5年振りにキャバクラに行った。


以前日記にしたことがあるが、私は社会人なりたてから20代後半までとにかくやたらとキャバクラに行っていた。


それは前職が接待接待接待で仕事を取るというあまりにもいまの時代に逆行した会社だったこともあるし、もちろん私も女の子に自分の話をお金さえ払えば無条件に訊いてもらえる環境が好きで仕方なかったからだ。


そのせいもあってか、客としてからスタートしてお店のキャバクラ嬢と付き合うまでに至ったことがあり、その実績はいまでも私の隠れたステータスであると誇っている。


だがどこかの瞬間から急に、キャバクラ熱が冷めてしまった。


徐々に減っていったというよりは急にだ。


飽きた、というよりは毎回毎回同じセリフを言い、顔色を見たり、ふざけたりして、時には身を削りながら結局は得るものがほとんどない不毛さに、完全に諦めがついたとでもういうべきだろう。



キャバクラに行く金があるなら、ちょっと高級で美味しいご飯食べるわ、といういわば当り前の感覚に戻っだのだ。







この日はじめて同僚の山本くんと飲んだ。


飲み仲間の伊藤さんが「山本も飲みたがってるんで」ということを私に伝えてきたので、それはぜひにとOKした形だ。


山本くんは中途入社だがかなり仕事ができ、営業成績も上位で顔も良い。


どこか住む世界が違うとすら思っていたので、こういう機会はありがたい限りだ。



それが間違いだった。


誤解のないように言っておきたい。

山本くんは素晴らしく良い奴だった。


良い奴すぎた。


山本くんは顔やスタイルに反して、アニメや漫画をよく見たり読んだりするという。


私はもっとも好きな漫画のひとつである灼熱カバディの話をしたのだが、なんと山本くんは私の知識を遙かに上回る灼熱カバディ好きだった。


話もマニアックで愛にあふれている。素晴らしい。



だが、同時に私は感じたのだ。


顔も良い、スタイルも良い、仕事もできる、灼熱カバディの知識も相当深い。



ではいったい私は、この山本くんに何か優っているものがあるだろうか。


無いんじゃないか。


そうして劣等感と嫉妬心に苛まれたところで気づいた。



俺にはキャバクラがあると。



「よし。気分が良い。このあとキャバクラ行きましょう!」



そう言うともはや山本くんのみならず伊藤さんもかなり引いていた。








「キミはもしかして№1かな。この店の」


『うん。下からね。下から№1だよ』


「そ、そうなの?見えないな」


『ありがとう。私でごめんね』



辿りついたキャバクラは本当に場末だった。


よくここで風営法の許可が下りるなというような未開拓地にポツンと出現したキャバクラに、私達3人は吸い込まれるように入店した。



「彼にはとびきり美人をつけてください」



イキリきった私は山本くんを指さし、店員さんへそう伝えた。



数分後、山本くんの席にはとびきりの美人がつき、私の席には対局のルックスがきた。


私は会話につまると「キミ、この店の№1でしょ」とジョークを言う。


それを私についた嬢にかましたところ、なんとも暗い解答を引き出し、彼女を傷つけてしまった。



『彼女がこの店の№1だよ』


指差した先にはたしかにめちゃくちゃな美人とそれに寄り添う50歳くらいの中年男性がいた。


『それで男性のほうが太客。毎日来てるんだよ。本当に毎日。あの人がめちゃくちゃお金使うから、彼女は№1なんだよ』


「へえー。お金持ちなのかな」


『そうでもないみたい。消費者金融から借りてるんだって。なんかそこまでされると、女の子のほうが可哀そうだよね』



金を借りてまで女遊びをするのは大学生かギャンブル狂くらいだと思っていたが、たしかにあのおじさんの目は死んでいた。



「まあとりあえず何か飲みなよ」


『じゃあ一番安いウーロン茶飲んで良い』


「お酒苦手?」


『ううん。でも高いから』


「いいよ別に普通に飲んで。もしお酒が嫌なら言う通りウーロン茶を頼んで、その分お酒と同じ金額で請求してくれればいいよ」


『ほんとに?ほんとにいいの?』


「・・・いいよ」


『もしよかったら指名もいれていい?』


「・・・いいよ」


『私初めて指名もらったかも』




それが本当なのか嘘なのかは私には判断できなかったが、いずれにせよ私は同情していた。


こんなにブスだ。きっと大変なんだろう。


私もとにかくモテない。


なので同じくモテない人をみると、とにかく同情してしまい、気を遣ってしまう。


俺がキミだったら、到底耐えれないよと。



「年齢きいていい?」


『ひかない?』


「ひかないよ」


『46歳なんだ。ガチで』



かなりいってるじゃねえか。


「ちなみにこの店ってみんな何歳くらいなの?」


『ほとんどが20代後半だよ』



なんでそんななかで働いてるんだキミは。経営者なのか実は。



『ごめんね。嫌だよね』


「そ、そんなことないよ」


『ほんと』


「と、としうえ好きだから俺」



結局私は5万円も使ってしまった。





帰り道、山本くんは私に声を荒げた。


「なんで!なんであんな女指名しちゃったんですか!?」


「・・・ほら。酔っ払ってるから俺」


「いやいや!お金もったいないですよ!いくら払ったんですか!?」


「5万・・・」


「たかっ!もったいないですよ!なんでですか!?」


「ノリかなあ。まあ。ノリで」


「ノリっすか!?」


「ノリだね。場面だね」


「それは・・・かっこいいですね」




電車内で山本くんはなぜか私を絶賛した。



理由もわからないし、本当に絶賛してるのかバカにしてるのかも、酩酊した私にはわからなかった。





翌日目覚めると、私に残されていたのは名前をそれで初めて知るキャバクラの領収書と、頭痛だけだった。



不毛。


やはり不毛。



むこう10年は、このような遊びはやめようと思う。