「これは僕の友人の話なんですけど」

豊田は真剣な顔でこう切り出した。


「僕の友達の…そうだな。仮にA君としますね。小学生の頃、A君には鈴木くんっていうとても仲の良い友達がいたんです」

「うん」

「ある日の帰り道、A君はいつものように鈴木くんと二人で帰る道すがら、ギャグや冗談を言ったんです。それを聞いた鈴木くんは腹を抱えながら大笑いしたんです」

「それじゃよっぽど面白かったんだ」

「するとですよ。あまりに笑いすぎたせいか、突然鈴木くんの目玉がボロッと…こぼれ落ちたそうなんです」


「ええ…」


「まあ落ちたって言うよりは…垂れ下がった?みたいな感じで。神経みたいなのは繋がったままなんで」

「めちゃくちゃグロテスクじゃん」

「A君はあまりの出来事に絶句。声もかけられずに呆然としていると、鈴木くんはなんと何事もなかったかのように目玉をもとに戻し、そのままスタスタと歩き始めたんです」

「それで?」

「あわててA君は追いかけて、鈴木くんに"ねえ大丈夫?いまなんか…目玉とれてたけど"と尋ねたんです。でも鈴木くんは"ああ…うん…"と気のない返事を繰り返すだけでまともに答えようとしてくれない」

「うん」

「A君は不思議でしょうがなかったみたいなんですけど、これ以上追求することができず、その日は結局そのまま二人とも家に帰ったそうなんです。これだけでも変なな話なんですけど、実はこの話はここからが更に奇妙なんです」

「へえ」

「翌日A君がいつものように学校に行くと、鈴木くんが来ていない。昨日のこともあって心配なので、A君は先生に尋ねたんです。"鈴木くんは今日休みなの?"って」

「で、先生は?」

「"鈴木?誰それ?そんな子はいない"って。いやいやいやいや!何言ってんの先生?A君は狼狽えながらもそんなはずないだろってなってクラスや学年中の同級生にきいてみたんです。鈴木くんは?って」

「そしたら?」

「"鈴木なんて名前の奴は、この学校にはいないよ"みんなそう言うんです。みんな同じ答え。そんな子は知らないよ、って」



「あートヨぴーさ、懐かしいよそれ」

「??何がですか?」


「有名な話だよ。都市伝説。"消えた友達"ね。もう10年以上前かな?ダウンタウン松本の番組でお笑い芸人の中山功太が話してたよ。テレビ観てない?」


「大学の頃からテレビは一切観てないんで知りませんでした。なんだ。元ネタあったのか」


「まあ中山功太が都市伝説をさも自分の話のように語っているのか、中山功太の話が都市伝説になったのかはわからないけどね」


「でもまあそういうことです」


「何が?」


「友達がいない、なんて悩みはしょーもないですよ。そもそもその友達が存在するって証明できます?証明できないものは、無くてもいいんですよ」


「この話の味噌は、その友達が空想かどうかじゃなくて、もしかしたらパラレルワールドへ飛んだんじゃないかってとこなんだけど…」


「いずれにせよです。一緒にやりませんか?僕と仕事」


「嫌だよ」


「なんでです?」

「だってトヨぴー、これ思い切りマルチだよね?」


「違います。やってみればわかりますよ」


「やりたくないよ」

「やってみないことには、どの仕事も務まりませんよ?」


「いやたしかに俺はいまの仕事辞めたいよ?でもこれはマルチ商法の誘いじゃないか」

「マルチじゃないですから!」


「先行投資すんでしょ?知り合い誘うんでしょ?」


「それくらいしないとどの仕事もできませんて」


「あのね。キミね。大学の時サークルで俺の陰口ガンガン言ってたよね?後輩達に"あいつ面倒くさいから"とか"シカトでいいよ"とか"ケンカしたらワンパンだわ"とか。あとキミ当時の僕の彼女を"分相応だ"とも言ってたよね。知ってるから」

「いや言ってないですよほんと!」

「別にいいんだけどそういうところが嫌なんだよ。キミさ、なんかうまく立ち回ったり自分器用です感出して俺たちにゴマすってきてたけどバレてるから。その浅さが嫌なんだよ」

「ほんとそんなことないですから…」

「だいたいキミが"悩みがあるか?"ってきいてくるから俺は友達がいないって言ったんだよ?それに対する答えが都市伝説ってどんだけよ!」


「じゃあ、じゃあですよ。もう一回チャンスください」

「嫌だよ。なんでよ」

「一番尊敬する人連れてきますから」

「嫌だよ!」

「じゃあ誰ならいいんですか?」

「やれそうなエロいお姉ちゃんならいいよ」

「そういうのやめましょうよ…いまそんなこと言って許される時代じゃないですよ?やめてくださいよ」

















おっ




お前が言うな!!!!!!




お前が言うなオブザイヤー!!!!