いつか僕らの上をスレスレに、通り過ぎてったあの飛行機を
不思議なくらいに覚えている。意味もないのになぜか。
2006年、第一回WBCの初戦、日本vsアメリカ。
試合終盤同点の局面で岩村がやや浅めのレフトフライ。
これを受けて三塁ランナー西岡がタッチアップ。
好スタートで見事な勝ち越し点を獲得した。
かに思えた。
「西岡のタッチアップ時、離塁が早かったのではないか?」
歓喜に沸く日本側ベンチの映像の外で行われたアメリカ側の抗議。
それからすぐに主審ボブ・デービットソンは全ての判定を覆す。
“帰塁失敗によるダブルプレーチェンジ“
後にアメリカメディアさえも「間違いである」と認めた“世紀の大誤審”の瞬間だった。
誰がどう見ても問題のないプレーどころか、最も近くにいた二塁塁審のセーフの判定すらも無視し、デービッドソンはアウトの宣告をしたのだ。
あの時私は高校生で、近所の美容室で髪の毛を切っている途中だったが、その光景が流れた瞬間、店内で「ええええ!?」という声が大きく上がっていたのを覚えている。
怒りと呆れが交互に訪れては絡み合って拡散されていくような、異様な空気感だった。
「これがヒューマンエラーであれば大誤審。アメリカ人主審による意図的なアメリカ贔屓裁定であれば野球界への冒涜です」
怒りに満ちた解説者が絞り出すようにそう吐き捨てていた。
この数日後、1次R突破のかかった大事なアメリカVSメキシコにおいて、また事件は起きていた。
誰がどうみてもメキシコ側のホームランを、同じくデービッドソンがフェンス直撃の2塁打としたのだ。
大会で二度も起きる世紀の大誤審。あるいは野球界への冒涜。
メキシコベンチで選手達が、それがホームランであったという何よりの証拠たるボールについたポールの黄色いインクを審判時やカメラに向かい提示する姿は、この大会の象徴的なシーンのひとつだ。
「野球発祥国たる、アメリカにもっと敬意を示すべきだ」
デービッドソンはそう言い、最後まで誤りも贔屓も認めなかった。
あれから17年。
奇しくも第5回WBC準決勝で対戦した日本とメキシコの試合は、球史に残る素晴らしい試合だった。
両チームの意地が交錯する試合は、それまで不振に喘いだ日本の主砲村上による、あまりにもドラマチックなサヨナラ2点タイムリーツーベースで幕を閉じた。
「日本は前進した。しかしこれは野球界の勝利だ」
メキシコの監督は試合後に語る。
17年前、1次R敗退寸前の日本が生き残るためには、既に脱落が決定しているメキシコが2点以上を取りアメリカに勝たなければならなかった。
上述の事情から、前日練習を行わず、ディズニーワールドで観光を楽しみモチベーションも低かったメキシコチームだったが、その大誤審を受けチームが発奮。絶対にアメリカを勝たせまいと爆発し、見事2点以上を獲得し撃破。
奇跡の1次R突破を果たした日本はこの大会、見事優勝し初代王者へ輝く。
勝手で都合の良い解釈をすれば、2023年の日本VSメキシコの素晴らしい一戦は、17年前に野球界の威厳を守ったメキシコに対する、日本なりの恩返しなのではなかろうか。
昨日、そのアメリカを決勝で下し、日本は3度目のベースボール世界王者へと返り咲いた。
そこにボブ・デービッドソンはいなかった。
前日までの両チームの試合模様とはうってかわり、双方投手陣の「1点も与えてなるものか」という気迫が前面に溢れ出た、
緊張感あふれるスリリングな試合は、これぞ野球!と叫びたくなるような名勝負だった。
9回2死一点差。
メジャー最強打者トラウトと世界の二刀流大谷によるチームメイト、友人同士による魂の6球超真っ向勝負を皆さんは目にしただろうか。
ホームランか、三振か。
観ている人間がそれを感じ取ってしまうほどの力と力のぶつかり合いは、画面を通しても最速でグっと曲がるのが見える大谷の高速スライダーをトラウトが空振りし、幕を閉じることとなる。
「ドラマチックだなあ」
漏らすように呟いた解説古田敦也の一言が全てを表していた。
今大会は本当に素晴らしい大会でした。
どの出場国も敬意を持ち、どんなに点差があっても諦めず戦う姿に我々は何度も心を揺さぶられた。
国としての勝利は最低条件だったのかもしれない。
けれどもこうも思いたい。
「それ以上に野球人として全員、誇り高く戦ったのだ」と。
そしてこの誇りが、これを目撃した少年たちに引き継がれていく。
リスペクト。レガシー。
