昨年9月末に腎盂癌ステージ4の告知を受け、10月より化学療法をしました。
今回は抗がん剤治療全般の振り返りです。

抗がん剤治療というと「猛毒だから怖い」と思う方も多いのではと思います。
私もそうでした。
前にも書きましたが20年前に妻が卵巣癌でシスプラチンを投与された時に激しい副作用が出てしまい、化学療法を途中で断念し、今も手の痺れなどの後遺症が残っていることの印象がとても強いためです。
10月に入院し初めての抗がん剤投与をした時、自分が何か別のものに変わってしまうような、もう二度と元の世界には戻れないのではないかというような恐怖がありました。
しかし、聞いた話ですが全ての薬は毒物だとのことです。
体の中の化学反応を阻害したり促進したりする生理活性物質はそもそも毒です。
「毒を薄めると薬になる」、正確には「死なない程度にコントロールした濃度で使われた毒を薬と呼ぶ」だそうです。
風邪薬だって胃薬だって飼いならされた毒に過ぎないのです。
毒であることを承知でメリットとデメリットを比べて圧倒的にメリットが大きいため使うのです。
確かに私の経験した抗がん剤は猛毒でしたが、それによって得られたメリットと比べればぎりぎり許容範囲です。

振り返ってみると当初の恐怖とは異なり、多少余計なことはありましたがそのまま日常が続いているというのが今のところの感想です。


化学療法に使われる薬には①がん細胞そのものをターゲットにするタイプと②がん細胞の分子をターゲットにするタイプがあるそうです。


①細胞傷害剤:がん細胞がターゲット
私たちの体の細胞はどれもせっせと分裂を繰り返しているという訳ではなく、結構な割合は増殖せずにじっとしながら粛々と仕事をしています。必要な時にしか細胞分裂は起きず、それは厳密にコントロールされています。どの程度の頻度で細胞分裂が起きるかは細胞の種類とその機能により違います。たとえば心臓や多くの神経細胞のように一度できてしまえば一生分裂せず後生大事に使う細胞もいれば、皮膚や血球や腸の上皮など毎日のように補充して使い捨てで使っている細胞もいます。
細胞たちは増殖を厳密に制御されながら調和して暮らしているのですが、遺伝子の変異によりいつどのくらい分裂するかというコントロールが壊れて無秩序に増殖するようになってしまった細胞の一つががん細胞です。
この盛んに分裂するという性質を利用して細胞分裂を邪魔する毒物を使ってがんを殺してしまおうというのが細胞傷害剤だそうです。
しかしもともと盛んに分裂する細胞――前述のような使い捨てで回している細胞が巻き添えを喰ってしまうというのが難点です。血球細胞が補充できずに骨髄抑制という副作用が起きたり、髪が抜けたり皮膚がガサガサしたりする副作用があります。

②分子標的薬:分子がターゲット
がん細胞は遺伝子が変化してしまった細胞なので、もともと体に存在する細胞とは異なりがん細胞だけに存在する分子がある場合があります。
この分子をターゲットに、がん細胞の増殖を邪魔する薬が分子標的薬です。
〇〇ニブのように語尾がibで終わる薬剤(低分子医薬品)と〇〇マブのように語尾がmabで終わる薬剤(抗体医薬品)があります。
一番最初に登場した肺がんのイレッサ(ゲフィチニブ)はがん治療に大きな革命をもたらしたそうです。
分子標的薬によって分子生物学や生化学などライフサイエンス分野の基礎研究がそのままがんの臨床につながる時代が始まりました。
何かと話題の免疫チェックポイント阻害薬オプジーボ(ニボルマブ)もこの一つです。


腎盂癌を含む尿路上皮癌は他のがんに比べて化学療法が遅れ気味のようです。

乳がんや肺がんなどのような遺伝子検査結果による薬剤の選択などありませんし、腎臓がんなどのように多彩な分子標的薬がある訳でもありません。シンプルな細胞障害剤によるレジメン一種類のみという時代が長く続きました。
しかし昨年12月に②の分子標的薬である免役チェックポイント阻害剤キイトルーダが承認され、やっと21世紀に追いつきました。
標準治療ではまずファーストラインとしてゲムシタビン+シスプラチンの併用療法のGC療法を行います。こちらは二つとも①の細胞傷害剤です。

