『隣の営業部に異動してきた松岡陽太さん、すっごいチャラチャラしてて面白いですよ』
「同じ松岡なのにエライ違いですよ」
『あちらの松岡さんはまさに陽キャですからねー。名前通り』
隣の席の木下はパソコンを操作しながら、私のことを見ることなく淡白にそう言った。
松岡陽太はたしかに底抜けに明るかった。
けれども私はそんな松岡陽太が好きではなかった。
同性で私に無い物を持っている故の嫉妬もあるかもしれない。
だがそれ以上に彼の仕事の取り方が私はとても嫌いだった。
「彼っていまいくつなんです?」
『たしか30ちょうどだったような…』
「30にもなってまだ人柄とか明るさだけで仕事取ろうとしてるんですか、彼」
『えー。でもそれができるってすごいことなんじゃないですか?』
「誰だってできますよ。それで勝負ってダサいっすよ」
以前から松岡陽太が担当していた案件を引き継ぐことがあったが、その顧客と彼の距離感は私を大いに不快にさせた。
また、彼は私と話す際に「同じ松岡同士で松岡さん松岡さん呼びあうの変じゃないですか?だから下の名前で呼びあいましょうよ。ね、洋佑さん」と一方的に距離を詰めてきた。
「わかりました陽太さん」
そう言ったにも関わらず、翌日の電話でこちらが「陽太さん、スケジュール調整どうですか?」と尋ねると彼は「もう少し待ってもらえますか松岡さん」とド派手な裏切りをかましてきたのだ。
以来どうにも彼が好かなかった。
「だいたいね、彼は明るい明るい言われてますけど、僕は見た目が暗そうなだけで、内面の明るさは彼を凌駕していますからね」
『まあでも向こうは見た目も内面も明るい、正真正銘の陽ですからね』
「木下さんはどっちが良いですか?僕と陽の松岡」
『私はもちろん、陰の松岡さんですよ』
「誰が陰だよ!」
○
あの隣の部の松岡陽太って知ってます?
ああ。あの明るい子でしょ?
そうそう。それでね。あの明るい松岡陽太を5人合わせて、最強の松岡陽太。太陽松岡を作ろうと思います。絶対にだ。ぜーったいに。
…ちょっと何言ってるんですかね?ええ。でもあれだけ明るい松岡陽太が、太陽になるんですから!楽しみですね!
松岡陽太です。
おっ
松岡陽太です。
おっ
松岡陽太です。
おっ
松岡陰太です。
あ、あれ?
松岡陽太です。
ちょ…
合体!!!!!
あれ!??松岡陽太の中に!!松岡陰太が混ざってるぞ!!いったい、どーなってしまうんだぁ!?
つぅーばーめよぉー♪
ダメー
○
『松岡さん、私しばらく飲みに行けなくなりました』
「えー。木下さんだけが飲み友達なのに…。忙しいんですか?」
『うーん』
「どれくらい飲みにいけないんですか?」
『えーっとトータル1年半くらい?』
「うん?あれ?それって」
『察してください』
「うおー!おめでとうございます!そういうことですよね?」
『ありがとうございます。だから飲みに行けません。残念ながら』
「一応きいてもいいですか?」
『何をですか?』
「俺の子か?」
『は?』
「…いやその、、、これは誰にでもやるおめでたギャグなんで」
『二度とやらないほうがいいですね』
「でも木下さん誘えないといったい誰と飲みにいけば…」
『井元さんを誘えばいいじゃないですか。好きなんでしょ?』
「そうですね…」
『井元さんも多分喜びますよ。誘ってもらえたら』
「…いや喜ばないでしょ。気まずいですよ」
『えー。松岡さんと飲むの、井元さんでも楽しいと思いますけど』
「いや断られたらしんどいんで…」
『そういうところが陰キャなんですよ。陽の松岡はそんなの気にしないですよ。陰キャ卒業しましょう』
心臓を貫くような一言ではないか。
「そ、そんなひどいこと言わなくたっていいじゃないですか…」
『じゃあ誘ってみてください』
そう言われて私は重い腰をあげた。
そして井元さんの席へ行き、周囲に誰もいないことを確認し、彼女に告げた。
「井元さん、もし良かったら今日飲みにいきませんか?」
『…すみません。今日はちょっと』
断られとるやないか。
「断られとるやないか!」
『あらー。まあでもこれで陰キャ脱出の第一歩ですよ』
「だから俺、陰キャじゃないから!」
目指せ太陽への道。
木下さん、おめでとうございます。
でも妊娠3カ月ですぐ報告するあたり、ウキウキしすぎだZE☆