3年後の第6回WBCが、待ち遠しくてたまらない。
不思議なくらいに覚えている。意味もないのになぜか。
2006年、第一回WBCの初戦、日本vsアメリカ。
試合終盤同点の局面で岩村がやや浅めのレフトフライ。
これを受けて三塁ランナー西岡がタッチアップ。
好スタートで見事な勝ち越し点を獲得した。
かに思えた。
「西岡のタッチアップ時、離塁が早かったのではないか?」
歓喜に沸く日本側ベンチの映像の外で行われたアメリカ側の抗議。
それからすぐに主審ボブ・デービットソンは全ての判定を覆す。
“帰塁失敗によるダブルプレーチェンジ“
後にアメリカメディアさえも「間違いである」と認めた“世紀の大誤審”の瞬間だった。
誰がどう見ても問題のないプレーどころか、最も近くにいた二塁塁審のセーフの判定すらも無視し、デービッドソンはアウトの宣告をしたのだ。
あの時私は高校生で、近所の美容室で髪の毛を切っている途中だったが、その光景が流れた瞬間、店内で「ええええ!?」という声が大きく上がっていたのを覚えている。
怒りと呆れが交互に訪れては絡み合って拡散されていくような、異様な空気感だった。
「これがヒューマンエラーであれば大誤審。アメリカ人主審による意図的なアメリカ贔屓裁定であれば野球界への冒涜です」
怒りに満ちた解説者が絞り出すようにそう吐き捨てていた。
この数日後、1次R突破のかかった大事なアメリカVSメキシコにおいて、また事件は起きていた。
誰がどうみてもメキシコ側のホームランを、同じくデービッドソンがフェンス直撃の2塁打としたのだ。
大会で二度も起きる世紀の大誤審。あるいは野球界への冒涜。
メキシコベンチで選手達が、それがホームランであったという何よりの証拠たるボールについたポールの黄色いインクを審判時やカメラに向かい提示する姿は、この大会の象徴的なシーンのひとつだ。
「野球発祥国たる、アメリカにもっと敬意を示すべきだ」
デービッドソンはそう言い、最後まで誤りも贔屓も認めなかった。
あれから17年。
奇しくも第5回WBC準決勝で対戦した日本とメキシコの試合は、球史に残る素晴らしい試合だった。
両チームの意地が交錯する試合は、それまで不振に喘いだ日本の主砲村上による、あまりにもドラマチックなサヨナラ2点タイムリーツーベースで幕を閉じた。
「日本は前進した。しかしこれは野球界の勝利だ」
メキシコの監督は試合後に語る。
17年前、1次R敗退寸前の日本が生き残るためには、既に脱落が決定しているメキシコが2点以上を取りアメリカに勝たなければならなかった。
上述の事情から、前日練習を行わず、ディズニーワールドで観光を楽しみモチベーションも低かったメキシコチームだったが、その大誤審を受けチームが発奮。絶対にアメリカを勝たせまいと爆発し、見事2点以上を獲得し撃破。
奇跡の1次R突破を果たした日本はこの大会、見事優勝し初代王者へ輝く。
勝手で都合の良い解釈をすれば、2023年の日本VSメキシコの素晴らしい一戦は、17年前に野球界の威厳を守ったメキシコに対する、日本なりの恩返しなのではなかろうか。
昨日、そのアメリカを決勝で下し、日本は3度目のベースボール世界王者へと返り咲いた。
そこにボブ・デービッドソンはいなかった。
前日までの両チームの試合模様とはうってかわり、双方投手陣の「1点も与えてなるものか」という気迫が前面に溢れ出た、
緊張感あふれるスリリングな試合は、これぞ野球!と叫びたくなるような名勝負だった。
9回2死一点差。
メジャー最強打者トラウトと世界の二刀流大谷によるチームメイト、友人同士による魂の6球超真っ向勝負を皆さんは目にしただろうか。
ホームランか、三振か。
観ている人間がそれを感じ取ってしまうほどの力と力のぶつかり合いは、画面を通しても最速でグっと曲がるのが見える大谷の高速スライダーをトラウトが空振りし、幕を閉じることとなる。
「ドラマチックだなあ」
漏らすように呟いた解説古田敦也の一言が全てを表していた。
今大会は本当に素晴らしい大会でした。
どの出場国も敬意を持ち、どんなに点差があっても諦めず戦う姿に我々は何度も心を揺さぶられた。
国としての勝利は最低条件だったのかもしれない。
けれどもこうも思いたい。
「それ以上に野球人として全員、誇り高く戦ったのだ」と。
そしてこの誇りが、これを目撃した少年たちに引き継がれていく。
リスペクト。レガシー。
3年後の第6回WBCが、待ち遠しくてたまらない。