ストイックに南へ

青森~岩手県 田老町

台風11号は今日の朝には既に北海道に達していた。通りで朝から暑いわけだ。雲は多少多いが、この天気は完全に台風一過である。夕べは他の宿泊客と話しこんでいて、日記をアップできなかったので急遽今朝、部屋でPCを立ち上げ日記を書き込んだ。そのせいで、チェックアウトは一番最後となった、時刻は9時半を回っていた。
東北太平洋沿岸をR45に乗ってひたすら南下。しかし、日本海のR101や北海道の海沿いの国道とは違ってこちらの国道は殆ど海沿いを走ることが無い。地形上の問題もあるのだろうが、どちらかと言えば山の中を走っている事の方が多かった。しかもやたらと工事が多く、折角リズムに乗れてきても直ぐに停められてしまう。三沢市を離れてからは信号が少なくなって幾分かは走り易くはなったが、西日本や関東甲信越や蝦夷では考えられないような、のろいペースで走る車が多く、しかも山間の民家の何も無いところでも制限速度が50キロという理不尽な標識が立ち並んでいるので、今まで北海道の快適な移動を日常としてきた自分にとってはこれらが非常に邪魔に感じた。そして、沿道の景色も特に目を奪われるような展開も無く、典型的な日本の農村風景が延々と続くだけ。だから、かえって走りに集中する事は出来た、しかし退屈極まりない。
今日の幕営地は特に決めていなかったので、時間と現在位置を確かめながら、南下を続けた。宿を出る際に荷物のパッキングで大汗をかいてしまったので、途中岩手県久慈市の郊外にある新しい温泉施設「古墳のゆ」という所(いやあれは温泉じゃない、完全に只の沸かし湯だった)で汗を流し、ついでに中の食堂で昼飯を済ませた。
ひとごこち付いた所で、更に南下。再び退屈極まりない国道を走る。
やがて、真上でジリジリと照りつけていた太陽は北上山地の向こうに隠れ、気温が少し下がった辺りで、キャンプ場を決めた。本日の幕営地は、宮古市の北部にある田老町という初めて聞く名前の町。そこから太平洋に出た所にある「沼の浜キャンプ場」に向かう。海の直ぐ近くとは思えないような、タイトで急な山道(ワインディングではない)を登って下り切った先の更に奥。
真崎海岸と言う波が道路に被さらんばかりのけっこう風光明媚な場所にキャンプ場はあった。

キャンプサイトには秋田ナンバーの車で来ている家族連れのテントが一張りのみ、バイクやチャリダ―の姿は無い。もう、本州の国道でバイクやチャリンコとすれ違う様な事は無いのかもしれない。最初はここのキャンプ場利用料金の看板を見て、入場料400円、テント持ち込み料600円と書いてあるのに驚愕したが、管理人の兄ちゃんの粋な計らいで、小さなテントのバイクのキャンプなら、テント持ち込み料は要らないとの事。しかも、車両進入は原則禁止のテントサイトにバイクを停めてもOKと言われた。これで、ここのキャンプ場の評価はかなり上がった。でも、バイクをテントサイトに乗り入れてもいい理由は、あまり有り難いものではなかった。その理由とは、以前駐車場に停めて置いたバイクが夜何者かに悪戯されたという事件が起こったからなのだそうだ。確かに前々から海岸沿いのキャンプ場は山奥のとは違って悪い事を考えている輩が簡単に近づける場所にあるので、概して治安は良くないというイメージは持っていたがやはりそれは現実だったのか。テントを張り、荷物は炊事場に全て広げた。

何だか、今日も疲れてしまった。明日からは田沢湖で開かれるイベントに絡んで、旅の前半に宿を提供してくれた人たち、そして春のオフ会で逢った人たちと再会する日が続く。そうなると、成り行き上キャンプはする必要はもう無い。そして、自分自身もキャンプをする気力がもう無くなっていた。北海道が今回の度のメインステージだったからだ。
だから、北海道が終わったらもう帰るだけ。

本当は帰りながらも、久しぶりに十和田湖や八幡平にも行こうと思っていたが、旅中盤の天候不順で予定が伸び伸びになり、帰途に付く日も大幅に遅くなってしまった。旅が予想以上に長引けば、その分疲れも蓄積して行くものだ。本当に疲れが取れるのはやはり自宅に戻らないと無理である。と言う事で、本日のキャンプで今回の最後としたいと思っている。
東北はまたの機会にじっくりと廻ればいい。そのために北海道に行かず、何年も掛けて東北を廻ったのだ。北海道とは違って、東北は陸続き、自分が思った時にはいつでも行ける所だ。だから山登りも、湖に行く事も今回は全てキャンセルした。取り敢えず明日は、本州を西に横切り、一気に秋田市に向かう。だが、途中にかの有名な「龍泉洞」という鍾乳洞があるので、そこくらいは寄って行きたいと思っている。龍泉洞に行けばこれで山口の秋吉洞・高知の龍河洞の日本3大鍾乳洞を全て訪れた事になるからだ。
今回の長旅最後のキャンプは、台風の余波の影響で以前大きな波が打ち寄せる音と気が早いコオロギの合唱が聞こえるだけの静かな夜という、自分の一番好きなシチュエーションで締めくくる事になる。野宿生活に乾杯、そして取り敢えずお疲れ様と自分でビールの缶を空け、一気に飲み干した。明日も日中は暑くなりそうだ。
そして、旅の最後のお祭りがやって来る。
それが終われば、自分にとっての夏は幕を閉じる。