ついに国税とみずほ銀行の争いに決着がつきました。

今回は日経新聞の以下の記事を取り上げたいと思います。

タックスヘイブン巡る課税処分、最高裁 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

 

案件の概要については別の記事で紹介しておりますので、まだお読みでない方はこちらをご一読いただいてから本日の内容を読んでいただければと思います。

  • 地裁判決

タックスヘイブン対策税制(国税vsみずほ銀行) | 企業内税理士の徒然日記 (ameblo.jp)

  • 高裁判決

タックスヘイブン対策税制(国税vsみずほ銀行) 東京高裁編 | 企業内税理士の徒然日記 (ameblo.jp)

 

 

 

 最高裁判決

 

結論は、みずほ銀行の敗訴となりました。

 

最高裁判決では、課税処分を取り消した二審・東京高裁判決を破棄し、処分は適法とする判断を示し、みずほ銀行側の逆転敗訴が確定しました。

SPCの配当をいつ支払うかや、事業年度終了時をいつとするかは実質的には支配株主であるみずほ銀行が決めることができるため、「規定の適用で回避し得ない不利益が生じるとはいえない」として、処分は適法だったと結論付けております。

 

 

 裁判官の補足意見

 

本件の判決文には、草野耕一裁判官の補足意見が記載されております。

補足意見の中で、本件で問題となっている点について詳しく解説されていたので紹介します。

  • 外国法人が事業年度終了時と異なる日を基準日として剰余金の配当を行った直後に到来する事業年度終了時において、その配当を受け取った株主が株主でなくなっていた場合には、本件のような過剰課税が生じることになる。
  • 上記の点は問題であるが、タックスヘイブン対策税制は税負担の軽減を防ぐことが目的であり、企業が行う取引から発生しうるすべての事象について過少課税にも過剰課税にもならないような合理的な帰結をもたらす税制を立案することは困難である。
  • 現行の事業年度終了時における請求権勘案保有株式等割合を用いて計算を行うとする規定は、会計期間の末日を基準日として配当を支払うという典型的な配当支払実務を前提とすれば十分に合理的である。
  • 配当をいつ支払うかや事業年度終了時をいつとするかは支配株主によって決めることができると考えられるため、本件のような過剰課税を回避することは可能であったはずである。

 

ここから厳しい意見を言っております。

  • 本件子会社が設立された平成20年当時では、配当金は合算課税の対象とされていなかったため、このようなことは起こりえなかったが、その後の税制改正によりこのような過剰課税が生じることになった。
  • この点を斟酌しても、以下の理由により(納税者敗訴の)判断を覆すことはできない。
  1. 被告は日本を代表する金融機関であり、予期せざる税務上の不利益が発生することのないように注意を払い続けることを期待され得る立場であったこと
  2. 過剰課税は、平成21年度改正で外国子会社配当益金不算入制度の導入により生じることとなるが、制度導入から本件が生じるまでの間に6年余りの期間があったため、事業年度を優先出資証券の償還日の前日とするなどの方法で合算課税を回避することは、費用をかけずにできたはずであること

 

 

 所感

 

話題の裁判がついに決着ついたので、急いで内容を確認しました。

高裁での「目的論的解釈」を最高裁でも認めるのか、とても注目しておりましたが、結果は「文理解釈」を取った形になりました。「目的論的解釈」には、どうしても人の考えが入ってしまい、判断する人によって結果が異なることになってしまうため、実務家目線では「文理解釈」が優先されて良かったと思います。

地裁で納税者敗訴、高裁で納税者逆転勝訴、最高裁で納税者再逆転敗訴と、はたかた見ている分にはとても面白い流れでしたが、当事者の方は気が気じゃなかったと思います。

結果は残念ですが、良い判例ができたと思います。

日本は判例主義であるため、裁判官の補足意見に記載の本件のような過剰課税が生じることが無くなるように法改正が行われることを期待します。裁判官も過剰課税や過少課税をなくすことはできないと述べられていましたが、問題が明らかになったらその部分を直していくことでより少しずつ良い条文ができるのだと思っております。

 

また、補足意見の中の厳しい意見では、スキーム実行時には問題のない取引であっても、その後の税制改正で問題が生じるかどうかについて注意を払うことが期待される立場であったとされており、企業税務に携わる者として身につまされる思いがしました。