川崎様

 

平素は格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます。

 

この度は神宮前のビアガーデンにて、私個人の金銭的問題により料金支払不能となり、

川崎様に1,000円をお借りする事態を招いてしまい大変申し訳ございませんでした。

同様事案の再発防止に努めると共に、二度と川崎様に借金をしないことを固く誓います。

また当事案による影響で、世界各国を混乱に陥れてしまいましたことを、重ねて深くお詫び申し上げます。

 

ロシア連邦 第4代大統領

ウラジミール・プーチン

 

 

一昨日、後輩の川崎ともにビアガーデンへ行った私は、利用料金を支払金額で満たすことができず、

川崎に1,000円を借りることでなんとか難を逃れるに至った。

 

『いやいや。先輩ですよね?借金ってどういうことですか?』

 

川崎は半ば呆れ半ばタメ語に近い感覚になってしまっていたが、そこは何度も頭を下げることで了承してもらった。

 

翌々日その1,000円を返そうと出社したところ、肝心の川崎は外出中であった。

 

そこで私は1,000円を封筒に入れ、封筒の表面に上記の文面を記載し、彼女の不在BOXへと投じた。

 

 

しばらくして外出先から戻った川崎は自身の不在BOXを確認し、中の書類をひとつひとつ開けるていくと、ニヤリと口角をあげた。

 

そして割と大きめな声で『なんかプーチンから謝罪きたんですけどー!』と発した。

 

一瞬笑いで周囲は包まれたが、業務中とは思えないバカノリ騒ぎに上席が待ったをかけ、何事かと川崎を問い詰めた。

 

川崎はバカ正直に『私の不在BOXにこんな手紙が入っていて・・・』と吐露し、文面を読んだ上席は最後の‟ウラジミール・プーチン“の部分で大笑いするどころか険しい顔つきになり、

「これ書いたの誰?」と冷たく全員に問いかけた。

 

 

「わ、わたしです・・・」

 

 

恐怖と羞恥でぐちゃぐちゃになった顔で私が手を挙げたところ、上席は険しい顔のまま「中は何入っているの?」と質問した。

 

「あ、いや・・・」としどろもどろになると、答えを聞かずに上席は封筒を開けた。

 

 

中には1,000円札の他に、自社の社長の切抜き写真に吹出で「おまえクビ。おまえもクビ。おまえはシャブ漬け」と書かれた紙が入っていた。

 

もちろん作成者も混入者も私だ。

 

 

「おふざけが過ぎる。不謹慎が過ぎる」と上席は冷静に怒り、別室へ私は呼び出されることになった。

 

「いまの御時勢、たとえ当事者がいなくてもこういうギャグはハラスメント、モラルの逸脱にあたる。不謹慎だと思わないのか?」

 

 

ぐうの音も出なかった。

 

 

こってり常識という弾丸を撃ち込まれながら詰められた私は、自分のデスクに戻る頃にはヘロヘロになっていた。

 

 

『あの、なんかすみません』

 

川崎がすぐに謝罪してきた。

 

「ダメ。1,000円返して」

 

『は?』

 

「さっき返した1,000円、やっぱり返して」

 

『いやいやいや』

 

拒否する川崎の腕から無理矢理1,000円を取り上げた私は、不謹慎とかそういう次元ではなく、ただの犯罪者だった。

 

 

 

 

 

 

ひとりよがりなユーモアが、失言になることは多い。

 

ここ数年顕著に続いていた政治家や著名人による失言は、2022年6月現在でもとどまることなくメディアによって報じられている。

 

記憶に新しいところでは5月下旬に開催された専門家会議にて、沖縄県知事の玉城デニー知事が「どうも。ゼレンスキーです」と緊迫状況下にあるウクライナ大統領名を名乗り、批判を浴びた。

 

常識どうこうではなく、不謹慎だと。

 

影響力のある人間が公の場であのような発言をしてしまうのはおかしい。

人間性を疑うと。

 

 

そこで比較してしまうと、私の場合は影響力はないし、公の場でもない。

ただ人間性は疑うまでもなく悪質だなと思うことは、これまでの人生の中で多々あった。

 

 

わりと今回怒られたことは心に突き刺さっている。

 

 

再発防止に努める。