ちょうど22年前の今日、私は家の近くのセブンイレブンで、小学校の同級生だった赤荻さんにバレンタインデーの相談をしていた。

「とにかくモテたくて仕方ないんだ。彼女が欲しい。彼女からバレンタインチョコをもらいたい。相手なんて誰でもいいんだ」


すると赤荻さんは言うのだ。

『誰でもいいなら紹介できる子いるよ?誰とでもキスする子。その子も誰でもいいんだって』


それをきいた中学生の私は大いに戸惑った。

もちろんその頃私は童貞で、キスができるという可能性は大いに魅力的だった。


けれども、誰とでもキスする子、であることが引っかかってしまった。


一度しかないファーストキスをそんな誰とでもキスするような子に捧げるの嫌だな…。

ついさっきまでもうこの際誰だって構わないから、とバットを振り回していたことを棚にあげてすっかり賢者モード。


「ごめん。もうちょっと自分で頑張ってみるよ」




令和5年の現在、そのキス1000人斬り子(仮)ちゃんは元気にしているのだろうか。

彼女の顔どころか名前すら知らないが、その誰とでもキスをする女の子の印象は、いまでも私の中で根強い。


誰にとっても最愛がいるように、彼女もまたどこかの誰かにとっての最愛になっているのだろうか。


一方で赤荻さんは幸せそうだ。


人生は一度しかないからとにかく楽しまないと、と言っていた赤荻さんは中学1年生からギャルになっていたし、年上の高校生と付き合っていたし、自分が高校生になると私の幼馴染の内藤くんを好きだと言い、彼のバイトする日焼けサロンで肌を焼いては、『裸みられちゃったんだー』と嬉しそうに自慢していた。


そんな彼女もいまや二児の母だ。


あの頃内藤くんが好きだと言いながらその彼の幼馴染たる私に一切の恋愛相談がなかったのは、私は彼女の人生にとって主要人物どころか脇役やエキストラですらなかったということだろう。

即ち、彼女にとって私という男はつまらない時間でしかなかったということだ。


そりゃ内藤くんは良い。
高校の時に日サロでバイトしてたらクラスの子が焼きに来てて裸見ちゃいましたー!なんてめちゃくちゃ良い人生じゃないか。


けどね赤荻さん。俺は内藤くんと4Pしたことがあるぜ。


このエピソード一本だけで、いまならちゃんと赤荻さんの舞台にあがることができると思うよ。

まあもうそんなものないんだけどね。


ちなみに赤荻さんには10年くらい前に、「株、はじめます」とか「実家抵当に入れます」とか「脱サラしてお笑い芸人になります」などと全く意味のない糞LINEを送り続け、以来一切連絡やリアクションがなくなってしまった。


かまってほしかったのだ。


申し訳ない、の一言に尽きる。