいアルバムだったが、私が学生時代の椎名林檎は決まってやたらと勘違いした偉そうなブスがカラオケで歌うので、あまり良い印象をもっていなかった。
っていやいや…
この喫茶店はチェーン店ではない。
レトロでもなければ店員も複数人いて皆若いが、どこか落ち着くことができるのでこんな気を遣わない格好で訪れているというのに。
もう意識高い同年代が店内でキスしちゃったら次回からドレスコードを念頭におかなければならなくなるじゃないか。
店内でキスしていちゃつくカップルと不恰好な俺。
追い出すならまあ7割くらいの人は後者を選ぶだろう。
私は来週から喫茶店に行くためだけに髭を剃らなくてはならないのか。
ふと彼女の右手が気になった。
ジャラジャラとしている彼に対し、彼女の腕は非常に簡略化しているように感じられたが、彼の首元にまわすその右腕で光っているのは、どうやらApple Watchだ。
あの人Apple Watchつけてるな。
しかも左利きだ。
だからなんだという話だ。
けれどもApple Watchは欲しいし、左利きはなぜか羨ましい。
ある意味前者も後者も神に与えられし神器だ。
その二つを手に入れた上で、彼女はこの喫茶店で彼にキスをしている。
彼らの隣ではパチンコ屋っぽい制服をきた若いお兄さんが、私服姿の猫背の男性に対して恐らく面接をしている。
双方ともに動じることがないので、席ごとに世界観が壊れることがない。
この場合、メンタルが強強なのはどちらの席側なのだろうか。
いずれにしても最も不快でいますぐやめてほしかったのは、そのパチンコ屋っぽいお兄さんの面接時の明らかに劇団員丸出しの気持ち悪いトーンであった。
土曜日は休みなので私は服装も気をつかわずに胸元ダルダルの部屋着、髪型もボサボサのままで外出することか多いが、毎回同じ時間にいる私と同い年くらいの男性は、オシャレな服を着て髪型もきっちりとセットして同じ席でパソコンをいじっている。
これで店の無料Wi-FiでYouTubeでも観ていれば多少なりとも私の気持ちも安定するのだが、以前チラッと画面が見えたときそこに映っていたのは何やら難しい数字の羅列と折れ線グラフだった。
意識たっかいなあ…
本来であれば、私くらいの年齢の男性は彼のようでならなければならないのかもしれない。
しかしながら到底私はそのような生活に身を置くなんてことはできないと思っており、彼の存在をやたらと眩しく感じた。
なんならちょっと悪態をついていた。
喫茶店でわざわざやんなよ…
そこまでしてモテたいのかよお前は…
と。
今日その彼が女性を連れて店を訪れた。
いつものようなオシャレな服装、髪型に加え、やたらとドギャーン!と先端が尖った革靴を履いた彼は、自慢気に彼女と肩を寄せ合い、そしてどこかトローンとした目で斜め上の角度から話しかけていた。
彼女は少し彼よりも歳上に見えた。
奥さんなのだろうか?
そう思えるのは、やたらとキメキメな彼に対して、いささか身なりが質素に見えたからだ。
ストレートの黒髪に白いインナー、オレンジ色のボーダーの薄着を羽織り、赤いパンツ。靴は動きやすそうなスニーカーだ。
年齢的には結婚していてもおかしくないので、左手を見つめてみたが、そこには指輪もそれらしい跡も見えなかった。
同様に彼の左手を見てみると、やはり薬指に指輪や跡はなかったが、人差し指や右手の薬指、手首等にはジャラジャラとアクセサリーがついており、「あれ?この人こんな節操の無さそうな人だったっけ?」と少し不思議な感覚に陥った。
二人はしばらく楽しそうに彼のパソコンの画面を見て、それを終えると密着し、そしてキスをした。
キスすんなよ…と思った。
脳内で椎名林檎のここでキスしてが流れる。
無罪モラトリアムは素晴らしいアルバムだったが、私が学生時代の椎名林檎は決まってやたらと勘違いした偉そうなブスがカラオケで歌うので、あまり良い印象をもっていなかった。
っていやいや…
この喫茶店はチェーン店ではない。
レトロでもなければ店員も複数人いて皆若いが、どこか落ち着くことができるのでこんな気を遣わない格好で訪れているというのに。
もう意識高い同年代が店内でキスしちゃったら次回からドレスコードを念頭におかなければならなくなるじゃないか。
店内でキスしていちゃつくカップルと不恰好な俺。
追い出すならまあ7割くらいの人は後者を選ぶだろう。
私は来週から喫茶店に行くためだけに髭を剃らなくてはならないのか。
ふと彼女の右手が気になった。
ジャラジャラとしている彼に対し、彼女の腕は非常に簡略化しているように感じられたが、彼の首元にまわすその右腕で光っているのは、どうやらApple Watchだ。
あの人Apple Watchつけてるな。
しかも左利きだ。
だからなんだという話だ。
けれどもApple Watchは欲しいし、左利きはなぜか羨ましい。
ある意味前者も後者も神に与えられし神器だ。
その二つを手に入れた上で、彼女はこの喫茶店で彼にキスをしている。
彼らの隣ではパチンコ屋っぽい制服をきた若いお兄さんが、私服姿の猫背の男性に対して恐らく面接をしている。
双方ともに動じることがないので、席ごとに世界観が壊れることがない。
この場合、メンタルが強強なのはどちらの席側なのだろうか。
いずれにしても最も不快でいますぐやめてほしかったのは、そのパチンコ屋っぽいお兄さんの面接時の明らかに劇団員丸出しの気持ち悪いトーンであった。