知床遊覧船の沈没事件は未だに大きな進展はない。
遺された方々の気持ちを思うと胸が締め付けられる思いだ。
一刻も早く進展を願う。
一時、この事件の裏側に国内の大手企業であるM社がコンサルとして絡んでいるという疑惑が出て、いまだにその払拭には至っていない。
徹底した黒字化のためコストカットの繰返しが本件の一因であるとされているが真偽のほどはわからない。
○
大学生の時に私はM社の入社説明会と入社試験を受けた。
その会社に入りたいというわけではなかったので事前情報をあまり取得せずに向かったその先での説明会はまったくもってよくわからなかった。
「ようこそ弊社へ。お手元の資料に不足がないかをご確認ください」
そういって複数名の若い社員が私達を案内したわけだが、あとからきくと彼らはなんと私と同じ学年の学生だった。
就職試験の開始と同時に入社試験を受けた彼らは既に内定を得て、この企業でアルバイトをしているそうだ。
熱心に同学年から伝えられる会社の魅力。ステップアップ、失敗、かけがえのない人間関係…。
ほとんどマルチのような説明をきかされると、その後真打ち登場とばかりに疑惑の社長が現れる。
噂通りのワンマンゆえか、他の社員たちの緊張感が一気に高まるのを感じた。
社長は基本的な自己紹介と説明の後、とにかくこのルールは守っていただきたいと言い、
「社員旅行は強制参加。そしてとにかく失敗をすること」
と伝えた。
そこから流された会社のプロモーションビデオはとにかく恐ろしいものだった。
強制参加の社員旅行のシーンでは社長を取り囲み、皆んなで手を繋ぎ合いながら歌謡曲を口ずさむ光景が流され、それはどうみても学生が嫌悪するノリだった。
動画のそのシーンの最中、説明会に参加していた社員達が口々に「あー、この時超楽しかったー!」と称賛の声を出した。
そして次の動画では新入社員であるにもかかわらず、総務課の課長の社員の紹介がなされた。
「彼をなぜ課長にしたかわかりますか?」
と社長が問いかける。
説明会参加者が黙ると
「いまのキミ達ができなかったことを彼はやったんです」
と語り
「彼は失敗をたくさんした。半年で始末書を4枚も書いた。だから課長にした」
と答えを明かした。
もうまったく理解はできなかった。
「この後、面接の日程を送ります。私は不要な時間を好まない。内定者には面接のその場で内定を伝えます」
正直行くかどうか判断に迷った。
事業所では毎月バーベキューを行なっていて、恋人や家族も強制参加だの、内定決まり次第社長の出張に同行してカバン持ちをするだのと、明らかな荊が非常にテンションを下げた。
それでも内定はほしい。
私は面接に臨むことにした。
○
『大丈夫ですよ。社長はとても優しいです。心配しないでください』
迎えた面接の日、緊張を隠せない私に、内定者でアテンドを担当したその女は言った。
「本当にその場で内定が出るんですか?」
『はい。私もその場で言われました』
「実際どうなんですか?内定もらって。カバン持ちもして。どんな会社です?」
『成長するには最高の環境ですよ。大丈夫です』
そんな会話をしていると、隣で同じく面接を受ける別の大学生が彼女に言った。
「偉そうなこと言ってるけど同い年でしょ?いまはそうでも俺すぐ追いつくよ」
『おーっ。言ったな。忘れないからね』
ラブコメの始まりに巻き込まれた。
この後、社長と面接を行なったがどんな内容だったかはまっったく覚えていない。
唯一の記憶は、退室するギリギリまで「内定です」という言葉を待ったがそれが放たれることはなかったということ。
そしてラブコメの彼は部屋を出た後に「よっしゃー!!」と叫んでいたことだ。
数日後、私の家に不採用通知が届いた。
どんな理由なのかはわからないが、至らなかったのだろう。
あれからしばしば考える。
落ちた身で言うのもなんだが、多分あの会社は入らなくてよかった、と。
あのラブコメコンビは元気だろうか。
いずれにせよ、あの会社が今回の事故に一枚噛んでいるというのであれば、その責任は負うべきである。
もっとも、あの手のワンマン社長が責任を負うなど、100%有罪の証明でもなされない限りは無いだろうが。
だが、原因究明には100%の証明を行うべきだ。
