『もしかして変な人ですか?』

「は?え?何でですか?」

『変人ってよく言われませんか?』

「あー・・・いや。多分ないです」

『絶対変な人だ』



彼女はそう言い、僕に微笑んだ。


私さその優しい笑顔に恋をした。



こんな展開を妄想。


先日実際にあったやりとりである。

商談を終えて帰宅しようとしたところ、取引先の事務の若い女性と帰り道が一緒になってしまった。


私は本屋に寄り、明日クビになるかもしれない4巻を購入して帰りたかったが、人通りも多くなく、ここで道を変えると露骨に避けた感がでるのではないかと思い、雑談をしながら帰ることにした。


ものすごく気まずいは気まずいのだが、多分それはお互い様だろう。


駅に着き私は切符を買った。



『あれ?切符買うんですか?』


「はい。いつも切符です」


『Suica持ってないんですか?』


「持ってないです。というかSuica使ったこともないんですよ」


『え??ずっと切符なんですか!?」


「ずっと切符です」


『え~・・・面倒くさくない?』


「Suica買うほうが面倒くさくないですか?」


『いや一回チャージすればどこにでもピッ!だけで行けるんですよ?』


「あー・・・」


『切符毎回買うほうが絶対面倒くさいですって』


「あー・・・」


『それに毎回切符買うと損になりますよ?』


「いやもう損得とかじゃなく・・・切符って小さくていいじゃないですか」


『え?大きさ?』


「いや大きさとかじゃなく切符をなくさないようにポッケにしまうのが好きなんですよ僕」




さらに私はこの後突然会話の流れを遮り、
「本とか読みますか?」
と彼女に尋ねた。

『読みますよ。お好きなんですか?』

「いや、僕は本は全然読まないんですよ」

『え?はあ。』

「新聞は読みます?」

『いや読まないですね。読まれるんですか?』

「いやあ、新聞も読まないんですよ」


という互いのジャブが空を切り合う展開が続いたあと、冒頭のやりとりへと至った。



まぁもちろん恋に落ちることも、今後がある可能性も一切なかったわけだが。



しかし感じたことがひとつある。

気持ち悪いとかつまんないとか言われると凹んでしまうが、

「変な人」と言われるとなぜか不思議と少し嬉しい気分になる。


少しだけ特別な人間になれた気がしてしまうのは私だけではないのだろうか。



余談というより言い訳になるが、

私だってさすがにSuicaくらい持っている。

切符しか買いません。

そんな奴この世の中に存在するわけがないわ。