ブログを離れている間に腎盂・尿管がんや膀胱癌などの尿路上皮がんに大きなニュースが三つほどありました。

一つ目は新薬の治験の朗報その1です。
尿路上皮に多く発現しているタンパク質をターゲットにした抗体-薬物複合体(ADC)であるEnfortumab Vedotinの治験第二相の素晴らしい結果が発表されました。
奏効率44%、うち完全奏功は12%。
免役チェックポイント阻害剤の前治療の有無でも結果は変わらないとのことです。
この新薬については治験第一相の頃から「いつかお世話になるかもしれない」と注目して何度かこのブログでも取り上げてきましたが、かなり期待が持てるのではと改めて思いました。
詳細については以下の論文をご参照下さい。
Pivotal Trial of Enfortumab Vedotin in Urothelial Carcinoma After Platinum and Anti-Programmed Death 1/Programmed Death Ligand 1 Therapy
https://ascopubs.org/doi/full/10.1200/JCO.19.01140

二つ目は新薬の治験の朗報その2です。
FGFR遺伝子の変異がある尿路上皮癌を対象としたFGFR阻害剤Erdafitinibの治験の朗報です。
こちらも現在日本でも多くの病院で治験の募集が行われているもので、私も大きく期待しています。
奏効率40%、うち完全奏功は3%、また病勢安定(SD)は39%、と8割近い患者さんの病勢の進行が止められたようです。
詳細については同じくこちらに論文があります。
Erdafitinib in Locally Advanced or Metastatic Urothelial Carcinoma
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1817323

三つ目は、国立がん研究センターにより最新のがん生存率統計が発表され、今回初めて腎盂・尿管がんの生存率が集計され、統計データに登場することになったことです。
これは大きな前進です。
これまでは腎盂・尿管がんは統計上は腎細胞がんと一くくりにして「腎・尿路」という区分になっていたり、膀胱癌と一くくりにされて「尿路上皮癌」とされてきたため、その実数や生存データがわからないままでした。
今回発表された2012年に罹患した患者の3年生存率集計報告書から、喉頭、胆嚢、腎、腎盂尿管の4部位について新たに生存率が集計されるようになりました。

2012年にがん拠点病院にて新規に腎盂・尿管がんと診断された患者は4113人。
ステージ1は539人、ステージ2は372人、ステージ3は761人、ステージ4は905人です。
2割以上の患者が私と同様にステージ4の段階で発見されたようです。
3年生存率は、ステージ1:80.8%,ステージ2:71.9%,ステージ3:62.1%,ステージ4:15.6%。

詳細は国立がん研究センターの報告書をご覧ください。
がん診療連携拠点病院等院内がん登録生存率集計
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/brochure/hosp_c_reg_surv.html
2012年3年生存率集計報告書(PDF)
https://ganjoho.jp/data/reg_stat/statistics/brochure/hosp_c_reg_surv_4_2012.pdf


さて、夏の間には税理士仲間の別荘の庭のプールで水遊びをしたり、初孫の少し遅めのお食い初めをしたり、映画『新聞記者』と『主戦場』を見に行ったり、靖国神社と遊就館に初めて行ってみたり、と仕事の合間にそれなりに夏休みを楽しんでいました。

また、まとまった時間が取れたことから読書もしました。
がん関連では以下の二冊を読みました。
・大橋洋平著『緩和ケア医が、がんになって』
希少がんであるGISTに罹患した緩和ケア医師が率直な思いをつづった一冊です。
ホスピスケアの現場でプロフェッショナルとして働いていたにも関わらず、自身ががん患者になって初めて気が付いたことを忌憚なく書かれています。
いわゆる「がん患者あるある」に大きくうなずきながら読みました。
がんとの共存、という言葉に対する複雑な思いや、「患者風を吹かして自由にしぶとく生きていこう」という主張には大きな共感を覚えました。
自身のがんの悪性度が非常に高く助からないと自覚するや、勝ちではなく撤退戦で善戦しようと戦略を切り替えたところには、大きく学びたいと思いました。

・高野利実『がんとともに、自分らしく生きるー希望をもって、がんと向き合う「HBM」のすすめ』
7月の日本臨床腫瘍学会でご講演を聴いた虎ノ門病院の腫瘍内科医の著書です。
学会会場にて抽選に当たり、著者ご本人からサイン入りでいただきました。
高野医師はエビデンスではなく「人間の人間による人間のための医療」、HBMを提唱されています。
ただ、早々に諦める方向へと誘導するような印象もぬぐえず、その点では一冊目の『緩和ケア医が、がんになって』と比べると、当事者性の有無という点でよい対比になるのではと思います。

さて、まだまだ暑い日が続きますが体に気を付けて頑張りたいです。