以前の会社の後輩の佐々木は典型的な喪女だった。
『彼氏がほしい』を連呼する割には会社の飲み会でも、気の知れた友達との飲み会でも、果てはそれ目的の婚活パーティでも彼女はなぜか弄られキャラ道をセルフで驀進し、『ちょっとちょっと〜。何言ってるんですか〜』を連発した。
その女芸人さながらの生きざまに色気はなく、とにかく彼女はモテなかった。
数年後、互いに会社を辞めることとなった私と彼女は、友人関係を継続し、現在でも少なからずラインのやりとりをしている。
『次に会うときには彼氏ができていますからね!』
そう彼女は言ったが、悲しいかな、新型コロナウイルスが世界を覆う。
先日再会したときには既に2年が経過してしまっていた。
彼女は、『次に会うときには彼氏ができていますからね!』から何も変わっていなかった。
「彼氏できたの?」と問うと例の如く『ちょっとちょっと〜。やめてくださいよ〜』を放ってくる。
容姿についても2年経てば変わる人は変わるものだが、彼女にその変化はなかった。
だがそれは容姿と性格の話。彼女には大きな変化があった。
もともと私はゲームが大好きであった。
プレイするハードはもっぱらPS4だが、時には中年に差し掛かるこの年齢でも朝までゲームをし、寝ぼけ眼で出社することもあった。
彼女はそんなゲーマーな私に『何が楽しいのかわかりません』と言っていた。
だが。前述のコロナ禍である。
巣籠を強いられた婚活女は、あろうことかニンテンドースイッチを購入。
その中で選んだスプラトゥーンでついに彼女はテレビゲームの面白さに気づいたのだった。
そしてそれから1年後の現在。
彼女は、SNSで彼女のプレイIDを検索すれば「佐々木さんと一緒にプレイできて光栄です」「佐々木さんとマッチングできました!」「佐々木さんありがとうございます!」と言った尊敬と称賛の投稿に溢れている。
そう。なんとなんとまさかのゲーマーの才能が開花。
つい1年前までコントローラーすら握ってこなかった彼女が、今では有名youtuberから配信コラボ依頼が多数舞い込む人気者になってしまった。
覚醒。
スプラトゥーンの魅力に憑りつかれた彼女は、いまはその生活の中心にスプラトゥーンを置き、会社を定時であがるとすぐに帰宅⇒すぐに家事食事⇒22:00〜2:00までの4時間スプラトゥーンの世界にどっぷりという丑三つ時のシンデレラとなった。
実際にその腕前をみたことはないものの、実力は凄まじいと各支援者達の投稿が物語っている。
『私、彼氏がめちゃくちゃほしいんです』
そう語った彼女は未だに彼氏ができない。
しかし、それ以上にたくさんの顔の知らない友人に囲まれている。幸せそうだ。
人間、才能はどこに眠っているのかわからない。
どんなきっかけでそれが花開くのかはもっとわからない。
私の才能はどこにあるのだろうか。
もう開いていたりするのだろうか。
いずれにせよ、日々の生活に彼女程の潤いが無いのは確かである。
助けてホリエモン。空を自由に、飛びたいんだ。