殴られるのは怖くないよ」
そう言って杉さんは笑った。



「殴られるのは怖くないけど…、
負けることが怖かった
杉さんがポソリと言った。


これは、ボクサーだった頃を想像して聞いた時の答えだ。
殴られるのは痛いだろうし怖いだろうと思っていたのに。

「ボクサーはみんなそうやろ」
と言われても、
私には、殴られる痛みより怖いものがあるのがわからない。

だって私が明日リングに立つとしたら、
…やっぱり怖い。
どれだけ強くて早いパンチがくるのだろうと考えて、きっと夜も眠れない。
逃げ出したくなるほど怖い!

と、考えてる時点で私はボクサーになれないらしい。
鼻っからパンチをもらうことを考えてる時点で失格だそうだ。
そりゃそうか。
私はリングに上がる前にもう負けを認めてるんだな。


思えば、
仕事もプライベートも、戦う前にひいていたかもしれない。
リングにあがろうともせず、
楽な道を、
出来るだけ無傷でいられる道を歩んで来た気がする。
上手く生きてきたつもりが、無意識に負けを認めながら、色んなことを避けてきただけなんだな…。


私は昔からボクシングが好きだった。
それも、華やかなチャンピオン達ではなく、
4回戦ボーイと言われるような、
若者らしい遊びもせずにバイトとジムを行き来するだけの無名のボクサー達に憧れてきた。
彼らには勝てないと、昔も今も思っている。

どうして彼らに勝てないと思うのか、やっとわかった。
彼らの、自分自身と明日を信じて努力する姿に圧倒されてたんだ。
ボクシングのリングに、人生のリングに自分の力で上がろうとする姿に。
それら全てが私には無いものだからだ…。


私もリングサイドからリングを目指そう!
明日は月曜日。明日から心新たに仕事をしよう!
パンチは浴びても負けないように頑張ろう!