やってしまった。
以前から私は総務課の井元さんに社内で好意を抱いていたわけだが、その井元さんが昼休みに給湯室でイヤホンをしながら片付けをしていた。
井元さんはBUMP OF CHICKENが好きであり、RADWIMPSが好きだ。
これは私も全く同じなので、すなわち井元さんと私の音楽の趣味は似ている。
給湯室でイヤホンをしている女性に話しかけるのは本来なかなか難しい。下手したら無視されてしまうので避けたいことではあったが、相手は井元さんだ。
もしかしたらより仲良くなれるかもしれない。
そう考えて私は思いきって話しかけてみた。
何を聴いているのですか?と。
『米津玄師です』
米津玄師…誰もがご存知アーティストだが、私は代表曲しか知らず、正直詳しくなかった。
『聴いたりしますか?米津』
「も、もちろん。結構好きですよ。どの曲聴いてるんです?」
『いまはピースサイン聴いてました』
ピースサイン…絶妙に知らない。
しかし私は井元さんの音楽の趣味に全部ぴったりあってますと日頃からアピールしてしまっている。
さすがにこれを知らないとは言えない。
だが知らないのだ。
なので私は話を逸らすことにした。
「そういえば僕ね、この間ジグザグのライブ行ったんです。知ってます?ジグザグ」
『いや知らないです。好きなんですか?』
「いやね井元さん、ほんといいんですよジグザグ。なんて言うのかな。見かけは確かにこれ聴くのかよマジかよってなるんですけど聴けば聴くほど中毒性があるっていうか頭の中から離れないんですメロディーがすごく音楽性もインスタライブでベースの竜矢さんがバンプやラッドって言ってたからやっぱり僕らの趣味ど真ん中っていうか歌詞とかは全然中身ないやつとかもあるんですけどそれがまた良くてなんていうか昔のラッドがとにかくふざけて思い浮かんだ曲ふざけながらがんがんだしてた頃っていうかとにかく良いんですよ」
『は、はい』
「あ…いや…その騙されたと思って聴いてみてください」
『わ、わかりました。聴いてみます』
またやってしまった…
昔からよくあることだが、またしても周りをみずに少ない時間で伝えたい情報量をこれでもかと詰め込んだ結果、ブロロロロロロと超スピードでキモいトークをぶちかましてしまった。
明らかに井元さんはひいていた…。
なんで俺はいつもこうなんだ。
席に戻り自己嫌悪になりならがら、私はYouTubeで米津玄師のピースサインをかけてみた。
めちゃくちゃ良い曲じゃねえか…
ええ…これ聴いてるの邪魔してまで俺はブロロロロロしちゃったわけえ?うへー
○
夕方、外出しようと廊下へ出ると、またしても井元さんとすれ違った。
『さっそく聴きましたジグザグ』
「どうでした」
『まだ聴き始めたばかりなので…』
「…そうですよね。暇な時にゆっくり聴いてみてください」
そう言って会釈をして私はエレベーターに乗った。
確実にノッテいなかった。
ああ…なんで俺話しかけちゃったんだろう。
「でもピースサインはめちゃくちゃ…死ぬほど良い曲でした」
エレベーターの中で、私は一人きりで鏡の中にうつる自分にそう話しかけた。
頭の中でメロディが流れる。
もう一度遠くへ行け、遠くへ行けと。
そうだね。このまま消えてなくなりたいよ。
鏡に向かいそうつぶやいた私は、エレベーターの扉が開くと表情を引き締め、仕事へと向かったのだった。
以前から私は総務課の井元さんに社内で好意を抱いていたわけだが、その井元さんが昼休みに給湯室でイヤホンをしながら片付けをしていた。
井元さんはBUMP OF CHICKENが好きであり、RADWIMPSが好きだ。
これは私も全く同じなので、すなわち井元さんと私の音楽の趣味は似ている。
給湯室でイヤホンをしている女性に話しかけるのは本来なかなか難しい。下手したら無視されてしまうので避けたいことではあったが、相手は井元さんだ。
もしかしたらより仲良くなれるかもしれない。
そう考えて私は思いきって話しかけてみた。
何を聴いているのですか?と。
『米津玄師です』
米津玄師…誰もがご存知アーティストだが、私は代表曲しか知らず、正直詳しくなかった。
『聴いたりしますか?米津』
「も、もちろん。結構好きですよ。どの曲聴いてるんです?」
『いまはピースサイン聴いてました』
ピースサイン…絶妙に知らない。
しかし私は井元さんの音楽の趣味に全部ぴったりあってますと日頃からアピールしてしまっている。
さすがにこれを知らないとは言えない。
だが知らないのだ。
なので私は話を逸らすことにした。
「そういえば僕ね、この間ジグザグのライブ行ったんです。知ってます?ジグザグ」
『いや知らないです。好きなんですか?』
「いやね井元さん、ほんといいんですよジグザグ。なんて言うのかな。見かけは確かにこれ聴くのかよマジかよってなるんですけど聴けば聴くほど中毒性があるっていうか頭の中から離れないんですメロディーがすごく音楽性もインスタライブでベースの竜矢さんがバンプやラッドって言ってたからやっぱり僕らの趣味ど真ん中っていうか歌詞とかは全然中身ないやつとかもあるんですけどそれがまた良くてなんていうか昔のラッドがとにかくふざけて思い浮かんだ曲ふざけながらがんがんだしてた頃っていうかとにかく良いんですよ」
『は、はい』
「あ…いや…その騙されたと思って聴いてみてください」
『わ、わかりました。聴いてみます』
またやってしまった…
昔からよくあることだが、またしても周りをみずに少ない時間で伝えたい情報量をこれでもかと詰め込んだ結果、ブロロロロロロと超スピードでキモいトークをぶちかましてしまった。
明らかに井元さんはひいていた…。
なんで俺はいつもこうなんだ。
席に戻り自己嫌悪になりならがら、私はYouTubeで米津玄師のピースサインをかけてみた。
めちゃくちゃ良い曲じゃねえか…
ええ…これ聴いてるの邪魔してまで俺はブロロロロロしちゃったわけえ?うへー
○
夕方、外出しようと廊下へ出ると、またしても井元さんとすれ違った。
『さっそく聴きましたジグザグ』
「どうでした」
『まだ聴き始めたばかりなので…』
「…そうですよね。暇な時にゆっくり聴いてみてください」
そう言って会釈をして私はエレベーターに乗った。
確実にノッテいなかった。
ああ…なんで俺話しかけちゃったんだろう。
「でもピースサインはめちゃくちゃ…死ぬほど良い曲でした」
エレベーターの中で、私は一人きりで鏡の中にうつる自分にそう話しかけた。
頭の中でメロディが流れる。
もう一度遠くへ行け、遠くへ行けと。
そうだね。このまま消えてなくなりたいよ。
鏡に向かいそうつぶやいた私は、エレベーターの扉が開くと表情を引き締め、仕事へと向かったのだった。