なかなか刺激的なタイトルだ、と書いてる本人も思いますが、テーマはタイトル通りです。
でもまさかオプチャで「MARCH卒は幸せになれないんですか?」と質問があったわけではありません。以下の返答は「MARCH附属中と、東大に10人ほど受かっている進学校と、両方合格をいただいたのですがどちらに進むべきか迷っています」でした。
そのご質問に対するお答えを、少しデフォルメしたのが以下です。
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まず、これを書いている僕は三浪でMARCH卒です。
現役の時国立に入り(都内の自宅から通いましたが、東大&東工&東外大ではありません)、1年の夏に父を亡くし、下に僕よりも出来の良いきょうだいが居たので、辞めてドライバーをしました。
と言うと、「弟妹さんのために偉いですね」としばしば言われましたが、それは美し過ぎる誤解でして、弟妹の為に涙を呑んで辞めたわけではありません。
実家はけっして豊かではなかったので、3人の子供が大学を終えるのは無理だったこと。多少の親父の生命保険はあったものの、働き手はパート勤めの母しかいませんでしたから。
そして僕自身があまり大学で学ぶことに意義を見いだしていなかったこと。選んだ学部も法学部でしたが、法曹の道にいきたいとも思っていなかった。一応、学区(当時は都立は学区制でした)二番手の進学校だったので全員が大学に進んだので、自分もなんとなく受験したものの、刺激的でワクワク楽しい日々、ではありませんでした。まだ一般教養科目でしたしね。
そこで残された長男として、何が限られた資源の有効活用かと考えたら自分が働き彼らを進学させた方がいいだろう、と判断したわけです。僕より優秀な下の2人が学士になった方がひいては日本のためになるのでは?そこまで思ったかどうかは別として、「自分を殺して涙を呑んで」譲ったわけではありません。車の運転も好きで、何と言うか「これぞ男の仕事」みたいな変な憧れもありましたし笑
そして働いて貯めたお金を元に21歳の時にMARCHに行きました。その動機は本論からズレるのでくどくどしく書きませんが、まあ「隣の芝生が青く見え」た結果だ、とだけ言っておきましょう。
ですから、高卒後3年経って大学入学、世間の言い方をすれば「三浪」だったわけです。
そんな紆余曲折を経たので、自分の卒業大学についての意識は全くフラットでした。恥じることも誇ることもなかった。だいたい正社員として働き、残りの時間で勉強して早慶の文系は全く無理です。それができるのは余程の頭脳の持ち主です。つまり、僕なりに最善を尽くした結果、でしたから。
しかし、この仕事に就き、塾講師&家庭教師として働くうちに、MARCH卒はどちらかと言えばマイナス(大きなマイナスではありませんが、東大はもちろん、旧七帝大&早慶一橋東工大卒に比べると決して加点にはならず、わずかながら減点)という属性なのだ、と知りました。
そして世の中には、MARCH卒を相手にしない会社もたくさんあることを知りました。いや、正確には「兵隊としてなら採るよ。でも将校は無理」というスタンスでしょうか。また、「MARCHなんて人権ない」と言って憚らない人の存在も知りました。
MARCH付属は、だいたい四谷大塚&日能研偏差値で57くらい。小学生の上位2割が中学受験をして、その中の偏差値57というと、同学年の中の0.2×0.25(正規分布で偏差値57は上位25%)で、上位5%となります。
MARCHの大学の定員の合計は30,000人弱。MARCHより上の大学が25000人。(ざっくりです)今の18歳は112万人ですから、割合は約5%
だいたい合致しているわけですね。
その同年代の学年の、20人に1人しか入れない学校を「人権ない」というのはどうかと思いますが、でも、真剣に「MARCHじゃ幸せになれない」という方がいるのもまた、動かしがたい事実です。
前に少しお話しました。このオプチャで、始終僕とバトルを繰り広げたお母さん。僕が「勉強より大切なことがある」と言うと「それはきれいごとです」といつも噛み付いてきました。今は退室して居ないようですが、その方がはっきりおっしゃってましたね。「うちの会社はMARCH卒なんて相手にしません。入社することもできません」と。
