あの空の上にあると信じてるの。






作家の辻仁成が「書くことがなくなってからいかに書けるか。何も書くことがなくても書けるのが一流」と言っているのをきいてからというもの、私はとにかく毎日一本はブログを書こうと頑張ってきた。


クオリティの維持はできていないかもしれない。

けれども決してやっつけではなく、しっかりと内容を考えた上で投稿し続けることができたのは、成長しているということなのかもしれない。


「どんな些細なことでも気になることを拾って、そこに自分の人生を投射して話を大きくして書く。これが"自分の世界を広げる"ってことなんだよ」

そう言う辻仁成の教えを守り、身の回りの出来事から社会情勢まであらゆるニュースに自分の物語を加え、31日間連続投稿を達成することができた。



そして昨日32日目。



投稿、出来ず。



連続投稿が途切れてしまった。



誰も期待も得もしない連続投稿だが、それを途切れさせてしまったことで私は完全に失意の底に沈んだのだった。








投稿できなかった理由は大きく二つで携帯電話の不調による機種変更と、キャバクラに行ったためだ。


誤解のないように言っておくが、私はいまとなってはキャバクラが嫌いだ。

20代前半のころは鬼のように通い詰めていたが、その全てが不毛であることに30を過ぎて気づき、いまはまったくそういう遊びをしていない。


ではなぜキャバクラに行ったのかというと会社の飲み会があったからだ。

翌日が土曜日であるにもかかわらず、朝からガッチリめの商談が入っていた私は、酒を飲めば飲むほど「明日行きたくない」を連呼する羽目になった。

宴もたけなわな頃には、私はすっかり悪酔いし、誰かに「普段は家で何をしているんですか?」ときかれても「明日仕事行きたくない」と返答してしまう確変モードに突入してしまった。


飲み会が終わり、翌日への鬱を抱えたまま店を出ると、嘱託社員の宮崎(69)が「明日大変なキミにご褒美をあげるよ」と告げた。

それに対して返答を放つ間もなく、宮崎は私の腕を掴み二次会組から引き離し、夜の街へと誘った。


そしてついた先がキャバクラだったのだ。


『あらやだー!宮崎さーん!』


黄色い声のほうをみるとそこには50近いおばちゃんがいた。

その周囲をみても年齢層はあきらかに50周辺であった。


熟女じゃやないか・・・


「松岡君、松岡君。好きな歌、いっぱい歌って」

『ききたーい!』


・・・この年齢層相手に何の歌をかませっていうんだよ。


『なんでもいいんだよ。私たちなんでも知ってるから』

「ほんとですか?」

『そうだよー。こっちもプロだから』

「じゃあクリーピーナッツ歌います」

『・・・ピーナッツ?落花生?』


なんやそれ・・・


「いやーラッパーですよ」

『ああ!カッパのマークの!正露丸の!』


何言ってんだこいつ・・・


「きいたことありません?のびしろとか、かつて天才だった俺たちへとか」

『ああ!知ってるかも!』

「おお!さすが!知ってるじゃないですか!」

『そうだよ!こう見えて私若いから!』

「18歳くらいですか?」

『はあ?喧嘩うってんの?』


なんなんこいつ・・・


んもー・・・帰りたいよぉ。


ふとトイレのほうをむくと宮崎(69)が55歳くらいの女性とキスをしていた。

めちゃくちゃキスをしていた。


どうなってんだよマジで。

元気すぎだろ69歳。かっけえわ。






「終電が近いので今日は帰らせていただいてもいいですか?」

「せっかくだから一曲だけでも歌っていってよ」


そう言われて私はRADWIMPSの俺色スカイという曲をいれた。

いまや誰もが知る有名バンドである彼らが初期に発表した曲だ。



夜空を見ると なぜなんだろう
寂しくも嬉しくも思えたりするの。

きっとあれかなあ。
人ってやつはさ、無限の空の中、自分の心を見るのかなあ?



この歌詞にこの歌を作った全ての意味がある。

一般的に熱烈なラブソングと思われがちな曲だが、その内面にある日々への虚しさを空を擬人化することで表現した名曲中の名曲だ。


どんな時でも空は自分に肯定的だ。ただ何も言わないだけで。

そんな野田洋次郎のつくる歌詞が、翌日に仕事を控え失意の底にいる私にシンクロした。



終電を逃すまいと走る私の姿を、この夜空はいったいどのように思いながら見ているのだろうか。

そう考えている私の頬を、雨が伝った。

全てを洗い流そうと、空は雨を降らせてくれたのかもしれない。ロマンチックだ。



しかし、ひどい鬱を抱えた私には、この雨は鬱陶しい以外のなにものでもなかったのだった。