決して仲が良いというわけではない永松から約15年振りに連絡がきた。

「サダノリの連絡先を教えてくれ」と彼は電話口でぶっきらぼうに言い放った。


永松と最後のやりとりした時、私は20歳で、自分で言うのもなんだが人生で一度きりの超絶モテ期真っ只中だった。


異性に対して何もかもが思い通りに物事が運んでいく感覚は到底筆舌に尽くせないが、とにもかくにもあの頃の私は凄まじかった。


そんな凄まじい時期に永松とは小学校の同窓会で再会したのだった。


私の知っている永松は12歳の永松で、電車が好きな男の子で同じ所属していた地域の野球チームでは彼は補欠だった。

「ごめんね。バット貸してくれない?」と弱々しく話しかけてくる姿が印象深かった。


だが20歳の永松はその印象とはかけ離れており、居酒屋にサングラスを掛けてきた彼は私を見るやいなや「お前誰?来る場所間違ってっぞ」とオラついてきた。


こわ



そんな同窓会が終わって数日。


私の携帯電話に突然知らない番号から電話がかかってきた。

「もしもし。俺。永松だけど」

「ああ…あれ?連絡先交換したっけ?」

「そんなことどうでもいいから。女紹介してくんない?」


「いや無理だ」

「なんで?」

「紹介できるほど知り合いいないよ」


「使えねーなお前」



これが15年前の全てだ。



なんて怖い奴なのだろうか。
礼儀も気遣いもあったもんじゃない。




そんな怖い奴が突然、時間の壁を超え、「サダノリの連絡先を教えてくれ」と要求してきた。








「どちら様でしょうか」

「俺だよ。永松。わかる?」

「ああ…久しぶりだね」

「んなことどうでもいいから、サダノリの連絡先を教えてくれよ」

「それはできない」

「なんで?」

「俺も知らないから」


「嘘つけ。お前ら仲良かったじゃん」


「なぜサダノリの連絡先を知りたいんだい?」

「何十年振りかに会ったんだよあいつと。それで最近よく遊んでたけど急に連絡とれなくなったんだよ」


「何かしたのでは?」

「いや、何もしてない」


「永松くんは彼女いる?」

「家庭持ちだよ。結婚してる」


「最近キャバクラかガールズバー、あるいは風俗の類に行った?」

「行った」


「それだな」

「は?何が?」


「サダノリは浮気や不倫はもちろん、パートナーがいるのにそういう店に行く奴を死ぬほど嫌うし批判するんだよ」


「たしかに説教されたわ」


「それだよ。それで連絡を絶ったなあいつ」

「いやいや。なんで?そんなのある?んなわけないでしょ」


「俺は15年前に絶縁されてるよ」

「マジで?なんで?」

「彼女いるのにガールズバー行ったからだよ」


「んなわけないだろー!流石におかしいだろ。あいつに損なことないじゃん」

「わかるよ永松くん。俺もそう思う」

「え?マジなの?それだけ?」

「マジだよ。だから連絡先は知らないよ。松本も同じような理由でサダノリと絶縁したよ」


「マジか。意味わかんね。いや嘘でしょ」

「永松くん。世の中には映画の主役がなんで黒人じゃないんだ!と文句を言ったり、自衛隊は軍隊だから解散しろ!と要求したり、他国に平気でミサイルを打ち込んだり、アニメキャラの胸をみて女性蔑視だ!と叫んだりする意味のわからない奴がたくさんいるんだよ。サダノリもその一人だよ」

「いやびっくりするわ。良い奴っぽかったのに」

「俺は嫌いだよサダノリが。あいつはあいつの正義感で俺がガールズバー遊びしてたのをその当時の彼女にmixiでチクったりしてきたんだよ。15年経ったいまはさすがにそこまでするかはわからないけど、気をつけたほうがいいよ。俺は本当に心から嫌いだよあいつが」


「マジかよー。あぶねーじゃん俺も。常識無い奴嫌いだわ俺」

「うん」


「教えてくれてありがと。今度飲みに行こうぜ」


「無理だ。金がない」


「奢ってやるよ。仕事してねえんだろさてはお前。だからだろ」


「いや。金がない」


「だから奢るって」


「永松くん。俺はキミのことも十分嫌いだ」


「は?俺も嫌いだけど」


「なら誘わないでよ…」



自分の中の常識が通用しないことが多々ある。

もしかしたら間違っているのは自分じゃないかと思うことも多々ある。

わけのわからない理屈に、苦しめられることもたくさんある。



楽しいこと以上に、悲しいことに巻き込まれることが多々多々ある。



それでも私は今日現在を、この国で、この世界で過ごしていく。


生きていかなきゃいけない。涙の日でも。

だけど強くなれない。ならなきゃいけない。

容赦なく時は刻み続ける。

走る心抑え、歩き続ける。