大学生の時にやっていた居酒屋のアルバイトで、当時20歳の私より一回り上の32歳のマナさんに、私は恋心を抱いていた。
居酒屋の仕事自体はクソで、毎日のように誰かしらに私は怒られる日々だったが、それでも定期的に開かれる飲み会は好きだった。
マナさんはシフトがかぶることはほとんどなかったものの、飲み会では毎回参加しており、私にもフレンドリーに気軽に話しかけてきてくれた。
マナさんは酔うと淫乱そのものだった。
男性の身体をこれでもかと触りまくり、そのうち10回に6回くらいは股間を触ってきて、30回に1回くらいの割合で『キスしよう。キス』と言ってきた。
格好もそれなりに露出度の高いスタイルでくるために、私は大いに興奮していた。
その翌日以降はしばらくバイトの休憩中はマナさんの話題になることが多かった。
ある人は飲み会終わりにマナさんを含む4人でホテルに行き、キスまでしたところで猛烈な睡魔に襲われ全員寝てしまった、と言う。
また別のある人はマナさんに『屋上行こうよ』と廃ビルに連れていかれ、そこから見える満月を眺めながらロマンティックにキスをした、と言う。
羨ましい。
それが性行為に至る話は何一つ出てきていなかったが、十分な話だった。
私はマナさんの顔が好きだ。
元バレーボール日本代表の大友愛に似ている顔が好きだ。
そんなマナさんと私もキスがしたい。
ある時、それはおとずれた。
いつもの飲み会で結構大量に酒を飲んだ私はトイレに行きたくなった。
男性トイレは他の客が使用中だったため、通路で順番待ちしていると、反対側の女子トイレからマナさんが出てきた。
『松岡くん、おしっこ?』
「そうです。順番待ちです」
『じゃあこっちでしなよ』
そう言ってマナさんは私を女子トイレの中に引きずりこんだ。
「いやいやマナさん。女子トイレ、女子トイレ」
『いいじゃんいいじゃん。もれそうなんでしょ?』
「いやいや、捕まりますよ」
『仕方ないなー』
そう言ってマナさんはトイレに腰掛ける私の足下にかがみ、悪戯に笑いながら私のズボンのベルトをカチャカチャとはずしはじめた。
「ちょっと!」
そうは言ったものの、既に私の愚息は派手に猛ってしまっていた。
『ちょっとー大きくなってるじゃん』
そう言いながらマナさんは私の顔に唇を近づけた。
ああ…ついにこの時が…
ついに俺もマナさんとキスできるのか。
私は目を瞑り、唇をそっと突き出した。
吐息が少し私の口元にかかった。
しかしマナさんはすぐに顔を離してしまい、私を見てこう言った。
『キミ、かわいいね』
それになんと言い返したかは覚えていない。
しかしマナさんはそう言い終えるとすぐに女子トイレから出ていき、先程までと何も変わらない笑顔で飲みの場に復帰してしまった。
エロい。
非常にエロい体験だ。
けれども。
その1ヶ月後くらいからマナさんは飲み会に来なくなった。
もともとかぶることのなかったシフトからは、どんどんマナさんの出勤日数が減っていき、そのうち全く彼女の名前がなくなってしまった。
「マナさん、とんだらしいよ」
休憩所で誰かがそう話しているのがきこえた。
「マジで。なんで?」
「旦那にバレたんだって。男遊び」
ああ。
なんて納得のいく幕引き。そりゃバレそうなもんだ。
以来彼女とは会っていない。
あれから15年が経つ。
私は35歳になってしまったし、マナさんに関してはもう47歳だ。
年齢と共に色々な変化が私たちを包んでいるが、いまもし再会できれば、私はまたきっと恋に落ちるだろう。
彼女はいま、どこで何をしているのだろうか。
どうでもいいことだが、この衰えを知らない私の性欲はどうにかならないものだろうか。
あまりにもおさまらないので、私は危惧してしまう。
早死にを。
あるいはある日突然、何の前触れもなく、まるでスイッチを切ったかのように、一切の性欲が失われてしまう時がくるような気がしてならない。
