今日からいよいよ確定申告が始まりました。
私の業界では一年で最も忙しい繁忙期です。
仕事→放射線治療→仕事という慌ただしい日々も明日でラストで、明後日から化学放射線療法の仕上げである2コース目の抗がん剤治療のため入院します。
こんな忙しい時に入院してしまって果たして大丈夫なのか大変不安ですが……おそらく同業者から見たら頭がおかしいとしか思えない治療スケジュールかもしれませんが、何とか再発を根治に持ち込む最初で最後のチャンスですので頑張って乗り越えたいです。

さて、twitterの方で需要が高かったため、がん治療をしている税理士の視点からがん患者のためにまとめた医療費控除の話というものを書きました。
「難しそう」「手間の割にはお金が戻ってこなさそう」というイメージが一般的にあるかもしれませんが、実は働きながら高額医療を中長期的に続けるがん患者にこそメリットが大きい制度です。
所得税の一部が返ってくるほか、次の年の住民税が安くなるため大いに活用していただきたいです。
しかしあれもこれもとつめこむうちにボリュームが大きくなり、1万字を超えてしまい、アメブロに投稿するのは不適切かと思ったためnoteに投稿いたしました。

 

がん患者としてぜひ知っておきたい医療費控除についての知識を詰めこみましたので、お時間のある時にでも読んでいただけると幸いです。

詳しい話は「税理士が教えるがん患者のための医療費控除」を読んでいただければと思うのですが、一番聞かれることが多い、何が医療費控除の対象となる医療費で、何がならないのか、という点と保険金による補てんの取り扱いをこちらでもまとめておきたいと思います。

1.がん治療にかかる費用は医療費控除の対象となるか?

①診察・治療に関するもの
・医師の診察
 対象となります。通常の保険診療だけでなく、重粒子線治療やがんゲノム遺伝子パネル検査などの先進医療や、自由診療などを問わず、「医師又は歯科医師による診療又は治療の対価」であれば医療費控除の対象となります

・医師への謝礼金
 謝礼金は「医師又は歯科医師による診療又は治療の対価」ではないため対象となりません。同じ理由で謝礼のための品を買う費用も対象とはなりません。最近では謝礼やプレゼントを禁止する旨の張り紙が大きな病院であれば必ず貼ってあり、昔ほど支払う場面がなくなってしまったためあまり関係ないかもしれません。

・セカンドオピニオン費用
 「医師又は歯科医師による診療又は治療の対価」であるため対象となります。がん治療では治療選択の際や治療変更のタイミングでセカンドオピニオン、サードオピニオンを行うことが一般化しつつありますが、自由診療となるため一度に数万円かかることが多く、負担が重くなっています。忘れず医療費控除をして下さい。

・診療情報提供書の自己負担金
 診療情報提供書はセカンドオピニオンや転院のために必要であるため、医療費控除の対象となります

・診断書作成費用
 職場や保険会社に提出する診断書の作成費用は治療のために必要ではないため医療費控除の対象となりません。

・美容目的の手術等
 美容目的の手術は治療ではなく整形手術とみなされるため医療費控除の対象とはなりません。ただし乳癌の乳房切除に伴う乳房再建は治療の一環であるため対象となります

・人間ドックの費用
 治療が伴わず、「医師又は歯科医師による診療又は治療の対価」ではないため対象とはなりません。ただし人間ドックの結果、重大な疾患が発見され、引き続き治療を行った場合は人間ドック費用も医療費控除の対象となります。私もがんの発見のきっかけは人間ドックでしたので、忘れず医療費控除をしました。引けてもあまり嬉しくはないというのが困りものです。

・未承認の医薬品を用いた治療費用
 がん治療薬はめざましい勢いで開発されていますが、海外で承認されていても国内で未承認であるというドラッグラグの問題があります。また、がんゲノム医療により遺伝子検査の結果適合する薬剤が見つかったものの、自分の癌種には承認されていない薬であったため使えない、というケースも出てきています。このような場合、未承認の医薬品を自由診療にて使うことがありますが、その際に医師の処方によるものであること、治療又は療養に必要であること、購入の対価がその病状等に応じて支出される水準を著しく超えるものでないこと、という要件を満たす場合には、医療費控除の対象となります


