3回にわたって整理しております、タックスヘイブン対策税制絡みで多額の指摘が行われた案件ですが、今回で最後になります。
最後はこの案件を取り上げたいと思います。
みずほが係争 国税「84億円申告漏れ」
租税回避地、みずほが係争 国税「84億円申告漏れ」: 日本経済新聞 (nikkei.com)
では早速見ていきたいと思います。
1. みずほが係争 国税「84億円申告漏れ」
案件概要
みずほ銀行がケイマンの子会社SPC(以下、「本件SPC」という。)の普通株式のすべてを保有し、本件SPCの優先出資証券の全ては、みずほフィナンシャルグループの 100%子会社が保有していました。平成 27年 6月 30日に優先出資証券は全て償還されており、本件SPCの事業年度末時点においては、みずほ銀行が本件SPCの唯一の株主となっていました。
そのため、課税庁は本件SPCの事業年度終了時点でみずほ銀行が100%保有していることからタックスヘイブン対策税制を適用し、更正処分を行ったものであります。
金額
84億円を益金とする処分を行ったとのこと。
納税者(みずほ)の対応
処分を不服として提訴を行っております。
争点
益金にすべき本件SPCに係る課税対象金額が存在するか、すなわち、請求権等勘案保有株式等の算定基準日はいつであるべきか、という点となります。
みずほ銀行は、請求権等勘案保有株式等の数は、平成27年 6 月 29日(優先出資証券の償還日の前日を終了日とする決算期を追加していれば、本件SPCは優先出資証券と株式の両方を発行していたことになることから、一定の調整計算の上、請求権等勘案保有株式割合は0%であると主張しました。すなわち、たまたま事業年度末に100%になったが、すぐに解消して0%になるため租税回避の意図はなく、全体のスキームで判断してほしいと主張しました(目的論的解釈)。
一方、課税庁は請求権等勘案保有株式等の数は、事業年度終了時の現況で判断すべきであると主張しました(文理解釈)。
判決
地裁判決ではみずほ銀行の敗訴となっております。
地裁判決は、みずほ銀行の主張するタックスヘイブン対策税制の趣旨・目的(租税回避を防止すること)には理解を示しながらも、租税法律主義の下、租税法規を解釈するにあたっては、原則として文理解釈によるべきであり、みだりに規定の文言を離れて解釈すべきではない旨、明確に判示しみずほ銀行の主張を否定しております。
2. まとめ(所感)
租税特別措置法施行令第 39条の16 第 1項及び第 2項第1 号(平成 28年改正前)の規定から、請求権勘案保有株式数等を判断すべき時点については、本件 SPCの事業年度終了時としか読めず、文理解釈上は勝ち目がないと感じておりました。
ただ、タックスヘイブン対策税制は租税回避を防止する規定ですので、みずほ銀行が主張する「租税回避の意図はなかった」ということは一理あるかと思いますが、これを認めてしまうと法律を拡大解釈することができてしまうため、「みだりに規定の文言を離れて解釈すべきではない」と判示されております。
本件は、「文理解釈」vs「目的論的解釈」で争われましたが、「文理解釈」が勝った内容となります。前回取り上げたサンリオも、文理解釈上は厳しいと考えられますが、法律が必ずしも正しくない(経済実態を適正に反映されていない)場合もあるので、そのときは裁判を通して正しい条文に進化していくものと考えます。現にデンソー事件では最高裁判決を受け、税制改正が行われております。そのため、サンリオは最高裁での逆転勝訴の可能性もゼロではありません。
今回の事例は専門的な話も多かったですがですが、タックスヘイブン対策税制の内容が分からない方にも分かるようになるべくわかりやすく書いたつもりです。
もし不明な点等ございましたらコメント欄に記載いただければと思います。
追記
高裁判決が出ましたので、こちらもご覧いただければと思います。