「お前も肉焼くの手伝えよ・・・」


大木先輩が半ば呆れたように苦言を呈した。


 私は日陰に座り込みながら、目の前でパスタを炒めるオジサンを見ていた。


あのパスタをあのオッサンは、いまこうして何もしていない私にも分けてくれるのだろうか。


というよりはなぜ、あのオッサンはBBQで皆と肉を焼かず、持参した小さな網焼きセットでパスタを焼いているのだろうか。


 『トマトソースを絡めてミートソースにするって言ってたよ』


「へー。あの人、僕が話しかけても無視するんすよね。なんでですかね」


『いつも誰に対してもああいう感じらしいよ』


「パスタもらえたりするんですかね」


『無理だな』


「ユイさん、あの人と知り合いなんですか?」


『前の時もいたんだよあの人』


「へー常連か」


『で、あそこの(仮)子ちゃんと付き合ってる』


(仮)子ちゃん?」


『名前明かしたくないんだって。だから(仮)子』


「ずいぶん若い子ですけど。僕より全然年下なんじゃ・・・だいぶオッサンですよあいつ」


『関係性があるんだよ』


「信頼関係みたいなもんですか?」


『主従関係だな』


「なんですそれ」


『あの人めっちゃ(仮)子ちゃん調教してネットにアップしてるんだよ』


「うそだあ。しこしこパスタ焼いてますよ」


『ほら』


「・・・」


『どう?』


「めちゃくちゃ調教されてるじゃないっすか!風呂場で縛られてますよあの女!」


『主従関係だから』


「はー。そりゃ名前も(仮)子になるわ」


『キミ面白いね』


「そうですか?」


『っていうかBBQ手伝いなよw大木くん頑張ってるよ』


「大木さんは頑張ってる姿を見られるのが好きなんですよ」


『キミは?』


「僕はBBQが嫌いなんです」


『じゃあなんでBBQ参加してんの?』


「いやBBQは嫌いなんですけど女の子が好きなんですよ」


『キミ面白いね』


「そうですか?」


『出会いうまくいきそう?』


「いやあなんとかなるんじゃないっすか。BBQ好きな女なんかバカしかいないでしょ?」


『ちょっと!それじゃあ私もバカってことになるんだけど!』


「僕に話しかけてる時点でまんまとバカですよ」


『キミ面白いね』


「そうですかね?」


『このあと池袋のエアガン専門店に行くんだけど。一緒に行く?』


「エアガンですか?」


『そう。エアガンを見たり撃ったりしながら酒飲むバーだよ』


「えー!めっちゃ面白そうなんですけど」


『ミワさんと一緒に行くんだけど』


「ミワさん?」


『ほらあそこの・・・』


「え・・・デカ・・・あの全体的にやたらデカい人ですか?」


『おい』


「すみません」


『ミワさん嫌だ?』


「いや。めちゃくちゃタイプです」


『キミ面白いね』


「でもまだBBQ途中ですよ?」


『抜けてしまおう』


「えー。パスタ食べたいんですけど。パスタ食うより楽しいことあります?」


『あると思うよ?』


「二人だったらいいですよー」


『じゃあ二人で行こう』


「え?いいんですか?」


『いいよー』


「興奮してしまうようなことあります?」


『うーんどうだろうね』


「僕、童貞なんで優しくしてもらえますかね?」


『ビシビシいくよw』




×××




このあと私はめちゃくちゃエアガンで撃たれた。この女に。


そこに後ろ向きに立ってと言われ、従うとめちゃくちゃエアガンで撃たれた。


2発目までは戸惑いに近かったが3発目からは悲鳴をあげ、以降は恐怖に震えた。


彼女は次から次へと銃器を持ち替え、私を撃った。


エロいどころではなかった。


めちゃくちゃサイコパスだった。


彼女はケラケラ笑っていた。


店員もケラケラ笑っていた。



『キミ面白いね』



彼女はそう言って、ベレッタの引き金に指をかけた。