私がまだ学生の頃、非モテSNSというSNSサイトがあった。
モテない人たちのためのSNSというテーマを掲げたそれは、恋人ができれば即退会という、さながらアイドルグループのようなルールを徹底し、とにかく男女の出会いを嫌悪していた。
初期の非モテSNSは月に一回新宿で大規模オフ会があり、ロフトプラスワンを貸切り、その当時で話題になった問題児系芸能人を多数招聘し、それはそれは楽しかった。
オフ会とはいえコミュニケーションが苦手な人にむけた隔離シートも存在し、その発想はかなり愉快で面白く、稀にメディアも取材に来るほど盛り上がっていた。
感慨深い思い出もある。
非モテSNSという体質上、とにかく男女が仲良くすることを嫌いながら本音では女の子と仲良くしたくて仕方ない連中の集まりであるため、イベント中にカップルができあがると嫉妬からガチで名指しで2ちゃんねるに晒される事態に発展する。
非モテのコンセプトを逸脱するな!と。
私が参加した公式オフ会ではまさにそういう現象が発生していた。
私がついた席はまさに周りと馴染めず会話ができない人達だらけとなっていたが、なぜかやたらとイケメンが多かった。
別にどの場にいても浮くことなく、なんなら一番の人気者になれるようなイケメンが3,4人集まっていながら、誰も言葉を発することもなく、下を向いている光景はもはや滑稽を超越して複雑だった。
そこに、山田を名乗る女子高生が乱入してきた。
彼女は席につくやいなや自己紹介をし、私を含む全員に『童貞ですか?』と尋ねた。
恐らく誰もが適当にあしらいたかったのだろう。
その席にいた男性全員が彼女に「はい。童貞です」と答えた。
彼女はそれを聞くと、『私、童貞大好きなんすよねー』とそれぞれの身体にボディタッチをしてきた。
こう記すととても羨ましい事態のようにも思えるが、それはこの女子高生がAIKAだったり河北彩花みたいな子だったらそうなるだろう。
しかし彼女は能面の田舎っぽいジャガイモ顔だった。
ジャガイモは会話を避けるイケメン達や私に対し、『恥ずかしがり屋さんかわいい』と勝手に膝の上に跨ったり、胸を押しつけたりしてきた。
あきらかに非モテってこういうことすればおちるでしょ?という浅はかさがあった。
けれどもこんな未成年飲酒すら疑わしいデビュー仕立て満載の強引さに引っかかってしまうほど私たちの拗らせは容易いものではなく、誰もが彼女を嫌がった。
彼女を押しつけあったり、どこか別の場所へ追っ払おうとする我々には、会話こそないものの奇妙な友情のようなものが芽生えていた。
だがそうは甘くない。
しばらくして、この女子高生をリジェクトしまくる席に、今度は女装したオッさんが合流してきた。
オッさんは自分のことをブチャ子と名乗り(後でわかったのだが、ブサイクなブチャ子ではなく、ジョジョのブローノブチャラティがもしも女性だったらという設定だったらしい)、我々に「ちょっとちょっと、こんな可愛い子相手に何もしてないとか失礼すぎー」と馴れ馴れしく話しかけた。
そして「なら彼女、こいつらじゃなく私とイチャイチャしよ」と言い、その場でこの女装したオッさんとジャガイモみたいな女子高生の破廉恥ないちゃつきが催されることとなった。
彼らのディープキスに我々全員が顔を顰めると、「動揺しすぎー。こんなのノリだよ」と女装したオッさんは躍動してみせた。
翌日。
2ちゃんねるの非モテSNSの専用スレッドに、「昨日のオフ会どうだった?」という書き込みがなされた。
すぐに誰かが「一部の席やばすぎて無理。あいつら出禁にしてほしい」と書き込んだ。
「あの女装したオッさんとクソブスJKがめっちゃイチャイチャしてた席だろ?」
「あの席ずっとそうだったわ。イケメンがJK囲んで、オタサーの姫みたいなやつでしょ?」
「ほぼ乱交してたよ。ちんこだしてたやつもいたし」
「犯罪者晒そうぜ。誰がいた?わかる範囲で」
そして私の名前が晒されてしまった。