一部の病院ではエトポシドを加えたGEP療法を標準治療として行っていますが、主治医の話ではGC療法と大して治療効果は変わらないとのことです。

ゲムシタビンはがんの王様膵臓癌を倒すために90年代に登場した抗がん剤で、作用の割に副作用が少ないことで知られているそうです。
投与時間が1時間を超えると細胞中の濃度が高くなり副作用が強く出てしまうため30分で高速点滴を行います。高速なので血管の痛みが出ることがありますが、温めて痛みを和らげてもらいながら点滴してもらいます。

シスプラチンは古くからある強力な細胞傷害剤です。副作用が強く、特に腎臓にダメージを与えてしまうそうです。しかし歴史のある抗がん剤の強みで副作用を抑える支持療法が発達していて、吐き気止めのステロイドや大量の水分と利尿剤を用いることにより治療による体へのダメージを減らしながら投与できるそうです。
シスプラチンの投与自体は2時間ですが、前後に吐き気止めや水分や利尿剤などを点滴するので一日中かかります。私はだいたい13,4時間かかりました。
シスプラチンは副作用の強さから入院治療が必要で、病院にもよるようですが私は初回は21日、二回目以降は10日入院しました。

腎盂癌(尿路上皮癌)のGC療法(28日サイクル)のレジメンは次の通り。
day01 ゲムシタビン一回目
day02 シスプラチン
day08 ゲムシタビン二回目
day15 ゲムシタビン三回目

ここで大きな問題になってくるのがday15です。
シスプラチンによる副作用で骨髄抑制が最も強く出てしまう日と、三回目のゲムシタビンの投与が重なってしまうのです。
そのためGC療法のday15、三回目のゲムシタビンは投与をスキップしてしまう率が高いというのがこのレジメンの欠点だそうです。私も4クール目、5クール目は骨髄抑制により血小板が基準値を下回り投与できませんでした。
最近はこの欠点を克服するために3回目のゲムシタビンを最初から省いてしまう21日サイクルが登場し、一応21日サイクルも28日サイクルと同程度の効果が期待できるそうです。
一番気になるのは副作用だと思いますが、人により大きく異なるようです。
私はday2~4にシスプラチンの副作用のしゃっくり、ゲムシタビン投与後にかゆみと37℃程度の発熱、day4,5をピークとした気持ち悪さと食欲不振、脱毛、血小板減少などの骨髄抑制がありました。
シスプラチンのダメージは回を重ねるごとに蓄積するらしく、4,5クール目になるとかなり倦怠感や骨髄抑制が強かったです。
脱毛は2クール目に入るあたりで始まり、全5クールを通して半分程度に髪が減ってしまいました。これも個人差があるようです。仕事に差し支えると困るので医療用ウィッグを用意しましたが今のところ使わずにきています。
ゲムシタビン投与後のかゆみについては院内の皮膚科の先生への受診のもと、抗ヒスタミン剤の内服とステロイド軟こうを塗ってしのぎました。
食欲不振については家族が病院のがん相談支援センターに相談に行って抗がん剤治療中の食事のパンフレットをもらってきてくれたり、主治医や看護師さんに相談しながら食べられるものを食べてしのぎました。いなり寿司、かんぴょう巻き、そば、おにぎり、すき焼き弁当、カツサンドやタマゴサンドなど冷たくて味がはっきりしたややジャンク目なものが食べられました。

気を付けたのは水分補給をまめにすること、口内炎予防のために歯磨きをまめにしたこと、有酸素運動と筋トレを組み合わせた「がんリハビリ」で体力を維持したこと、風邪やインフルエンザで治療スケジュールが乱れないように人込みを避けマスクをするなど感染予防に努めたことです。
マスクもウイルスを完全に防ぐN95マスクと普通のマスクをシーンに応じて使い分けるなどこだわりました。

効果測定として2クール目の途中でCTを撮影、腫瘍がやや縮小しているため効果ありだが奏功と言えるレベル(30%以上の縮小)まで行っていないとのことで4クール目まで続行することが決定しました。
4クール目の途中で撮影したCTでリンパ節転移が一部を残して消えていたため手術と念のための5クール目が決定、5クール終了後に手術前のCTを撮影し問題がなかったため手術しました。

長くなりましたが化学療法全般の振り返りはここまでです。
入院生活やセカンドオピニオンなどの細かい時系列での振り返りは次回以降で。