勝利と葛藤と新しい戦い
名古屋に住むTOYOTA系社員の家族である私は、3.11東日本大震災でも、今回の新型コロナウィルスのパンデミックでも、直接的な大打撃を受けずにこの10年生きてきました。羽生選手がどんな思いでこの10年間を過ごして来たのか、想像はできても、本当の意味で実感することができない私は、それこそ罪悪感を持って彼の活躍を見ています。何も打撃を受けていない私なんかが「羽生くん、苦悩と葛藤を乗り越えてすごいね!」なんて軽々しく言えないなと思うのです。所属先であるANAさんが世界に飛行機を飛ばせなくなり、そんな中で「自分だけ好きなこと、スケートをするということを追求していていいのだろうか?」と羽生選手はもの凄く悩んだでしょう。だからこそ「出るからにはいい演技をしなければ。それが自分の果たすべき責任」という思いは相当なものだったでしょうし、実際にそれを成し遂げた羽生選手には驚嘆するしかありません。ここへ辿り着くまでにどれほどの努力と苦しみがあったのかと思うと、本当に想像を絶すると言いますか、想像なんてできるはずもないと痛感します。売上や利益などの数字の上ではそこまでの打撃は無かったTOYOTA、その所属選手である昌磨くんや紀平さんが「試合に出られて嬉しい~」って(屈託のないように見える)笑顔でインタビューに答えているのを見て、私なんかは彼らの側だな、パンデミックで打撃を受けた人々の本当の苦しみなんかわかるはずないなと思いました。(もちろん昌磨くんや紀平さんだって、私の知り得ない苦しみの中から這い上がって来たんでしょうけどね。誰にも苦悩と葛藤と罪悪感はありますよね)羽生選手は試合後の会見で「僕が1位になることで、誰かが2位になったり、3位になったり、犠牲があるということを感じながらやっている」と言ってました。それが謙信公の戦いの価値観と重なると。ジュニア・シニア全ての大会を征するというスーパースラムを達成したからこそ感じたのか、あるいは昨年のさいたまワールド、トリノファイナル、そして全日本でひとつも勝てなかったからこそ敗者の気持ちを痛感したのか、そんな羽生選手の心の奥底など私にはわかりませんが、コロナ禍を通してもある意味「勝者」と「敗者」がいる現状、いろんな複雑な感情があるでしょう。(勝っても負けても苦しみはそれぞれにある)それでも私は今年羽生選手がずっと勝者だったことはよかったな、正しい者が勝利を得たなと思っています。2月の四大陸選手権で勝ったこと、ISU Skating AwardsでMVSに輝いたこと、今回の全日本選手権で王者に返り咲いたこと、すべて羽生選手の努力と選択は正しかったなあと心の底から思います。他の誰が勝っても、ここまで多くの人が救われることはなかったと思いますし、誰よりも多くの人を喜ばせ幸せに出来るのは羽生選手しかいない、それは事実なんだと思っています。(などと単なる部外者のいちファンが言うのは全く傲慢なことかもしれませんが、羽生選手が勝つことで無用なファン同士の諍いも最小限に食い止めることができるのも真実だと思うのです。羽生選手が負けたあとネット内に嵐が吹き荒れるのはやはり心が痛いですし、羽生選手が勝てば他の選手もそのファンもジャッジでさえもそこまで叩かれることなく、ある意味守られると思うのです)羽生選手はずっと仙台で練習以外は外出することなく孤独と闘ってきたそうです。どん底の期間が長かったと。コーチたちとリモートでやり取りできるようになったのも11月くらいからって言ってました。どうしてそこまで独りで頑張ってしまったのかは、当たり前ですけど私にはわかりません。けれど(他人と比べてもしかたないですが)東京五輪が延期になってしまった夏のアスリートたちも相当苦しかったと思います。世の中がこんな状況で自分たちだけオリンピックを目指してスポーツをしていていいのだろうか、感染拡大中の日本で試合をしていていいのだろうかと皆さん葛藤していたと思います。本当に夏の甲子園を中止した同じ日本で起きていることなのかと驚くほど多くの全日本選手権がこの冬開催されていました。羽生選手が内村さんや地元の張本くん、あるいは病気から競技の世界へ戻って来た池江さんたちと本音をさらけ出して語れる関係があるといいかもなあなんて勝手なことも思いました。今朝、BS1で『ウィルスVS人類3 スペイン風邪 100年前の教訓』という番組の再放送を見ました。100年前に世界的なパンデミックとなったスペイン・インフルエンザは3年に渡って4千万人から1億人の死者を出したそうです。それは第一次世界大戦の死者数1千万人を大きく超える数字でした。日本でも関東大震災の10.5万人を遥かに超える45万人の死者を出した恐ろしい感染症だったそうです。スペイン・インフルエンザは第一次世界大戦中に発生したこともあり、各国では感染状況を明らかにすることが戦局に影響するといって詳細を隠蔽したことが感染を悪化させたとも言われています。それは現代も変わっていませんね(中国とかロシアとか)。※参考:2020年12月31日現在 新型コロナウィルスの感染者数は世界で約8,250万人、死者数約180万人と発表されています(←本当はもっと多いらしいです)。日本の感染者数は約23万人、死者数は約3,200人です。東日本大震災の死者・行方不明者は約1.8万人。今は医療技術も格段に発展し、情報伝達もグローバル化し、100年前のことを教訓とするなら、私たちは違う戦い方ができるはずと番組の中で歴史家の磯田さんが仰っていました。「パンデミックは世界のパワーバランスを変えるほどの社会的、歴史的な事件。こういうときは本当は世界で手を携えてともにウィルスと戦うべき」みたいなことを語っていらっしゃいました。国と国、人と人が、敵味方に分かれて戦うのではなく、共に手を取り・・・。(オリンピックはひとまず脇へ置いておいて、ワクチンの供給と特効薬の開発を協力し合って、経済的な援助も互いに配慮しあって・・・が今はいいのかな?)そんなのは所詮綺麗ごとかもしれませんが、来年が少しでも穏やかで健やかな世の中になりますように。まとまりのない話になってしまいました。m(__)mでも羽生選手が今目指す勝利もそういうところにあるのかなあと勝手に想像しながら、雪の名古屋の大晦日をひとり静かに過ごしています。皆さん、よいお年を。