自分の保有する賃貸物件で自殺が発生した・・・

これは大家にとっては悪夢以外の何物でもありません。

 

私も経験がありますが、自殺が発生した後の室内のあの血の

匂いや飛び散った血しぶき、血だまり等、ゾッとする経験です。

 

さて、大家としてはそんな事態が発生した場合、どのような

手続きや注意すべき点があるのでしょうか?

 

請求できる費用は?募集にあたって注意すべきことは?

過去の事例をもとに考えてみましょう。

 

まず、大前提として知っておくべきことですが、賃貸物件を賃借している入居者は賃借人としての善管注意義務を負っています。

 

これは・・・、

 

『建物の賃借人は当該建物の使用収益に際し、善良なる管理者の注意をもってこれを保管する義務を負っている』

(H26.8東京地裁判決他判例多数)

というもので、民法400条を根拠としています。

 

賃借中の室内で本人または同居者、転借者が自殺した場合、心理的嫌悪感が発生してこの部屋が一定期間貸せなくなる、または貸せても賃料の減額を余儀なくされ、部屋の価値が毀損されることから、賃借人は同居人や転借人が室内で自殺しないよう配慮する義務があるので、(本人を含む)自殺の発生は善管注意義務違反であることが認められています。

 

善管注意義務違反による債務不履行にもとづく損害賠償請求として、入居者、連帯保証人にさまざまな請求をしていきます。

ただし、すべてが認められるわけではありません。

 

それではひとつひとつ見てみましょう。

 

■損害賠償請求

物件の所在地、広さにもよりますが都内の単身用物件なら

おおむね以下が基準となります。

 

逸失利益の考え方に基づくものですが・・・

 

心理的嫌悪感の発生により貸せなくなる期間 → 1年

その後、家賃を半額に下げなければ入居が決まらないと

される期間 → 2年

 

と認定し、これに、中間利息等を考慮して算出します

(ライプニッツ係数を使用)

 

たとえば、家賃6万円の部屋なら

1年目 6万円 X 12か月 X 0.9523

2年目 3万円 X 12か月 X 0.9070

3年目 3万円 X 12か月 X 0.8638

 

の合計額が請求額として認められる基準となります

上記の合計は約132万円です。

 

なお、心理的嫌悪感は時間とともに希薄化されて消失する

という考え方から、都心部の物件なら3年で算出しています。

 

ただし、辺境部にあって大量殺人が発生した物件などでは

この限りではありません(風評が長期間残り心理的嫌悪感

が払拭されるのに時間がかかるため)

 

三軒茶屋駅から徒歩5分のワンルームマンションで発生した

自殺と、札幌から車で2時間はなれた人口7000人の町の賃貸

戸建で発生した自殺では、賃貸需要、人の出入り、風評の

残存期間も異なるので認められる請求額も異なってきます。

 

■大家への慰謝料

認められません

 

■原状回復費用

経年劣化を超える部分は請求OK

ただし、フルリフォームしても全額は認められません

自殺者が部屋の中を動き回り血だらけの室内になっていても、

拭けばとれる血痕等の汚れならだめです。

 

血だまりとなった箇所で血がふき取れなくて床材の張替と

なった場合は請求が認められています。

 

■自殺発生した部屋の階下や両隣の家賃下げ

認められません。

そもそも自殺が発生した部屋のみ心理的嫌悪感による損害が発生するとの考え方なので・・。

 

続いて募集に関してですが、自殺物件には告知義務があります。

自殺があった物件を募集する際、宅建業者はその旨を入居を

希望する人に告げなければなりません(宅建業法47条)

 

ただし、自殺発生後最初の賃借人に対しては告知義務がありますが、その人がよほど短期間で退去しない限り、その後の賃借人には告知する義務はなくなります。(H19.8.東京地裁判決)

 

また、自殺が発生した部屋の隣や階下の部屋の募集の際も、

賃借人に対し告知を行う必要はありません。

(H19.8 東京地裁判決)

 

■連帯保証人または保証会社への弁済請求

●連帯保証人・・・

入居者が入居に関して貸主に負うすべての責任について連帯

保証していれば請求OK

 

●保証会社・・・

賃借人の責めに帰すべき事由で居室に生じた滅失・毀損は約款で保証の対象外としていることが多い。

 

もっとも昨今は孤独死を対象に特約で限定した範囲で保証の

対象としている保証会社もあります。

 

入居者の帰責性の有無が問われますが、保証会社利用であれば自殺については保証の対象となるか確認したほうが良いでしょう。

 

今後、民法が改正され保証についても改正が予定されています。

保証人が個人の場合、極度額を設定することが義務化されます。

 

賃貸借契約を入居者と結ぶ際、連帯保証人を取る場合、保証

の極度額(保証人が支払う上限額)を保証契約締結の際に

明示することが必須となることから、今後賃貸契約を結ぶ際

に自殺発生の場合の逸失利益の算定の方法としてご留意ください。

 

また、これも民法改正に伴うことですが、現在民法上の

法定利率は年利5%ですが、これが改正により3%となるので

ライプニッツ係数による逸失利益の算出金額も上記の金額

より増えますのでご留意ください。

 

実は今月3月は自殺防止月間です。

自殺の発生は3月が最も多いことから制定されています。

私が経験した自殺案件も3月に発生しています。

 

空室解消だけに注力するだけでなく、入居者の異変にも

気を配ってください。