事態の進展を祈る。
遺された方々の気持ちを思うと胸が締め付けられる思いだ。
一刻も早く進展を願う。
一時、この事件の裏側に国内の大手企業であるM社がコンサルとして絡んでいるという疑惑が出て、いまだにその払拭には至っていない。
徹底した黒字化のためコストカットの繰返しが本件の一因であるとされているが真偽のほどはわからない。
○
大学生の時に私はM社の入社説明会と入社試験を受けた。
その会社に入りたいというわけではなかったので事前情報をあまり取得せずに向かったその先での説明会はまったくもってよくわからなかった。
「ようこそ弊社へ。お手元の資料に不足がないかをご確認ください」
そういって複数名の若い社員が私達を案内したわけだが、あとからきくと彼らはなんと私と同じ学年の学生だった。
就職試験の開始と同時に入社試験を受けた彼らは既に内定を得て、この企業でアルバイトをしているそうだ。
熱心に同学年から伝えられる会社の魅力。ステップアップ、失敗、かけがえのない人間関係…。
ほとんどマルチのような説明をきかされると、その後真打ち登場とばかりに疑惑の社長が現れる。
噂通りのワンマンゆえか、他の社員たちの緊張感が一気に高まるのを感じた。
社長は基本的な自己紹介と説明の後、とにかくこのルールは守っていただきたいと言い、
「社員旅行は強制参加。そしてとにかく失敗をすること」
と伝えた。
そこから流された会社のプロモーションビデオはとにかく恐ろしいものだった。
強制参加の社員旅行のシーンでは社長を取り囲み、皆んなで手を繋ぎ合いながら歌謡曲を口ずさむ光景が流され、それはどうみても学生が嫌悪するノリだった。
動画のそのシーンの最中、説明会に参加していた社員達が口々に「あー、この時超楽しかったー!」と称賛の声を出した。
そして次の動画では新入社員であるにもかかわらず、総務課の課長の社員の紹介がなされた。
「彼をなぜ課長にしたかわかりますか?」
と社長が問いかける。
説明会参加者が黙ると
「いまのキミ達ができなかったことを彼はやったんです」
と語り
「彼は失敗をたくさんした。半年で始末書を4枚も書いた。だから課長にした」
と答えを明かした。
もうまったく理解はできなかった。
「この後、面接の日程を送ります。私は不要な時間を好まない。内定者には面接のその場で内定を伝えます」
正直行くかどうか判断に迷った。
事業所では毎月バーベキューを行なっていて、恋人や家族も強制参加だの、内定決まり次第社長の出張に同行してカバン持ちをするだのと、明らかな荊が非常にテンションを下げた。
それでも内定はほしい。
私は面接に臨むことにした。
○
『大丈夫ですよ。社長はとても優しいです。心配しないでください』
迎えた面接の日、緊張を隠せない私に、内定者でアテンドを担当したその女は言った。
「本当にその場で内定が出るんですか?」
『はい。私もその場で言われました』
「実際どうなんですか?内定もらって。カバン持ちもして。どんな会社です?」
『成長するには最高の環境ですよ。大丈夫です』
そんな会話をしていると、隣で同じく面接を受ける別の大学生が彼女に言った。
「偉そうなこと言ってるけど同い年でしょ?いまはそうでも俺すぐ追いつくよ」
『おーっ。言ったな。忘れないからね』
ラブコメの始まりに巻き込まれた。
この後、社長と面接を行なったがどんな内容だったかはまっったく覚えていない。
唯一の記憶は、退室するギリギリまで「内定です」という言葉を待ったがそれが放たれることはなかったということ。
そしてラブコメの彼は部屋を出た後に「よっしゃー!!」と叫んでいたことだ。
数日後、私の家に不採用通知が届いた。
どんな理由なのかはわからないが、至らなかったのだろう。
あれからしばしば考える。
落ちた身で言うのもなんだが、多分あの会社は入らなくてよかった、と。
あのラブコメコンビは元気だろうか。
いずれにせよ、あの会社が今回の事故に一枚噛んでいるというのであれば、その責任は負うべきである。
もっとも、あの手のワンマン社長が責任を負うなど、100%有罪の証明でもなされない限りは無いだろうが。
だが、原因究明には100%の証明を行うべきだ。
事態の進展を祈る。