小出しで申し訳ありませんがまた臨床腫瘍学会で取ってきたメモを整理してまとめたのでアップします。

今回はがん患者と家族の心のケアについて、精神腫瘍科医の先生からのご発表です。

 

「がん患者と家族の心のケア」
小川朝生 国立がん研究センター東病院精神腫瘍科
ペイシェントアドボケイトプログラム(PAP)より

■精神腫瘍科とは?
・サイコオンコロジーの和訳。精神にできる腫瘍という訳ではない
 訳語を作ったときに「腫瘍精神科」とするべきだったが「精神腫瘍科」となった
・がん患者が眠れないなどの精神的なトラブルの時に相談して触れる
・最近では少しずつ活動の場が広がっていてがん予防や再発予防も扱う
 禁煙やアルコールをやめられない時などに活躍する

■どのような時に精神腫瘍科を使うか?
・「眠れない」という時
 海外では10人に3~4人が眠れなくて悩む
 他の病気による不眠は1~2か月で治るががんの場合は治療が続くので不眠が何年も続く
 眠れないとだるさが増したり不安になったりする
・「家族とどう話せばいいか」を一緒に考える
 患者が家族にどう伝えればいいか、家族が患者を思って何かしたいという時にすれ違いがあり、お互い気を使って話せないのでサポートが必要
・「子供に対して腫瘍の話をどうするか」をサポートする
 特に低学年の子供に伝えるには背景を踏まえて伝えた方がいい
 子供は「私が悪い子だから親ががんになったのだ」と罪悪感となって受け取ることが知られており、負担になるためサポートが必要

■がんという体験は何か?:苦悩
・苦悩とは認知的、具体的に普段の行動や社会的、情動的、実存的な様々な領域に影響を与えるような不快な情動的経験
・人間は今日も明日も同じに過ごせる、という見込みやその人なりの世界観ができているから過ごしてゆける
・静かな池に石が投げ込まれるイメージ
 「毎日だいたい同じペースで同じように過ごすだろう」という中に異物が入ってくる
 これは何なんだろうとびっくりして気持ちの反応が生じる

■がん患者における実存的問題
・孤独と自由
 他の誰が理解できるだろうか、と壁が作られてしまい悩む(孤独)
 日常に異物が入って今後どうなってしまうのだろうかと足元がゆがむ(自由)
・このようなものは災害でも同じことが起き、誰もが同じように感じる体験となる
・対処する際の二つの戦略
 一つ目は元のものを取り戻すというパターン
 二つ目は異物が入っても自分の生活は揺らがないという「コントロールを取り戻す」感覚を持つこと
・後者の「コントロールを取り戻す」時には「語る」「見つめる」というのが大切
・言葉にするのには社会的な支えが重要
 大変難しい作業でまず言葉にならない
 患者会やピアサポートなどの安心して語れる場があることが大事

■あらゆる場面で語られる「不安」
・医療者はこれを消さなくてはと思うが、すべてが異常なものという訳ではない
・不安とは今のままではいけない、もう少し考えた方がいい、と体が出す信号であり、行動を起こすきっかけにもなる
・この信号が強すぎたりずっと出ていて疲れてしまう場合医療者が介入する

■不安が最も強く出る時:精査・診断時
・一番不安が強いのは治療中ではなく、診断や治療が決まる前と言われている
 治療が始まるとやることがあるのでそうでもないが、それまでは見通しが立たず不安が全経過で最も強くなる
・実はここを一番医療者が支援しなくてはいけない
 就労支援というのもおそらくここで出てくる
・治療開始前に関係を絶たないというのが大事
 仕事も趣味も地域の環境も、治療中も続けていくのが大事で病院も発信していこうとなってきている
 まずは辞めないで休むだけでもいい、と伝えてほしい

■治療中の不安
・治療中はやるべきことが次々出てきて外来通院、入院治療等イベントが続き目の前に課題がはっきり出てくることから不安はいったん引くことが多い
・ここで気を付けてほしいのは、家族とよく話し合ってほしいこと

■治療が終わった後の不安
・患者としてはこの時期がもう一回不安が強くなると言われている
 定期的な通院から間が空いて、こんなにあいても大丈夫かとなる
 横に置いていた仕事や人間関係にまた戻される
・多くは治療の半年後くらいまでがペースを取り戻す時期で揺れている
・治療後から半年くらいまでに精神腫瘍科の山場がある
・早く戻らなければと焦ってしまったり、両立支援で早く働けというメッセージがマスコミから出ているので焦るが、多くの人は半年から1年くらいかけてペースを取り戻す
 いきなりでなく徐々に鳴らしていくペース作りが必要

■海外での不安についての報告
・病気から回復しているか、再発、今後の見通しが立たないことへの不安が一年くらいある
・多くは眠れないという問題
・アメリカでは休めないというのが悩みどころ、疲れが取れないとなる

■再発不安
・不眠の一つのパターンとして定期健診の一週間くらい前から眠れないことがある
・記念日反応
・何気なく治療中のことがよみがえって体調がすぐれないというのがある
・現実には8割くらいが波を経験しながら過ごしている

■波をやりすごす工夫は?→ストレスと向き合う
1ストレスに対応する→普通の暮らしを続ける
2正しい情報を集める→医療者等に相談
3問題をリストアップする→目に見える形にする
4問題に優先順位をつける
5今までの関係を断たない
6サポーターを作る
 家族の方が不安が強いともいわれていて、そこも支えないといけない

