会議は沈黙と緊迫感でいっぱいだった。
劇場版七つの会議で行われていたそれよろしく、特別参加した役員は、前期ノルマ未達となった我々を責め立てた。
「できないできない言うな。ノルマは毎年あがる。それを毎回達成する。でも今年は数字を下げたからな。これはつまり必達ってことだ」
その数字は下がったというにはあまりに厳しい、あくまで前期ノルマに比べればマシ程度のものだった。
誰も口を開かない。
音の無い時間が続いた。
そんな静寂を切り裂く出来事が発生したのは役員の叱咤から数分後だ。
私の隣の席に座っていた川崎のパソコンが突然、プシューーーーーーーーーッという禍々しい機械音を吐き出したのだ。
機械に詳しくなくてもわかる。そのプシューーーーーーーは明らかにパソコンからあがる悲鳴だった。
川崎を見ると彼女はまるでそれが自分のPCではないですよとでも言わんばかりに正面を見据えている。
周囲に悟られぬよう、私は小声で彼女に話しかけた。
「…(ねえ)」
『…(なんですか?』
「(キミ、あきらかにiTunes開いてるよね)」
『開いてません!』
川崎の音量が大きくなったことですぐ前の席の浜野が後ろを振り返った。
私と川崎はまるで何もなかったかのように俯き、浜野と目を合わせなかった。
『(やめてください。浜野さんに見られました』
「(いやでもアルバム読み込ませてるとしか思えない禍々しい音を放ってるよ)」
『(止まらないんですよ。低スペPCだから。何も読み込んでません』
「(あ、そう)」
…
…
…
「(ねえ)」
『(なんですか?)』
「(空気清浄機まわしてる?)」
『まわすわけないでしょ』
川崎の食い気味な解答の音量が再びセーフラインを飛びこえた。
今度はまさにいまさっきまで全員を強く叱りつけていた役員が、私達のほうをチラッと睨んだ。
慌てて私は目線を逸らしたが、川崎も同様のようだった。
『(マジでやめましょうよ)』
「(だってもう空気環境整えてるとしか思えない音が…)」
『(パソコンで空気キレイにできるわけないでしょ!やめてください』
「(ごめん)」
…
…
…
『(あの…』
「(何?)」
『(さっき空気清浄機まわしてるかききましたよね?)』
「(きいたよ)」
『(あの、それって…』
「(何?)」
『(私のこと、臭いって思ってるってことですよね?』
「いやいやいやいや…一言も言ってないでしょ」
『普通空気清浄機なんて思いつかないでしょ。私そんなに臭いですか?』
「いや臭いなんて思ってないから。空気清浄機は俺のセンスだから」
高まるボリューム。
役員は私と川崎を明確に指し、静かに言った。
「そこの2人。なんか文句あんのか?」
「ありません」
『ありません』
「喋りたいなら外出てやれ」
無惨。
30過ぎてめちゃくちゃ幼稚なことで怒られてしまった。
気がつくと川崎のPCは、プシューーーーーっと鳴くのをやめていた。
○
「正直キミ、何をしてたの?なんかアプリダウンロードした?」
『してませんよ…会社PCだからアプリ規制されるでしょ』
「じゃあ何してたの?」
『いや、つまんないですよ?』
「いいよ。教えてよ」
『母の日のプレゼント、アマゾンで隅から隅まで調べて探してました』
「ああ」
皆さん。5月8日は母の日です。
日頃から感謝、伝えていますか?
親が子に無償の愛を注ぐように、子から親への溢れる愛、伝えることができていますか?
プレゼントはもう買いましたか?
仕事よりも、ノルマよりも会議よりもきっと、大事なことはこの世の中にたくさんあるはずです。
そのうちのひとつが、母への感謝です。
良い母の日を、皆で送りましょう。
劇場版七つの会議で行われていたそれよろしく、特別参加した役員は、前期ノルマ未達となった我々を責め立てた。
「できないできない言うな。ノルマは毎年あがる。それを毎回達成する。でも今年は数字を下げたからな。これはつまり必達ってことだ」
その数字は下がったというにはあまりに厳しい、あくまで前期ノルマに比べればマシ程度のものだった。
誰も口を開かない。
音の無い時間が続いた。
そんな静寂を切り裂く出来事が発生したのは役員の叱咤から数分後だ。
私の隣の席に座っていた川崎のパソコンが突然、プシューーーーーーーーーッという禍々しい機械音を吐き出したのだ。
機械に詳しくなくてもわかる。そのプシューーーーーーーは明らかにパソコンからあがる悲鳴だった。
川崎を見ると彼女はまるでそれが自分のPCではないですよとでも言わんばかりに正面を見据えている。
周囲に悟られぬよう、私は小声で彼女に話しかけた。
「…(ねえ)」
『…(なんですか?』
「(キミ、あきらかにiTunes開いてるよね)」
『開いてません!』
川崎の音量が大きくなったことですぐ前の席の浜野が後ろを振り返った。
私と川崎はまるで何もなかったかのように俯き、浜野と目を合わせなかった。
『(やめてください。浜野さんに見られました』
「(いやでもアルバム読み込ませてるとしか思えない禍々しい音を放ってるよ)」
『(止まらないんですよ。低スペPCだから。何も読み込んでません』
「(あ、そう)」
…
…
…
「(ねえ)」
『(なんですか?)』
「(空気清浄機まわしてる?)」
『まわすわけないでしょ』
川崎の食い気味な解答の音量が再びセーフラインを飛びこえた。
今度はまさにいまさっきまで全員を強く叱りつけていた役員が、私達のほうをチラッと睨んだ。
慌てて私は目線を逸らしたが、川崎も同様のようだった。
『(マジでやめましょうよ)』
「(だってもう空気環境整えてるとしか思えない音が…)」
『(パソコンで空気キレイにできるわけないでしょ!やめてください』
「(ごめん)」
…
…
…
『(あの…』
「(何?)」
『(さっき空気清浄機まわしてるかききましたよね?)』
「(きいたよ)」
『(あの、それって…』
「(何?)」
『(私のこと、臭いって思ってるってことですよね?』
「いやいやいやいや…一言も言ってないでしょ」
『普通空気清浄機なんて思いつかないでしょ。私そんなに臭いですか?』
「いや臭いなんて思ってないから。空気清浄機は俺のセンスだから」
高まるボリューム。
役員は私と川崎を明確に指し、静かに言った。
「そこの2人。なんか文句あんのか?」
「ありません」
『ありません』
「喋りたいなら外出てやれ」
無惨。
30過ぎてめちゃくちゃ幼稚なことで怒られてしまった。
気がつくと川崎のPCは、プシューーーーーっと鳴くのをやめていた。
○
「正直キミ、何をしてたの?なんかアプリダウンロードした?」
『してませんよ…会社PCだからアプリ規制されるでしょ』
「じゃあ何してたの?」
『いや、つまんないですよ?』
「いいよ。教えてよ」
『母の日のプレゼント、アマゾンで隅から隅まで調べて探してました』
「ああ」
皆さん。5月8日は母の日です。
日頃から感謝、伝えていますか?
親が子に無償の愛を注ぐように、子から親への溢れる愛、伝えることができていますか?
プレゼントはもう買いましたか?
仕事よりも、ノルマよりも会議よりもきっと、大事なことはこの世の中にたくさんあるはずです。
そのうちのひとつが、母への感謝です。
良い母の日を、皆で送りましょう。