最近は忙しく、特に税務調査の立ち会いが毎週のように入っており、しわ寄せとして週末も仕事をして過ごしています。
この週末も地域のボランティアに少し顔を出し、また仕事をしていたのですが、このまま体が動かなくなるまで仕事漬けなのは癪なので、映画の夜の上映に滑り込んでずっと気になっていたマイケル・ムーア監督の『華氏119』を観てきました。

この映画は先日行われたアメリカの中間選挙の選挙運動に合わせて公開されたもので、119、つまりトランプ大統領が誕生した2016年11月9日は何故起きてしまったのかというところから始まっています。
字幕の監修が池上彰だけあり、ニュースで見る用語がそのまま表記の揺れなく出ていたのでわかりやすかったですが、音声と比べると結構字幕が甘くわかりづらいところもありそうです。
以下ネタバレになりますのでここから先の閲覧はご注意下さい。



トランプ批判一辺倒の映画かと思いきや、大雑把に分けると以下の4つの物語が絡み合う構成となっています。
①トランプ大統領誕生の振り返りと批判
②トランプの予兆――ミシガン州フリント市の水道水の鉛汚染の話
③民主党のリベラルエスタブリッシュメント達がトランプ大統領を生み出した
④立ち上がり行動する民衆の物語――教師たちのストライキ、高校生の銃規制デモ、中間選挙に立候補するため立ち上がった候補者たち

特に映画の中核を占めたのは②のミシガン州フリント市の問題でした。
ミシガン州はトランプに先立つこと数年、アメリカ企業のCEOでもあるスナイダー氏が共和党から立候補し知事(governer)となりました。
その際トランプも多額の資金援助をしたそうです。
州を「経営」し、住民を「顧客(customer)」と呼ぶスナイダー氏は、フリント市の水道水の水源をきれいな水を潤沢にたたえる湖から工業汚染がひどい川へと変更しました。
このエリアは黒人が多く住む居住地なのですが、水道水を飲んだ住民から健康被害が多数報告され、調査の結果鉛汚染が発覚しました。
しかし州政府は取り合わず、子供たちの鉛の血中濃度の検査結果を基準値以下に改ざんし、調査や水源の変更などではなく広報によって解決しようとしました。
なおフリント市は共和党の主要なスポンサーであるGM社の巨大工場があるのですが、そちらは鉛の混入によって部品の性能が落ちてしまうことが発覚した途端にすぐ鉛のない水源に変更されたようです。
なんともふざけた話です。
そこへ当時大統領であったオバマが来ることになり、被害を受けていた黒人たちはお祭り騒ぎになりました。
きっと解決してもらえる、皆そのように期待したようです。
しかしながらオバマはフィルターを通せば大丈夫だと言い、パフォーマンスとしてフリント市の水を飲んだ振りをするということをしてしまいました。
唇を濡らすだけで飲んでいないこと、そして州の言い分をそのまま繰り返したことに住民達は落胆し、無力感に打ちひしがれてしまったのです。
オバマもまた民主党とはいえリベラル・エスタブリッシュメント。
多額の企業献金を受け、「妥協(compromise)」することで民衆を切り捨ててゆく共和党の加担者です。
このようなことから、何をしても無駄だとあきらめてしまう空気ができました。
フリント市では8000人がオバマに投票したのに、そのほとんどが2016年の大統領選では投票に行かず棄権してしまったようです。

この「人々が希望を失って興味を持たなくなった時、独裁者は最も強くなる」というテーマは映画を通して繰り返し主張され、身につまされました。
何をしても変わらないと諦めたり、そんなに悪くなるはずはないのだから冷静になろうと諫めたり、他人事だからと無関心になったり、自分だけは上手く立ち回ろうと流れに加担してしまったり……そんなことを自分もしていないだろうか、と改めて考えさせられました。

また映画全編を通して日本と違うなと気付いたことは、アクティブに活動する女性が非常に多かったという点と医療保険が大きな問題点となっていることです。
もちろんマイケル・ムーアの狙いもあり女性を多く取り上げたということもあるのでしょうが、やはり女性が発言権を持って連帯する社会というのは私から見ると新鮮でした。
またアメリカはご存知のように皆保険がなく、映画に登場する人々は二言目にはみなこの問題を口にしていました。
国民皆保険の大切さはこの一年のがん闘病で身に染みて実感しておりますので、ぜひそこは充実させてほしいところだと思いました。

全体を通して資本主義の限界や民主主義を破壊する人々の存在などを問題提起する点は非常に鮮烈でした。
とはいえ、中間選挙の選挙運動のために作られたものなのでかなり煽っているところやマイケル・ムーアの持論に強引に引き寄せた点などが気になりました。
しかし偏りのない「中立」なジャーナリズムなどありません。
一つの切り口、一つの視点から今のアメリカ、ひいては世界を切り取った作品として、非常に面白く刺激的な映画でしたのでぜひ見に行ってみて下さい。

 

公式サイト

https://gaga.ne.jp/kashi119/