意味もなく記す。


仕事のため、都内のある駅に私は初めて降り立つことになった。

踏切を挟んで左手には商店街が並び、右手の先には閑静であろう住宅街が立ち並ぶ。


既視感もなければ物珍しさもない。

私にとってはなんの変哲もない日常の一ページでしかない場所だった。


そんな場所で懐かしい後ろ姿を見た。


猪俣くんだ。


小学校のとき同じクラスで、一番のお調子者だった彼は、男子女子のみならず、先生方からも人気ものであった。


私は地元ではなく私立に進学したため、それ以降の彼と会うことはなかったが、25の時に一緒に食事をした同じく地元友達の内藤くんから聞かされた彼のその後は予想だにしないものだった。


「猪俣は終わってたよ。目もあてられないくらいのイジメをうけてた」


どうやらそのお調子者ぶりが不良達の目についてしまったようで、彼の中学3年間は聞けば胸が苦しくなり、また反吐が出るほど凄惨なイジメをうけたひどいものだった。


同時にそのイジメを受ける猪俣くんを想像し、こんなこと言っては最低ではあるが、たまたまそのイジメられる役割を猪俣くんが担っただけであって、もしその場にいたら私だってイジメを受けていたかもしれないと感じ、自分はラッキーだったとすら思ってしまった。


そんな猪俣くんらしき人物が目の前にいる。


…小学生の頃のままの服で。


そんなはずはない。

私達はもう30代中旬。その彼が小学生の格好のままなわけがないのだ。

その後ろ姿は吸い込まれるように近くのスーパーマーケットに入っていった。

私は彼を追う。不思議な興味があったからだ。


店内を覗いて猪俣くんを確認した。


・・・


…全然別人だった。猪俣くんではない。

というか子供だった。

何してんねん俺。


自戒しながら店内を後にしようとすると野菜コーナーの前にいたオバさんがめちゃくちゃ睨んできた。

信じられないくらい睨んでいた。

ごめんなさい。意味なくお邪魔しました・・・


その後の仕事も散々だった。

ハプニングが尾を引いたのか仕事もろくにうまくできない。



2時間後、失意の帰り道、私はまた、そのスーパーマーケットを通った。



猪俣君がいるんじゃないか。

そう思ったは思った。

もう一度店内を見渡す。しかしやはり猪俣君はいなかった。

そりゃそうだ。2時間も経っているんだから。当然だ。












かわりに野菜コーナーの前から、2時間前と全く同じ姿勢で私を睨んでいた。

ずっとこちらを。

他の人にその人が見えているのか。

それはわからない。