かあさん
あの画家の名前はなんだったでしょうね。

ええ あれは僕が小学生の頃
かあさんに連れていってもらった大江戸博物館の展覧会でみたあの絵ですよ。

真夏の公園の水飲み場
蛇口に蜂が止まっていて少女が水が飲めないでいる。
蜂がいなくなるのを待っているあの絵です。

僕はあの絵が好きだった。

お土産コーナーでその画家の作品集の文庫本を何冊か買って、家に帰っても時々その文庫本をよく見ていた。


かあさん
あの絵のタイトルや作者は誰だったのでしょう。


11月の雲ひとつないまるで夏のような暑さの公園で僕の姪は
蛇口に止まっている蜂が怖いと言い
僕は30年前のあの絵がふと蘇りました。
全くあの絵と同じ構図でしたので。


かあさん
あの絵のタイトルや画家は本当に何だったのでしょう。

あの時買った作品集はもうとうにどこかに行ってしまったのでしょうね。

そしてきっと今頃、今晩あたりは
どこかのさびれた田舎町のブックオフの陳列棚にあの本は行ってしまったのかもしれませんよ。


誰にも買われず
手にも取られず
他のマンガやビジネス書に埋められたように


静かに。寂しく。