熱いなあ、うんと熱いやあ

頭のなかがぐつぐつ

煮えたぎっているみたい

この調子じゃ3時のおやつまでに

脳はすっかりどろどろになっちゃうよ

 

いやねえ、

あなたに脳みそなんてないでしょ

脳みそみたいな形をしているけれど

 

惜しげもなく燦々と

パパの威厳のような熱さで焼いて

ママの温もりのような優しさで包む

 

ぼくたちをこんなに

立派に育ててくれた

 

だけどああ、熱い!

熱いったらありゃしない!

 

キャベツは発狂気味に卒倒した

 

わたしは水筒の水を振りかけた

だけど水滴な飛び散って

外葉を湿らせただけだった

 

キャベツは葉が傷んで黄色く変色して

嫌な匂いを発散し

あちこち黒ずみはじめていた

 

こんなことは

これまでだって何度もあった

その度に水をかけてやったり

日陰で休ませてやったりした

すると萎びた葉は張りを取り戻し

若々しい青色に変わった

 

時々、農家の畑に埋めてあげたりもした

それをキャベツは喜んだ

そんな時葉も少しだけ

大きくなったような気がした

 

わたしたちはずっと旅を続けてきた。

 

旅の道中キャベツは

何度も危機的な状況に陥り

わたしは大切なひとを失う

悲しみを覚悟したものだ

 

でも、彼は外葉をひらひらさせ

へっちゃらさ

おどけてみせた

 

キャベツは倒れても、倒れても

七転び八起き!

と言って立ち上がった

 

今回ばかりは様子が違うみたい

おどける気力もないらしい

ぐったりして

すっかり萎びれてしまった

 

いよいよ、だめかもしれない

ああ、せめて水でも

浴びせてやることができたら

 

もうすぐあなたの故郷よ

ここまでずっと旅をして来たじゃない

もう少しの辛抱よ

 

わたしはキャベツを

励ました

 

キャベツはわたしの言葉に

萎びれた葉先をぱたぱたと

震わせて応えた

 

それが精一杯の反応だった

 

キャベツの故郷がどこにあるのか

わたしは知らない

どうやら彼も知らないみたいだった

 

わたしたちは旅の終着点も分からず

旅を続けていたのだ

 

西に向かう

ただそれだけが唯一旅のルール

 

ああ、、ダメかもしれない、、

もう少しキミと旅を続けたかったな

 

よしてよ

湿っぽいこと言うのはなしよ

 

 

旅の終着地に辿り着くことが

できなくても

旅を終わらせることはできる

本当はそれでいいのかもしれない

 

わたしも彼ともう少しだけ

旅を続けたかった

 

 

 

いつ間にかわたしは眠っていた

 

夢を見ていたのかもしれない

 

石ころ蹴飛ばすと、婦人に当たって

彼女はこちらを振り向いた

品性と優雅さをまとったカエルだった

 

痛いじゃないの

 

カエルは眼を細めて

じっとわたしを見つめた

 

 

さあ来なさい

許してあげるからこっちに来なさい

あなたをずっと探していたのよ

カエルはわたしの手を引いて跳躍した

天を駆け巡り

やがてわたしたちは星になった

 

随分と眠ってしまったみたい

 

さあ行きましょう

わたしキャベツを抱き抱えた

キャベツは干からびていた

水分が抜けてぱりぱりに

 

葉を剥がした

剥がしても剥がしても乾いていた

その中心には

もう芯と呼べるものもなかった

 

ハルマッタンが吹くと

キャベツの葉切れは

風に舞って飛んでいった

 

 

 

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