バカ正直に名札をつけていたのが仇となった。
そこからわずか数分で私のSNSの日記コメント欄は「2ちゃんねるからきますた」で溢れ、「さっさとこのSNSを辞めてください」という誹謗中傷で盛り上がってしまった。
どうやらさらにあの女装のオッさんが、オフ会にいたあらゆる女性に無許可で尻や胸を触る痴漢行為をしていたようで、それが波及するようにあの席にいた私と数名が名指しで叩かれていた。
恐怖を感じ、しばらくログインせずに大人しくしていたところほとぼりはあっという間に覚めて、1ヶ月後にはそのことを覚えている人間はほとんどいなくなっており、深刻なデジタルタトゥーとはならなかったが、非常に肝が冷えた。
なかなか経験できない、よい思い出だ。いまとなっては。
○
それから何度かオフ会に行き、一応友人ができたりしたが、その全員といま現在はまったく連絡をとっていない。
ネットでの人間関係は希薄だとよく言うが、まさにそれだった。
あのSNSはモテない人の集まりというよりは、モテる人間を妬み、嫉む人の集まりだった。
要するに普通のモテない人間達よりも性質が悪かったし、タチも悪かった。
「俺はとりますよ天下。それでエピソードトークでこのSNSの話しますよ」
そう大口を叩いた自称お笑い芸人のハンドルネームマルマイン氏は元気だろうか。
なるべくお笑い芸人の情報は収集することにしているが、未だに彼が売れたという話はでてきていない。
マルマインの出演するお笑いイベントを観に行こう!というオフ会もそのSNSで有った。
私は行かなかったが、何人か参加した知り合いがいたのでどうだったかきいてみた。
「うん。マルマイン凄く頑張ってたよ」
そう言われてマルマインは大いに喜んでいた。
芸人なら頑張ってたって言われて喜ぶんじゃなくて面白かったって言われるようにしろよバーカ。
一般人に混ざって「リア充爆発しろ!」なんて言ってる芸人が面白いわけがないだろう。
けれどもまあ、彼との出会いもまた、貴重な思い出ではあるのだった。
モテない人たちのためのSNSというテーマを掲げたそれは、恋人ができれば即退会という、さながらアイドルグループのようなルールを徹底し、とにかく男女の出会いを嫌悪していた。
初期の非モテSNSは月に一回新宿で大規模オフ会があり、ロフトプラスワンを貸切り、その当時で話題になった問題児系芸能人を多数招聘し、それはそれは楽しかった。
オフ会とはいえコミュニケーションが苦手な人にむけた隔離シートも存在し、その発想はかなり愉快で面白く、稀にメディアも取材に来るほど盛り上がっていた。
感慨深い思い出もある。
非モテSNSという体質上、とにかく男女が仲良くすることを嫌いながら本音では女の子と仲良くしたくて仕方ない連中の集まりであるため、イベント中にカップルができあがると嫉妬からガチで名指しで2ちゃんねるに晒される事態に発展する。
非モテのコンセプトを逸脱するな!と。
私が参加した公式オフ会ではまさにそういう現象が発生していた。
私がついた席はまさに周りと馴染めず会話ができない人達だらけとなっていたが、なぜかやたらとイケメンが多かった。
別にどの場にいても浮くことなく、なんなら一番の人気者になれるようなイケメンが3,4人集まっていながら、誰も言葉を発することもなく、下を向いている光景はもはや滑稽を超越して複雑だった。
そこに、山田を名乗る女子高生が乱入してきた。
彼女は席につくやいなや自己紹介をし、私を含む全員に『童貞ですか?』と尋ねた。
恐らく誰もが適当にあしらいたかったのだろう。
その席にいた男性全員が彼女に「はい。童貞です」と答えた。
彼女はそれを聞くと、『私、童貞大好きなんすよねー』とそれぞれの身体にボディタッチをしてきた。
こう記すととても羨ましい事態のようにも思えるが、それはこの女子高生がAIKAだったり河北彩花みたいな子だったらそうなるだろう。
しかし彼女は能面の田舎っぽいジャガイモ顔だった。
