臨床腫瘍学会で聞いてきたことのメモを少しずつまとめています。

今回は抗がん剤による手足のしびれなど末梢神経障害についてです。

今のところ私はしびれや痛みは出ていませんが、20年前に卵巣癌でシスプラチンの投与を受けた私の妻は手にひどいしびれがでてしまいました。

何度か手術などをしましたが20年経った今でもしびれは消えません。

このような悩ましい副作用である末梢神経障害について、臨床腫瘍学会で大変有用な発表を聞いてきたのでまとめました。

 

「がん薬物療法による末梢神経障害のマネジメント」

平山泰夫 東札幌病院血液腫瘍内科

シンポジウム「がんと就労を可能にするための薬物療法マネジメント」より

 

■外来がん患者の就労困難要因

・通院、突然休む可能性、副作用やそのものでの作業能力低下

・職場的要因としては頻繁な欠勤を許容できない、突然休まれる可能性、がん患者に慣れていない

・このセッションでは副作用の中でも末梢神経障害について話す

 

■しびれの治療は

・外来でしびれが出るとドクターはリリカでも出すか、となり決定的なものがない

・三年前の日本臨床腫瘍学会で化学療法による末梢神経障害の痺れに対する投薬のアンケートをとってみた

 ビタミンB12を4~8割

 予防的にリリカは100%

 その他の抗うつ剤やオピオイドや漢方薬など様々な投薬が行われていることを把握

・混乱するのでもう少しすっきりしようと手引きを作成

 「がん薬物療法における末梢神経障害の手引き」を日本がんサポーティブケア学会にて作成

 2015年に作成開始し24の学会に供覧しコメントをしてもらった

 

■末梢神経障害の手引きの内容

・薬剤の推奨度を三段階に明快に分けた

 ダブルブラインドでの試験データによって分けた

・投与することの弱い提案:デュロキセチン(サインバルタ)のみ

・有効性は明らかではない:いくつか該当

・投与しないことを弱く推奨:いくつか該当

 

■デュロキセチン(サインバルタ):唯一根拠のある薬剤

・セロトニンノルアドレナリンの取り込みを特異的に阻害

・確立された投与量はないが、我々の報告では20mg食後一回

・副作用は傾眠、悪心、高血糖、便秘、めまい、倦怠感

・就労という観点からは傾眠、悪心、めまい、倦怠感には自動車の運転などをしないよう注意した

・グレード2以上の末梢神経障害の副作用を訴える77人のうち26人に投与して11人に効果

 

■被疑薬の減量や中止

・目安としては副作用のグレード3以上で減量や中止を考慮する(タキサンなど)

・この際治療の目的(延命なのか治癒を目指すのか)や患者の価値観に耳を傾ける

・現在あるいは治療終了後の就労などを考える

・血液腫瘍では減量はおすすめしない

・薬ごとの副作用を良く知っておくのは良いことである

 タキサンでは運動障害が起きる、転ぶ、字が書きづらいなど

 シスプラチン、オキサリプラチンなどは運動障害が少ないというのがある。

 

■末梢神経障害に対する理学的方法

・タキサンなどには圧迫療法(エビデンスが十分ではない)

・冷却療法(施行が施設によって困難)

 

■運動の効果

・不眠、うつ、倦怠感、しびれ、痛みについては効果が確認されているが生存期間延長についてはなし

・弱いエビデンスではある

・比較的体調の良い日は運動するように指導、目標週三時間、毎日30分位

 お大事に、ではなく安静にさせない

・神経障害にも運動が有効

 転倒予防にバランス運動

 しびれの軽減にも運動(毎日30分)と報告がある

 

■日常生活の指導内容

・「がん薬物療法における末梢神経障害の手引き」参照

 

■まとめ

・薬剤としては弱い推奨にサインバルタのみ

・運動を推奨

・減量や中止は治療効果等を考慮する

・がんサポーティブケア学会について

 

■ディスカッション

・「グレード3になりそうになったら停止」というがどのように判断しているのか

→日常生活とは何かを考える

 歩行、入浴、食事などに影響を及ぼしそうになったところが停止するところ

 実際患者さんの目安としては若干でも歩行に異常を感じるかとボタンをかけにくいとか

 

・尿が出にくいという副作用が結構出るがどうするのか

→あまりそういうのは効かないが75歳以上なのか

 

・ガイドラインを作成して2017年にアップデートして実際に手元にも届いているが、実装してどれくらい有効だったかというデータはあるか?

→これから行う。現在企画中である

 

・ガイドラインは無料で公開されるのか。海外ではそうだが日本ではそうでないので意味がない

→ネット上で一部公開というのをしており、今後公開を検討する

 

 

■私からのコメント

抗がん剤の副作用をいかにコントロールし患者の日常生活や就労を支えていくのかというのを薬剤マネジメントの観点から扱ったこのシンポジウムは大きな会場にも関わらず立ち見が出るほどの聴衆が集まり、ものすごい熱量のセッションでした。

医学の進歩はがんを叩く薬だけでなくこのような副作用のコントロールという支持療法の分野でも目を見張るものがあり、医療者の皆様の並々ならぬ熱意と研究によって日々生み出されているのだというのを肌で感じられるセッションでした。

私は幸いまだしびれなどの末梢神経障害は出ていませんが、私の妻も含めて苦しんでいる方は沢山いらっしゃると思います。

一日も早く副作用を抑え込んだ抗がん剤治療が可能になってほしいと思います。