現在スペインのバルセロナで開催されている欧州臨床腫瘍学会(ESMO2019)にて、膀胱癌や腎盂・尿管癌などの尿路上皮癌の新薬の治験情報がどんどん発表されています。
分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤の併用療法が沢山発表され、かなりよい結果が出ているようです。
その中でも奏効率71%、病勢コントロール率91%という驚くべき数字を叩きだした抗体-薬物複合体(ADC)のエンホルツマブ‐ベドチン(Enfortumab Vedotin)とキイトルーダの併用療法の治験第1相b(EV-103試験)の結果の一部を共有いたします。
(くわしくはアメリカのアステラス社のプレスリリース https://www.astellas.com/us/news/4571 をご覧ください)

エンホルツマブ-ベドチンはこのブログでも何度も取り上げてきた抗体‐薬物複合体(ADC)で、尿路上皮細胞にのみ沢山存在しているネクチン4というたんぱく質を目印に、尿路上皮に抗がん剤を届ける標的医療の新薬です。
アステラス製薬とシアトルジェネティクス社が開発しており、日本でも少し前からエンホルツマブ‐ベドチンのみの単剤使用の治験が行われ、遠隔転移のあるかなり進んだ尿路上皮癌にも高い効果があるとのことで注目を集めています。
エンホルツマブ‐ベドチンは9月19日にアメリカのFDAに承認申請が受理され、2020年3月15日までに申請承認がなされるようです。

今回ESMO2019にて発表された治験第1相b(EV-103試験)は、未治療の転移性尿路上皮癌患者45人に対し、エンホルツマブ‐ベドチンとキイトルーダを投与した併用療法です。
PDL-1の発現状態などでの選別は行わなかったようです。
・奏効率(ORR):71%(45人中32人)
・完全奏功(CR):13%(45人中6人)
・部分奏効(PR):58%(45人中26人)
・安定(SD):22%(45人中10人)
・病勢コントロール率(CR+PR+SD):91%
・グレード3異常の副作用:51%(45人中23人)
・治療の影響による中止:9%(45人中4人)
・治療関連死:1人(多臓器不全にて死亡)

実際の発表のスライドが学会の現場からアップされています。
最近は学会に参加しなくてもプロの研究者が写真を上げて共有してくれるので便利ですね。

こちらによると、キイトルーダなどの免疫チェックポイント阻害剤の効き具合のマーカーの一つであるPDL-1が高発現でも低発現でも発現していなくても関係なく効果があったようです。
どのようなメカニズムが働いているかはわかりませんが、かなり心強いですね。

私のがんは腫瘍マーカーの抗p53抗体がかなり高いことから、TP53という遺伝子に変異が入っていることは確定なのですが、最近聞いた話では腎盂・尿管癌ではTP53に変異が入っている日本人患者は9割方FGFR変異がないそうですので、最近ホットなエルダフィチニブやロガラチニブなどのFGFRを標的とした分子標的薬の治験には参加することができないと予想されます。
だからこそこのようなFGFR以外のターゲットを使った新薬は命綱です。
大いに期待しています。
プレスリリースによると、ファーストラインやセカンドラインを目指した治験や、シスプラチン+キイトルーダ+エンホルツマブ‐ベドチンの併用療法や、シスプラチンやゲムシタビンと合わせた併用療法など様々なバリエーションでの治験を考えているようです。

なお、youtubeにこのプレスリリースと同様の内容を発表者のHoimes医師が説明している動画がアップされておりました。
youtubeは字幕ボタンをクリックすると人工知能が字幕をつけてくれるのでとても便利です。

 

 

20年間まったく新しい治療が登場しなかった尿路上皮癌に21世紀の医学の進歩が一気になだれ込んできてからわずか2,3年足らず…お祭りのように沢山の新薬が登場するようになってきています。
一日も早く適切な薬が使え、がんでは死なない時代に突入してほしいものです。