②医療機関への移動費用

・公共交通機関を用いて通院した際の交通費
 「病院(中略)へ収容されるための人的役務の提供の対価」であり、医療費控除の対象となります

・付き添いの家族などが公共交通機関を用いた交通費
 一人で通院できない子供や患者の付き添いであれば対象となりますが、そうでない場合は対象となりません。がんの治療では「次はご家族も連れてきてください」と医師から言われることがよくありますが、その場合でも対象とはなりません

・通院のためのタクシー代
 通院費が医療費控除の対象として認められるためには「その病状に応じて一般的に支出される水準を著しく超えない」ことが必要となります。そのため、タクシーでなければ通院できない病状や急を要する場合であれば対象となりますが、一般的な通院では対象となりません。対象となる場合、タクシー運転手に支払った高速道路料金は医療費控除の対象となります。

・マイカーで通院した際の費用
 ガソリン代、駐車場代、高速道路料金などマイカーで通院する際にかかる費用は医療費控除の対象となりません。なぜならばそれらは「病院(中略)へ収容されるための人的役務の提供の対価」とはならないからです。

・自宅から遠く離れた病院に診察を受けに行く費用
 専門家がいる、特色のある治療を行っている、などその病院でなければならないという事情があれば「その病状に応じて一般的に支出される水準を著しく超えない」ため、遠く離れた場所でも交通費が医療費控除の対象となります。なおその際のホテルへの宿泊費は医療費控除の対象となりません。がん治療では有名病院が大都市に局在しており、遠く離れた病院へと通うことは珍しいことではないため、必ず医療費控除をして下さい。

・セカンドオピニオンを受けに行く際の交通費
 「病院(中略)へ収容されるための人的役務の提供の対価」であるため医療費控除の対象となります

・入院中の一時帰宅の交通費
 通院費用ではなく個人的な都合で病院と自宅の往復をするためのものであり、医療費控除の対象となりません


③入院に関するもの

個室の差額ベッド代
 医師の指示によるものであれば対象となりますが、本人の希望によるものは「その病状に応じて一般的に支出される水準を著しく超えない」という条件を満たさないため対象となりません。なお、感染予防や個室以外が満床などの病院都合による個室の使用による差額ベッド代は患者に請求しないよう厚労省で指導しているそうです。
 なお私は仕事の電話が多く、入院中もできる範囲で対応をしなくてはならないためいつも個室を使用していますが、残念なことに仕事の都合であっても差額ベッド代は経費にはできません。

・入院に際し購入したパジャマや下着、洗面道具の購入代
 「医師等による診療や治療を受けるために通常必要な」ものではなく、単なる日用品であるため医療費控除の対象となりません。

・入院に際し病院の指示により購入した吸い飲み、氷嚢などの購入代
 単なる日用品ではないため、入院治療のために必要なものとして病院の入院案内に持参することが記されているような場合には医療費控除の対象となります

・入院中の食事代
 入院中に「医師等による診療や治療を受けるために通常必要な」ものであるため、病院から支給される病院食は対象となります。しかし抗がん剤治療による副作用などで食欲がわかずに個人的に持ち込んだ食事や売店で購入した食事などは対象となりません

・入院中の飲み物代
 医師ら「水分をよく取って下さい」などの勧めがあっても個人的に購入した飲み物は対象となりません

・病室のテレビや冷蔵庫の使用代金
 対象となりません。

・入院中に契約したレンタルwi-fiの費用
 対象となりません。

・入院中の託児所や家事代行、ペットホテルなどの費用
 
「医師等による診療や治療を受けるために通常必要な」ものではないため対象となりません。

・付添の親族や友人の交通費や食事代
 対象となりません。

・快気祝いの購入代金
 対象となりません。

・医師やナースセンターに支払ったお礼や贈り物の購入代金
 対象となりません。



④闘病生活に関するもの

・サプリメント、トクホ、健康食品などの購入代金

 がん患者の多くが何かしらのサプリメントやトクホ、健康食品を生活に取り入れていると思いますが、医師や薬剤師らの勧めであったとしても、これらは法律上定義される医薬品にはあたらず、医療費控除の対象となりません。私もヨーグルトやオリゴ糖、プロテインなど様々な食品を取り入れていますが、すべて医療費控除の対象とはなりません。

・医療用ウィッグやケア帽子の購入費用
 
脱毛を伴う抗がん剤治療では医療用ウィッグやケア帽子を着用する方が多いですが、これらは医薬品の購入費用にあたらず、「医師等による診療や治療を受けるために通常必要な」ものでもないため医師の勧めがあっても医療費控除の対象となりません。

