4月3日から新年度が始まるにも関わらず、適当な理由をつけて会社に行かずに家でレッスルマニアを観ているうちに上司の異動が決まってしまった。
何も知らずにゆっくりと身支度をして会社に行くと、先輩社員である橋本が「というわけで悪いんだけどまた送別会の幹事をやってくれる?」と言ってくる。
なんなのか検討もつかずに「え?また誰か異動するんですか」と尋ねると、「え?情報知らないの君だけだよ」と呆れられてしまった。
そもそも4月人事が4月に入ってから知らされるわけがないので、先月末頃のミーティングで「まだ異動者が出るかもしれずわかりませんが・・・」なんて言いながら翌年度の展望を語っていたときには内心では異動を知り、自身がそこにいないのがわかっていたことになる。
心底、余計なこと言わなくてよかった・・・と思った。
私が行っている会社は辞令が交付するその瞬間まで徹底的に内緒にしなくてはならない謎の機密性があるため、昨日まで一緒に仕事をしていた人間には翌日には地方にいる、なんてことはざらだ。
しかしながら当人はその情報を開示できないため、前述の上司のように来年はそこにいないにも関わらず、「来年も一緒に頑張りましょうね」と平気な顔で言わなくてはならない。
隠すほうはもちろんだが、隠されてそう言われていたこちら側も非常に不愉快な気分になる。
同時に、ああ余計な相談だったりなんか熱いこと言わなくてよかったとホッとする。
風通しのよい職場、なんで報告相談ができる職場を目指すと当たり前のように役員は言うが、不思議なもので全てが逆に言い出しにくい職場作りを推奨しているようにさえ思えてならない。
「マジで内示でてから異動隠すのほんとやめたほうが良いと思うんですよこの会社。なんで異動が決まってる人間に来期の目標述べなきゃならないんですかね」
それを聞いた橋本は「まあまあ」と私を嗜めた。
ああ。もはやこういう苦言なり愚痴なりを吐くことすらよくないのだ。この組織は。
もうどうだって良い。
ただただ波風を立てず、ゆっくりとマイペースに生活していくのがスマートであり、最も楽だ。
きっと誰かが私の代わりに苦言を呈してくれるだろう。
「ちなみに正式に発表になるけど、テレワークは原則禁止になったから」
嘘だと言ってくれ。
上司異動よりそっちのほうがえぐい。
サボれないじゃないか。
どうやらコロナは、終わりを迎えたようだ。