ジャガイモは会話を避けるイケメン達や私に対し、『恥ずかしがり屋さんかわいい』と勝手に膝の上に跨ったり、胸を押しつけたりしてきた。
あきらかに非モテってこういうことすればおちるでしょ?という浅はかさがあった。
けれどもこんな未成年飲酒すら疑わしいデビュー仕立て満載の強引さに引っかかってしまうほど私たちの拗らせは容易いものではなく、誰もが彼女を嫌がった。
彼女を押しつけあったり、どこか別の場所へ追っ払おうとする我々には、会話こそないものの奇妙な友情のようなものが芽生えていた。
だがそうは甘くない。
しばらくして、この女子高生をリジェクトしまくる席に、今度は女装したオッさんが合流してきた。
オッさんは自分のことをブチャ子と名乗り(後でわかったのだが、ブサイクなブチャ子ではなく、ジョジョのブローノブチャラティがもしも女性だったらという設定だったらしい)、我々に「ちょっとちょっと、こんな可愛い子相手に何もしてないとか失礼すぎー」と馴れ馴れしく話しかけた。
そして「なら彼女、こいつらじゃなく私とイチャイチャしよ」と言い、その場でこの女装したオッさんとジャガイモみたいな女子高生の破廉恥ないちゃつきが催されることとなった。
彼らのディープキスに我々全員が顔を顰めると、「動揺しすぎー。こんなのノリだよ」と女装したオッさんは躍動してみせた。
翌日。
2ちゃんねるの非モテSNSの専用スレッドに、「昨日のオフ会どうだった?」という書き込みがなされた。
すぐに誰かが「一部の席やばすぎて無理。あいつら出禁にしてほしい」と書き込んだ。
「あの女装したオッさんとクソブスJKがめっちゃイチャイチャしてた席だろ?」
「あの席ずっとそうだったわ。イケメンがJK囲んで、オタサーの姫みたいなやつでしょ?」
「ほぼ乱交してたよ。ちんこだしてたやつもいたし」
「犯罪者晒そうぜ。誰がいた?わかる範囲で」
そして私の名前が晒されてしまった。
バカ正直に名札をつけていたのが仇となった。
そこからわずか数分で私のSNSの日記コメント欄は「2ちゃんねるからきますた」で溢れ、「さっさとこのSNSを辞めてください」という誹謗中傷で盛り上がってしまった。
どうやらさらにあの女装のオッさんが、オフ会にいたあらゆる女性に無許可で尻や胸を触る痴漢行為をしていたようで、それが波及するようにあの席にいた私と数名が名指しで叩かれていた。
恐怖を感じ、しばらくログインせずに大人しくしていたところほとぼりはあっという間に覚めて、1ヶ月後にはそのことを覚えている人間はほとんどいなくなっており、深刻なデジタルタトゥーとはならなかったが、非常に肝が冷えた。
なかなか経験できない、よい思い出だ。いまとなっては。
○
それから何度かオフ会に行き、一応友人ができたりしたが、その全員といま現在はまったく連絡をとっていない。
ネットでの人間関係は希薄だとよく言うが、まさにそれだった。
あのSNSはモテない人の集まりというよりは、モテる人間を妬み、嫉む人の集まりだった。
要するに普通のモテない人間達よりも性質が悪かったし、タチも悪かった。
「俺はとりますよ天下。それでエピソードトークでこのSNSの話しますよ」
そう大口を叩いた自称お笑い芸人のハンドルネームマルマイン氏は元気だろうか。
なるべくお笑い芸人の情報は収集することにしているが、未だに彼が売れたという話はでてきていない。
マルマインの出演するお笑いイベントを観に行こう!というオフ会もそのSNSで有った。
私は行かなかったが、何人か参加した知り合いがいたのでどうだったかきいてみた。
「うん。マルマイン凄く頑張ってたよ」
そう言われてマルマインは大いに喜んでいた。
芸人なら頑張ってたって言われて喜ぶんじゃなくて面白かったって言われるようにしろよバーカ。
一般人に混ざって「リア充爆発しろ!」なんて言ってる芸人が面白いわけがないだろう。
けれどもまあ、彼との出会いもまた、貴重な思い出ではあるのだった。