そして僕が何かの機会にMARCH卒だと言ったら
「えっ、MARCH卒で御三家受ける子の指導?もう驚きしかありません」と言われました。まあ、この業界ではあるある、です。慣れているので「ああ、それは驚かせてごめんなさい」と返しましたが。
家庭教師でも、少し教えて直ぐに講師交代(簡単に言うと「クビ」です)になる家庭は、だいたいお父さんが早慶一橋以上。そうはおっしゃらないけど「MARCH卒に教えられるんかい」と思っているのでしょう。最初は派遣会社がお薦めするのでつけてみたものの、大して伸びないし、やっぱり自分と同等の大学の人に替えてもらおう、と。
今の日本の教育、あるいは入試を取り巻く状況においては、「高偏差値=たゆまない努力をしたこと」(とりわけ文系においては)なので、偏差値が低い人を「ダメだ」と考えるのは、まあ、暴論ではありません。確率論で言ったら偏差値55の人より65の人の方に「優秀」(ここで、何をもって「優秀か」ことが論点になり得ますが、それまで語り出すと話が広がって収集つかなくなるので、置いておきます)な人が多く存在するでしょう。
ましてや、ご自分がその努力をしてきた訳ですから、それが出来なかった人を「ダメ」とするのは極めて合理的なわけですね。
話が逸れました。「幸福論」でしたね。話を戻しましょう。
そういう方―つまり「MARCH卒には人権がない」と言う方―にとって「幸せ」とは、年収4ケタ(1000万)が最低ライン、23区内(それも隅田川より西)の駅から至近の4LDK以上の分譲マンションに済み、2人のお子さんも中学から私立に通わせる、そんな人生と規定しているのでしょう。これは、やはりお父様お一人で1000万の年収がないとかなわないでしょうね。となると、確かに「MARCHでは幸せになれない」わけです(ダブルインカムで世帯収入1000万も有り得ますが、ここではあえて無視します)
そのような人に「いや、MARCH卒でも幸せになれる」と力説しても仕方ありません。「幸せ」の定義が違うのですから。
結局、こういう時に最後に尺度になるのは「あなたにとって幸せってなんですか」になると思うんです。
気立てのいいお嫁さんをもらって、一流企業じゃなくてもいいから、きちんと勤めて周りや取引先から頼りにされて、日曜日には家族で息子の草野球の応援に行って帰りにファミレスで好きなものを食べて、娘のバレエ(ピアノ)の発表会にはカメラマンとして活躍して、家族揃って健康で笑いが絶えなくて…
それが幸せなら、MARCHだって、いや、成成獨國武だって日東駒専だっていい。東大を初めとする七帝大、早慶一橋じゃなくていいわけです。
しかし、バトったお母さんのように「MARCHは人に非ず」なら、もっと上を目指して頑張るべきです。そういう人にとって↑↑↑のような人生は「つまらない人生」に他ならないでしょうから。
と書くと、いかにも高学歴の方が「拝金主義者」のように読めてしまいますが、もちろん、例えば国のグランドデザインを描きたいんだ、とか、単なる歯車(一兵卒)ではなく、幹部として世界的な企業の舵取りをしたいんだ、というような根源的な欲動もあるでしょう。東大早慶一橋を目指す人が、年収や住む家のことしか考えない、ゴリゴリの唯物主義者だ、という気は1mmもありません。
また、最上位の子には「この世の中は、君らのような抜群の頭脳の持ち主でないと解決できない問題が山積している。どうかその天から与えられた優秀な頭脳で、そのような問題を解決してくれ」とよく言うのですが、中堅の子に寄り添うあまり、御三家を受ける子を悪くいう気も、これまた、1mmもありません。
すみません、まとまりませんが、ご家族でもう1度、「幸せってなんだろう」とすり合わせをなさってみてはいかがでしょう。
まあでも、人生いくらでもやり直しはききます。ダメだったらダメだと思った時にやり直しても、今は大人になるのにいろいろなルートがあるから大丈夫ですよ。この判断で残りの75年の人生が決定づけられるわけではありませんから。
(中学受験相談所 2023.2.6)