ヴィーガンの動物虐待のプラカード、過激派の主張、デモ、主義。その全てが理解できないことであるし、私は肉を食べる。牛も豚も鳥も。

けれども「動物の生命を奪うな!」と言われてしまうと、それに対する反論が自分の中で出てこない。

たまにこのような矛盾にも満たない違和感のようなものがフッと心に湧き、気持ちが悪くなるときがある。


コロナ禍開幕から丸々3年近くが経とうとしている。

すっかりコロナ前の生活が前時代のように思えるほど、いまの生き方に慣れてきていることを日々実感する。

そしていま、私はこのタイミングでテレワーク中心の生活を始めた。


思い返せば会社は最初からテレワークを推奨していた。

にも関わらず昨年の、それこそ12月迄テレワークをロクに行ってこなかったのは、私の仕事が外回りや客先訪問を必須とする、所謂営業職だからだ。

別にやろうと思えばおそらくテレワークでもどうにかなったのかもしれない。

しかしいざいつものルーチンワークを捨てるとなるとそれに伴うパフォーマンス、ひいては成績の低下に繋がる恐怖があったし、それ以上に周りの同僚達のほとんどがテレワークをせずに変わらず業務に励んでいたため、私1人が家で仕事をしていますとなると冷たい目や陰口に晒されるであろう環境が怖くて仕方なかった。



そのまま2年以上が経過していた。



転機は突然訪れた。


昨年12月のある日、役員が私の所属する支店を訪れ、一部の社員を直々に誘い、飲み会を行った。


総勢20名以上になるだろうか。

店を貸し切り、「日頃を労い、将来の為に意見交換をしたい」と彼らは言っていた。


下は2年目の若手から上は45歳の中堅まで。
役員が直々に「この日空いているか?」と誘い、人数が集まっていった。


私はそこに誘われることも、呼ばれることもなかった。


同じ部署の同僚達が「面倒だなあ、早く切り上げたいな」と愚痴り合うのを横目に見ながら、私は
外出をした。


エレベーターの中で1人になると、ふと思った。



ああ、この会社の将来に、俺という存在は含まれていないんだな、と。



その瞬間、何もかもがどうでもよくなってしまった。


自分で言うのもなんだが、営業成績は常に最上位だ。

少なからず企業の利益に貢献し、また、資格取得などの会社の望む自己啓発も徐々に行なっていた。

わずかばかりだが、将来のプランを描き、出世の可能性に期待もした。



だがそれは全て叶わないことなんだと、私の肩が叩かれないことで、全てを悟ってしまったのだ。


必要とされてないなと。


そこからの私は早かった。


もとから定時で帰ることにしてはいたが、加えて期待値ベースの仕事をやるのをやめた。

周りの目は一気に「最近モチベ低いな」という感じにはなったが、特に気になることはなかった。


もとから私の存在は必要のないものだと自覚すると、案外図太くなるものだ。



年があけて1月4日。

ハードワークを強いられはしたが、その合間で私は上司の席へ向かい、告げた。


「しばらくは週二回出社。週三回はテレワークしようと思います」と。


一瞬怪訝な顔を上司はしたが、さすがにこれをダメだと断るのはハラスメント付近になるとわかっているようで、少しの沈黙のあとこう言った。


「いいけど…それで仕事うまくまわるの?」



「まあなんとかやってみます」




こうして私はテレワーク生活を始めた。


家での仕事なんて集中さえすれば、だいたい1日の仕事は午前中で終わってしまう。


その後はただひたすらダラダラとする。

お菓子を食べたり、テレビをみたり、ゲームをしたり。

合間合間で電話にでたりメールを打ったりはするが、なんなら寝てしまうこともあるしシャワーを浴びることもある。


とても幸せな生活だ。


昨日は喉が渇いたのでジュースでも飲もうと、スエットのまま外出し、最寄りの自販機前で老人に不愉快な表情を向けられ、そこではじめて自分がマスクをしていないことに気付いた。


まいったなと頭をかきながら、数本買った飲み物のうちの缶コーヒーを手にとり、飲みながらダラダラ帰る。


今頃会社では誰かが私をお気楽な給料泥棒と呼んでいるのだろう。



大学生で初めて将来を考えた瞬間から、地獄のような新入社員生活を経て現在に至るまで、本当に15年近くもずっと、楽な仕事がしたい、家でダラダラするような楽な仕事がしたい、やりがいなんていらないからただただ点呼を受けるだけですむような、誰とも関わらない仕事に就きたいと思ってきた。


現実としてそんな仕事はこの世界に何ひとつ存在しないことはすぐにわかったが、この現状だ。


期せずして、ようやくあの頃からの夢を叶えたことになる。



私はとても幸せだ。


だが、こうじゃないような気もする。



何より、少しだけ悔しく、屈辱だ。


こんなに腐った自分は、夢に入っていなかったはずだ。









どうにもできないであろう。




恐らく私の人生は、このままずーっと曇り空だ