君はこっちには来れないよ。 


僕はね、高校生のとき、部活でサッカーをしていてね、そして同じ学校の、アイドルに似ている子と付き合っていたね。 

僕たちは高2の夏休みに初めてセックスをしたんだ。お互い初めてだったんだ。なんだか実感が分らなかったな。公園の公衆トイレでやったんだ。 

  
早稲田に進学して、すぐに前田敦子のような女の子と付き合ったよ。他にも可愛い女の子と何人とも寝た。 

そして今じゃ僕は地上波番組のアナウンサーだ。天下取りだ。世界は僕の意のままさ。 


いいかい?君と僕とは住む世界が違うんだよ。 


僕はこれから沢山の美人と寝ることだろう。寝たい女の子と大抵は寝れると思うよ。勿論無理な場合もあるだろうけど。 

でも、女優やモデルと付き合うこともあるかもしれない。僕はそこそこイケメンだし、どうだい?清潔感を全面に出してるからね。 

  
まあCAと寝るなんて簡単だろうね。実際、学生時代にもそういう人と寝たしね。 


君は残念だろうけど現実的に考えて、せいぜい雑誌のグラビアページくらいでしかアイドルとは会えないだろう。もちろん、僕はアイドル級の女の子と大抵寝れるけどね。   


仕方ないよ。来世に期待しな。僕にだって僕なりの苦悩があるわけだし、それに好きな子と一緒になることが一概に幸せとも限らないんだ。 


最初は好きじゃなくたって、出来の悪いテスト用紙をグシャッとしたような顔の女の子だって、もしかしたら次第に惹かれていき、好きになるかもしれない。
君は幸せになれるかもしれない。だからまあ頑張りなよ。僕だったら君のような人生を送るくらいなら死んだ方がましだけどさ。 





もう11年も前のことになる。

60年間のテレビアナログ放送は幕を閉じ、同時にデジタルの時代に突入した。


これまでのテレビの時代は、そこに映る人間や、つくる人間の努力の賜物であり、これからもそういった多くの人の多くの努力によって支えられ、盛り上がっていくのだろうと思った。 

しかしながら27時間テレビの最後で恒例のフジテレビアナウンス部新入社員の「提供」のアナウンスは、11年前の夏の私にとってこれまでとは様相が全く異なってみえたのだった。

特にそれは男性の新人アナウンサーによってもたらされた。 


彼ははっきりと明確に画面の向こうから僕にこう告げたのだ。 



「君はこっちには来れないよ」と。 



たしかに彼の言う通りだ。 


冷静に考えてみよう。
私は自分が好きだと思う女の子とは付き合えないだろう。


私は可愛い女の子が好きだ。
可愛い女の子が顔も悪く性格も悪くお金もない私を相手にする訳がない。 
  
これだけ長い間、女性にもてなければ性格だって歪む。 

実際普通のルックスでももう構わない。妥協する。諦める。しかし普通レベルの女の子でも私には結局無理なのだ。 

現実は私は誰とも付き合えない。もしかしたら畳を上下から同時にグシャッとしたような顔の女の子と2,3人付き合い、もしかしたら最後の子と結婚するかもしれない。 
  


妥協して付き合い、最後にその中の1人の女の子と結婚し、子供が生まれ、子育てをし、月曜から金曜は楽しくもない(むしろひどく苦痛な)仕事をする。 

誰とも結婚できず終わるかもしれない。 


はあ。
そんな惰性の人生に何の意味があるのだろう。 
  
しかし世の大半の人はこういう人生を送っている。 

そして私はいつか必ず死ぬ運命にある。 


こんな生活がずっと続くのなんて絶対嫌だ。 

なんとか抜け出したい。 


だが11年経ってもこの感覚は維持されたままなのだから、もうどうあがいても絶望なのだろう。


ようこそ。屍人闇人溢れる世界へ。