「この写真の人なんだけどどうかな?」

 

その質問は質問ではなかった。

 

なぜならば間違いなく、返してほしい答えが「いいなあ。羨ましいなあ」の一択のみだからだ。

 

「"ちょっと化粧薄いけど“って言って送ってきたんだよこの人」

 

「・・・へー。いいなあ。羨ましいなあ」

 

「でもちょっとブスだよね?」

 

「いや・・・なんか性欲強そうでエロそうだなって」

 

「だといいんだけどなあ」

 

 

トータルさんは週に3~4日ラインしてくる。

 

そのほとんどが自身がマッチングアプリでゲットした女の講評や相談であり、あるいは自身が考えたお笑いのネタやブログのネタだ。

 

トータルさんとは知り合ってから5年以上になる。

 

その5年間ずっと私はわけのわからないオバサンの画像とまったく面白くないお笑いネタを浴びせ続けているのだ。

 

このストレスはなかなかひどい。

 

 

だが裏を返すと、私も同じように無意味なラインや写真を、仲のよくなりたい女の子に怒涛に送ってしまっているのだから、彼女達も相応のストレスを感じているということだ。

 

トータルさんはたとえ私がへこんでいようが悲しんでいようが疲れていようが関係なく自分の話をしてくる。

 

そして私も女の子達がへこんでいようが悲しんでいようが疲れていようが関係なく、好き放題ラインをぶつけてしまっている。

 

 

 

「ぶっちゃけどう?ブスかな?」

 

 

写真の女は紛れもなくブスだった。

 

明らかに初老であり、化粧をあまりしていないというよりは老け込みがひどく、また、驚くくらいなで肩。

 

数年前に家を借りたときの不動産屋の男性は初老だったが、写真の女はもはや彼が女装しているのではないかと疑うくらい男顔だった。

 

 

「ちなみに何歳くらいなんですかこの人」

 

「52」

 

 

 

52・・・。よくやるよ。

 

わざわざマッチングアプリして52と遊ぶってどういうことよ。

 

トータルさんは自分に自信があるタイプだ。

 

そのせいかリスクを恐れず本当に無加工の自分の顔画像をプロフィールにのっけている。

彼は自分から女の子へアプローチを仕掛けていく空爆型ではなく、ひたすら自分の画像を気に入ってくれる人を待つ地引網型だ。

 

とはいえ彼も40。ブサイクではないにせよ決してイケメンではないため

若い女の子達は皆若い男たちとマッチしにいく。

 

そうなるとトータルさんのところに集まる女性は、そのほとんどが50オーバーなのだ。

 

「いいなあ。綺麗な女の人と遊べて」

 

「そうかあ。綺麗か。タイプじゃないけどデートしてみるわ。レポするね」

 

 

レポすな。

 

いつものパターンでいけば、喫茶店で会ってお茶しながら会話したものの、あまり合わず何もせずに帰ってきた、だ。

 

今回もきっとそうなるだろう。

 

 

切りたいなあ、縁。

 

 

しかしそんなことができるわけもなく、「楽しみです」と静かに返答したのだった。