そうなった場合、この世界は果たして、面白いものなのだろうか。
居酒屋の仕事自体はクソで、毎日のように誰かしらに私は怒られる日々だったが、それでも定期的に開かれる飲み会は好きだった。
マナさんはシフトがかぶることはほとんどなかったものの、飲み会では毎回参加しており、私にもフレンドリーに気軽に話しかけてきてくれた。
マナさんは酔うと淫乱そのものだった。
男性の身体をこれでもかと触りまくり、そのうち10回に6回くらいは股間を触ってきて、30回に1回くらいの割合で『キスしよう。キス』と言ってきた。
格好もそれなりに露出度の高いスタイルでくるために、私は大いに興奮していた。
その翌日以降はしばらくバイトの休憩中はマナさんの話題になることが多かった。
ある人は飲み会終わりにマナさんを含む4人でホテルに行き、キスまでしたところで猛烈な睡魔に襲われ全員寝てしまった、と言う。
また別のある人はマナさんに『屋上行こうよ』と廃ビルに連れていかれ、そこから見える満月を眺めながらロマンティックにキスをした、と言う。
羨ましい。
それが性行為に至る話は何一つ出てきていなかったが、十分な話だった。
私はマナさんの顔が好きだ。
元バレーボール日本代表の大友愛に似ている顔が好きだ。
そんなマナさんと私もキスがしたい。
ある時、それはおとずれた。
いつもの飲み会で結構大量に酒を飲んだ私はトイレに行きたくなった。
男性トイレは他の客が使用中だったため、通路で順番待ちしていると、反対側の女子トイレからマナさんが出てきた。
『松岡くん、おしっこ?』
「そうです。順番待ちです」
『じゃあこっちでしなよ』
そう言ってマナさんは私を女子トイレの中に引きずりこんだ。
「いやいやマナさん。女子トイレ、女子トイレ」
『いいじゃんいいじゃん。もれそうなんでしょ?』
「いやいや、捕まりますよ」
『仕方ないなー』
そう言ってマナさんはトイレに腰掛ける私の足下にかがみ、悪戯に笑いながら私のズボンのベルトをカチャカチャとはずしはじめた。
「ちょっと!」
そうは言ったものの、既に私の愚息は派手に猛ってしまっていた。
『ちょっとー大きくなってるじゃん』
そう言いながらマナさんは私の顔に唇を近づけた。
ああ…ついにこの時が…
ついに俺もマナさんとキスできるのか。
私は目を瞑り、唇をそっと突き出した。
吐息が少し私の口元にかかった。
しかしマナさんはすぐに顔を離してしまい、私を見てこう言った。
『キミ、かわいいね』
それになんと言い返したかは覚えていない。
しかしマナさんはそう言い終えるとすぐに女子トイレから出ていき、先程までと何も変わらない笑顔で飲みの場に復帰してしまった。
エロい。
非常にエロい体験だ。
けれども。
その1ヶ月後くらいからマナさんは飲み会に来なくなった。
もともとかぶることのなかったシフトからは、どんどんマナさんの出勤日数が減っていき、そのうち全く彼女の名前がなくなってしまった。
「マナさん、とんだらしいよ」
休憩所で誰かがそう話しているのがきこえた。
「マジで。なんで?」
「旦那にバレたんだって。男遊び」
ああ。
なんて納得のいく幕引き。そりゃバレそうなもんだ。
以来彼女とは会っていない。
あれから15年が経つ。
私は35歳になってしまったし、マナさんに関してはもう47歳だ。
年齢と共に色々な変化が私たちを包んでいるが、いまもし再会できれば、私はまたきっと恋に落ちるだろう。
彼女はいま、どこで何をしているのだろうか。
どうでもいいことだが、この衰えを知らない私の性欲はどうにかならないものだろうか。
あまりにもおさまらないので、私は危惧してしまう。
早死にを。
あるいはある日突然、何の前触れもなく、まるでスイッチを切ったかのように、一切の性欲が失われてしまう時がくるような気がしてならない。
そうなった場合、この世界は果たして、面白いものなのだろうか。