久しぶりの更新です。
私がブログを離れていた間に世界は様変わりしてしまいました。
これほどまでに一つのウイルスが世界を破壊してしまうとは、2月はじめには思いもしませんでした。

2月4日のワールドキャンサーデーのイベントでの出張の後、私はルーブル美術館で開催されていたレオナルド・ダ・ヴィンチ没後500周年の特別展を見にパリに行ってきました。
その頃はまだコロナはヨーロッパには上陸しておらず、日本にいるより安心だとばかり思っていました。
向こうではマスクをつけている人は一人もおらず、私も飛行機を降りたところからずっとしていませんでした。
それが今やどういうことでしょうか。
たった数週間で感染の中心地はヨーロッパとなり、都市は封鎖され別世界となってしまいました。
行ったばかりのパリの街が戦場やゴーストタウンのようになっているのをテレビで見ては心を痛めています。

パリでの旅行記はまた改めて書くこととして、私の近況をご報告しておきます。
パリでルーブル美術館やオルセー美術館、オペラ座でのバレエ鑑賞などを楽しんで2月半ばに帰国したのですが、間もなく高熱を出してしまいました。
当時はまだヨーロッパはコロナ汚染されていなかったので、一応確認はしましたが普通に近医で受診してよいとのことでかかりつけのクリニックに行きました。
インフルエンザAの陽性反応が出たためコロナではなかったのですが、それから一週間家に隔離されておりました。

病み上がりもそこそこに、そのまま確定申告の繁忙期へと突入しました。
日々ひたひたと忍び寄るコロナの影響は、経営者として無縁ではありません。
事務所のスタッフ達のマスクの手配や消毒液の設置と確保、使い捨てペーパータオルや手をかざすだけで消毒液が出てくる装置の導入、手洗いうがい消毒のマニュアル化、クライアントとの接触記録簿の作成、感染者が出た際の行動プランを何通りかのシナリオを検討して用意するなど、2月中から先手先手で取り組んできました。
初期の段階で身近なところに感染が出て消毒やPCR検査を受けたという方がいたため、危機感を持って早めに動きだしました。
途中で何の根回しや通知もないまま確定申告の期限が一ヶ月伸びましたが、一人でも感染者が出てしまったら事務所を閉鎖しなくてはならなくなるため、例年よりも大急ぎでできる限り早めに確定申告を片付けました。

オリンピック延期の発表後、急速に状況が変わりました。
もはや東京は他の大都市と同様に時間の問題かもしれません。
私も事務所の閉鎖を現実的な問題としてとらえたプランをいくつか策定しなくてはならなくなりました。
情報収集をしたところ、どうやら東京都ではテレビ等のメディアなどで出している以上の情報は持っておらず、シナリオ作成やそれに基づいたプランの策定もしていないようです。
せいぜい選手村を病院に転用する話が進んでいるくらいで、コロナ死やコロナ関連死を防ぐための対策や、企業や労働者の生活防衛のための救援パッケージなどはノープランのようでした。
やるつもりがないどころか、やる権限がないとすら思いこんでいるようでした。
いくつくらいプランを用意してあるのかと思っていたのですが、プランはなく、プランの元となるシナリオもなく、グランドデザインなしで行き当たりばったりで現場の努力だけでやろうとしているようです。
いつもの日本的手法です。
多くの国々や都市が墜落は避けられないもののせめてソフトランディングしようと尽力している中で、このまま何もせず、やらないための理由ばかりを探しながらハードクラッシュな墜落をしようとしているのです。
高い税金を何のために払ってきたのだろうかと怒りを覚えました。

新型コロナウイルスは多くの人には軽症なのだから、騒ぎすぎるな、調べすぎるな、正しく怖がれ、という声もよく聞かれます。
しかしそこに抜け落ちている観点は、このウイルスは人を選ばずに感染するものではありますが、そのダメージは既存の不平等に沿って分配されるということです。
体の弱い人、持病のある人、高齢者などの重症化リスクが高いことは既に多くのデータが示した通りです。
弱い人ほど死亡リスクにさらされます。
さらに、社会的・経済的なダメージの大きさも社会の不平等に沿って分配されます。
学校の一斉休校が決まった際に最もダメージを受けたのは、ひとり親世帯や非正規などの不安定な雇用の方々でした。
数々の自粛による経済のシュリンクのダメージはより貧しい人、不安定な人、小さい会社ほど大きくなります。
私の事務所の顧問先でも売り上げが前年同月対比90%減というところも現れてきています。
この状況が二か月、三か月続くと大変なことになります。
多くの中小企業では2,3か月ほど売り上げゼロで持ちこたえる資金力があるところは少ないです。
大きな会社ほどの余力がない中小企業では、このコロナウイルスによる自粛のダメージの受け方が甚大なものとなるのです。
同じコロナウイルスであるにも関わらず、そこから生じるダメージはまったくもって不平等です。
この不平等は果たして「自己責任」の一言で片づけてよいものなのでしょうか。

ここまで読んでお気付きの方もいらっしゃると思われますが、がん患者は特に新型コロナウイルス感染における弱者の要素が強いです。
持病があり、抗がん剤治療等で免疫機能が低下している方も多く、不要不急ではない通院のための外出が必要であり、高齢者も多く、また雇用の面でもがんを原因とした不安定さに晒されている方が多い――まさにコロナのダメージをより多く受ける属性なのです。
医療リソースが今後新型肺炎でひっ迫した際に平時と同様のクオリティの医療を受けられず、それが原因で命を落とす方も出てくるかもしれません。
がん患者こそコロナ弱者と言えるかもしれません。

現場では多くの医療者の方々が決死の努力をして下さっているようですが、今のところ決定的な治療法が確立されていないようです。
支持療法により生命を維持しながら自力での自然治癒を待つしかない現状では、コロナ死を減らすには重症患者を減らすしかありません。
重症患者を減らすためには、重症化を防ぐ手法が確立されていない現在ではそもそもの感染者を減らすしかありません。
感染者を減らすためには、ワクチンがない現状では、手洗いうがい、人と人との接触を極力減らすsocial distancingと家にいることstay at homeしかありません。

身近ながん患者を守るためにも、そして多くの弱く不安定な方々を不平等なダメージに晒さないためにも、「騒ぎすぎ」などと言わずに新型コロナウイルス対策を一人ひとりの方々に心がけていただきたいものです。
コロナ弱者であるがん患者だからこそ声を大にして言いたいです。


庶民でも自由に国境を越えた旅行ができる平和な世界が一日も早く戻ってくるよう願いながら、パリの写真を貼っておきます。