「あのさあ、高いよ。一人当たり4,000円って。ピンハネしてようとしてる?」

 

「いえ・・・食事代が飲み放題つきで1人3,500円で歓送迎対象者分の会費を他全員で補うために500円プラスしています」

 

「高いよ。上長陣は多く出さないの?それ頼んだ?」

 

「上長方には個別でプラスアルファの金額をお願いしてありますが、その分で送別者への粗品を購入する予定です」

 

「なら食事代自体が高いよ。3,500円って。1,800円くらいを予算で考えなきゃダメだよ。みんな苦しいんだからさ」

 

豊田は吐き捨てるようにそう言い、自席へ戻っていった。

 

 

 

お前もう来んな。

 

 

 

3月。また出会いと別れの季節がやってきた。

 

私の所属する課もそれに漏れず、退職者こそないものの、転勤者が出ることになった。

 

「有馬くん。そういうことだからまた送別会の幹事頼むね」

 

「・・・僕もう1年半くらいずっと幹事やってるんですが」

 

「いまの若い人はさ、幹事やってね!もハラスメントになるんだってさ。有馬くんどう思う?」

 

「嫌な時代ですね」

 

「でしょ?だから有馬くん、今回だけ。お願い」

 

 

こういう頼まれ方をしてしまうと断ることができない。

 

 

さすがに1年半も何かイベントがある度に幹事をやってきたし、いまよりも新型コロナウイルスがひどい状況で制限の多い中で会の取り仕切りもやっているので、

正直そこまで苦労することはない。

 

段取りも出欠席も頑張れば1~2日程度ですべて準備できる。

言うほど労力は割かれない。

 

 

ただ、経験者の皆様ならよくお分かりになるだろう。

 

 

必ず何かしら文句言ってくる奴がいるのだ。

 

この対応が非常に面倒くさい。

 

 

冒頭の豊田は最たる例だ。

 

 

この55歳のオッサンは毎回毎回高い高いと文句をつけてくる。

 

「きみはわからないと思うけど、家庭持ちはみんなお小遣い制だから。少しでも安くすることが気遣いだよ」

 

そう言うが豊田自身は独身だ。×もない独身だ。

 

だいたい1,800円で飲み放題なんて成立するわけがない。大学生のコンパのコストをベースにしているあたりいかに希薄な人間関係のまま人生を送ってきたのかがわかる。

 

「それと、会場は座敷じゃないよね?」

 

「全席テーブルです」

 

前回はさんざんぱら文句をつけてようやく決めた会場が、座敷席だった。

 

豊田と仲の良い高見が「腰が悪いから俺座れないんだけど」と会場についてから言ってきた。

 

高見は60歳だ。

 

この世代の人間こそが若い頃は“どうしようもない若者”と嫌悪され、現在は“どうしようもない老害”と嫌悪されている。

こいつらこそが日本をダメにしている癌のような連中なのだが、そんなことを当人達は気にすることなく、いや、むしろ擦り寄ってこないモノ全てが悪いという発想で文句をたれる。

 

時代という言葉で括るのすらおこがましい。文句をただ言いたいだけなのだから。

 

 

しかしかと言って小心者の私では彼らに何も言い返すことはできない。

 

「申し訳ありません。次は気をつけます」

 

そう言って次がないことを祈るだけなのだ。

 

 

 

「ありがとういつも。忙しいのに幹事までやってくれて。本当に嬉しいよ」

 

 

送別者である田村は私に感謝を述べた。

 

この会社は数年首都圏で仕事をしてその後地方へ数年転勤し、また首都圏に戻ってくるのが出世ルートだ。

 

田村もそれに乗った。

 

反面私や高見、豊田みたいな連中は到底出世できないのでずっと東京にいる。

 

 

彼らの晩年を看取るのは、なんだかんだ私なのではないか。

 

そんな気すらしてくるのであった。