・アピアランスケア用の化粧品の費用
 抗がん剤治療に伴う睫毛・眉毛の脱毛や、爪の変色、顔色などをカバーするメイクがアピアランスケアとして広まりつつありますが、これらは「医師等による診療や治療を受けるために通常必要な」ものではないため医療費控除の対象となりません。

・弾性ストッキング
 がんはリンパ節に転移しやすいため、切除手術の際にリンパ節郭清を行うことがよくありますが、癌種によっては後遺症としてリンパ浮腫が引き起こされます。リンパ浮腫の治療のために医師の指示に基づき購入されるものであれば医療費控除の対象となります


 「医師等による診療や治療を受けるために通常必要な」ものであれば医療費控除の対象となります。

・ストマ用装具
 
治療上適切なストマ用装具を使用することが必要であることを医師が認め、証明書を発行した場合、医療費控除の対象となります。その際、証明書を確定申告書に添付して下さい。


⑤代替医療

・湯治
 
玉川温泉のようなラドン温泉での湯治や酵素浴、陶板浴などはがん患者に人気がありますが、医師の診療又は治療とは関係がないので医療費控除の対象となりません。なお、医師の治療のためにクアハウスで温泉療法を行った場合、医師の「温泉療養証明書」の添付を条件として対象となることがあります

・マッサージ、鍼、灸
 法律に定めるところの専門家によって施術され、かつ医師の指示に基づき治療等の一環として行ったものであれば対象となります

・アロマテラピー・カイロプラクティック・気功・ヨガなど
 法律に定めるところの専門家がいないため対象となりません


⑥患者活動に関するもの

・患者会や患者サロンへの参加費用や交通費

 がん治療を乗り切るためには患者同士の繋がりや情報交換が重要となりますが、たとえ医師の勧めであったとしても「医師等による診療や治療を受けるために通常必要な」ものではなく、医師の診療又は治療とは関係がないので医療費控除の対象となりません

・がん関連学会や医師の講演会への参加費用や交通費
 医師の診療を受けるための費用ではないため医療費控除の対象となりません。

・がん関連書籍の購入費
 診療を受ける病院や医師の著書であっても、「医師等による診療や治療を受けるために通常必要な」ものではなく、医師の診療又は治療とは関係がないので医療費控除の対象となりません。
  


2.よくある疑問/論点

・医療機関の領収書をなくしてしまった場合
 医療機関に再発行してもらいましょう。もし再発行しないなどと書いてあっても必ず再発行してもらいましょう。

・保険金による補填の取り扱い
保険金などで補填される金額は、その給付の目的となった医療費の金額を限度として差し引きます。たとえば入院費用が15万、通院費用が15万、入院を対象とした保険金が20万支給されたとしたら、医療費として支払った入院費用は0円となり医療費は15万円になります。

・「がんと診断されたら〇〇円」という診断給付の保険金はどの項目から引くのか? 
 診断給付の保険金は医療費を補てんするものではありません。従って、医療費から引く必要はありません。 

・2018年分だけでなく、2017年や2016年の医療費控除はできるのか?
 医療費控除は5年まで遡って申告することができます。

・電車賃の証明はどうすればいいのか
 〇月×日どこからどこ、と手帳や紙、家計簿などに書いておきましょう。

・2018年12月にカードで支払った医療費の引き落としが2019年にあったが、いつの医療費になるのか
 医療機関にて発行された領収書の日付で判断します。この場合は2018年の医療費となります

・医療費が200万円を超えた場合
 
医療費控除の限度額は200万円ですが、これは一人あたりの控除の限度額であり、支払った人が二人いる場合ではある一定の条件を満たせば400万円が控除の限度額となります。
 たとえば重粒子線治療に300万円支払った時に、同一生計親族である配偶者などが医療費を100万円支払ってくれた場合、二人とも医療費控除を申告することにより300万円すべてを医療費控除の対象とすることができます。

・医療費を補てんする保険金がいくら入るのか金額が確定していない場合
 だたいの数字を使い概算で申告します。確定したところで改めて清算する必要があります。


確定申告の時期には全国の役場や公的施設で税理士による無料相談会が行われております。
例年多くの方々が医療費の領収書を持って医療費控除の計算をしにいらっしゃいます。
税理士会の無料相談の日程と会場は、各自治体の広報やウェブページ上でアナウンスされております。

ぜひご活用下さい。