■ストレス反応
・告知などショックがあると乖離(頭が真っ白になる)という症状と気分の変動(ものすごい怒りや悲しみ)がわいてきてジェットコースターのようなアップダウンが1,2週間続く
 体も眠れないとか食べられないなどの症状が出る
・8~9割くらいは自身の力で乗り越えていく「レジリエンス」という力がある

■がんと告げられた時のストレス反応
・頭が真っ白になるという「衝撃」や、「孤独」、病院がおかしいのだとかいう「否認」や「怒り」、集中困難などや「困惑」
・多くの人が困るのは告知後に自身の体や心が自分の思うようにならないこと
 考えがまとまらなかったり体が動かなかったりすることで困惑する
・このようなストレス反応は生き残るための自然な反応である
 しかし強く出過ぎると体に違和感を持って現れてきてしまう

■告知時に精神腫瘍科でしていることは?
・基本的にカウンセリングは行わない
・患者さんと家族に「休むこと」と「食べること」のリズムを崩さないことをお願いする
 睡眠、食事、体の負担を取る、負担を増やさない、寝酒はしない
・特に夕ご飯は必ずとってくれと頼んでいる
 夜ご飯を食べないと空腹で過覚醒するのでよくない
 食欲がなくてもスープやみそ汁だけはとってくれと頼んでいる
・なるべく家族友人との関係を絶たないようにしてほしいと頼んでいる
 治療に全力投球するために趣味を辞めるとかはしないでほしい
 以前と同じようにして、少し負担になるなら休んで、辞めるかどうかは半年や一年後に考える

■家族や友人にできることは?
・患者にアップダウンが二週間続くのは正常な反応であるので見守る
・アドバイスではなく共感を持って聞く
 焦っているのでアドバイスはせずゆっくり一週間は待つ
 このときにセカンドオピニオンをしたりピアサポートや相談センターを使うとよい
・家族にお願いするのは、家族もサポーターを持って下さいということ
 そばにいること、情報を集めること、家族のストレス対策をすること(サポーターを持つ)
・家族にも精神症状が出ることが知られている
 鬱、不安障害、パニック障害、自律神経失調症など
 このような状態の家族がいると患者の負担にもなる
・患者と家族のメンタルヘルスはお互いに悪影響を及ぼし合うので家族もペースを崩さずに伴走するのが大事
・病院で家族も相談するのが大切
 東病院では1割くらいは家族もあわせて「眠れない」などの相談をしている

■家族に知っていてほしいつまずきやすい点
1親ががんになった時子供をどのように支援してよいのか
2患者が考え経験することに対してどのように支援してよいのか
3家族が患者介護者の気分の落ち込みにどのように対応してよいのか
4夫婦関係の緊張

■鬱について
・鬱は心の風邪と製薬会社がプロモーションしたせいで泣いていたりしょんぼりという印象を持たれがちだが少し違う
・うつ病の症状は「しんどい(悲しみや落ち込んだ気分の持続)」と「おっくう(興味関心の喪失)」の二つが中核症状
・関連症状では睡眠障害、食欲減少、疲労感、焦燥感あるいは運動静止、集中力の低下、決断困難、自己効力感の喪失、自責感、希死念慮など

■ペース作りが大事
・オーバーペースで動けるうちに全部やってしまおうとなってしまう人もいるがよくない
 大切なのはギアを一つ落として飛ばし過ぎないこと
・7割くらいでやる
・がん病院で患者さんに「頑張るな」と言うのは精神腫瘍科医だけ

■ピアサポートプログラムの形式内容
・国地域によってさまざま、ネット上にもある
・情緒的なものと情報提供を行うものの二つの大きな柱がある
・情緒的なサポートはセルフヘルプグループといい、なかなか言葉にできないものを安心して言葉に作る場をやって言葉を作るお手伝いをする
・情報提供や教育を行うのはサポートグループといい、病院の使い方や新しい治療の情報などを提供する
・現実には二つが混ざった形で行われていることが多い

■ディスカッション
・東病院では紹介で受診にくるのが7割、自分で来るのが3割
 多くは手術外来で早めに相談と来ることになっている
・精神腫瘍科は今後増えていくと思われる
 国の取り決めでは拠点病院には精神科の常勤医を置くことがほぼ必須になる
 今ではだいたい7割くらいに常勤の精神科医がいる 



■私からのコメント
この内容を去年の9月末の告知時に知っておきたかったです。
眠れず、落ち着かず、それでも最初の入院までに仕事を片付けなくてはならず、今思い出すと本当にひどい状態でした。
告知のすぐ後に緩和ケアの受診を希望したのですが、まだ早すぎるということで全く取り合ってもらえず、とりあえずAmazonで高評価だった聖路加国際病院の精神腫瘍科医の先生が書かれた『がんでも長生き心のメソッド』という本を読みました。
そちらはあまり私の心には響かず、まったく気持ちが楽になりませんでした。
この発表で小川先生がおっしゃっているような実践的な知識の方が私にはあっていたようです。

ピアサポートの重要性もよくわかりました。単なる傷のなめ合いではなく、自分のコントロールを取り戻し、ストレスに対処したりレジリエンスを手に入れたりするのに必須なのですね。
私にとってはこうしてブログで不安や不満を吐き出して、コメントやいいねをいただいて励まされる、という繰り返しこそがピアサポートになっている感じです。
本当にいつもありがとうございます。

この入院が終わったら一旦経過観察に入ります。
このお話によると再び不安が強くなる時期だそうです。
また色々と吐き出すかもしれませんが、その時は皆さまの力強いピアサポートで立ち直れたらなと思います。