MASHU BLUE
和琴半島CA滞留(摩周岳登山)
自宅を出発して今日で一ヶ月になった。
やはり、1箇月を超えるツーリングにはなるとは予想していたが、これまで連日の芳しくない異常気象に思ったようにスケジュールが消化されていない。時間は幾らでもあるとは言っても、やはりノビノビになるのは余り気分的にはよろしくない。8月に入ってもその傾向は一気に変わる事は無く、じれったい位に天気は回復しない。もしかしたら、このまま今年の北海道は真夏日を迎える事無く秋を迎えてしまうと言うことにもなりかねない。まぁ、それでも自分は良いと思っている。なにせ暑い所から逃げて避暑に来ているのだから。しかし、その涼しさ加減が行き過ぎている、しかも雨続き。これでは避暑どころではない。
今朝の、屈斜路湖も朝は肌寒い。しかし、西の方角を見ると雲間から青空が出ている。期待してよいのだろうか。昨晩一緒だったWEB&バイク仲間でもあるちんさん&NOBUさんとここでそれぞれお別れし、自分はまず摩周岳の登山口のある第1展望台に向かった。ところが、和琴半島近辺の晴れ間は全くの局地的なもので、弟子屈の上空には分厚い雲が垂れ込めている。また、今日も駄目なのか。
気温13度と言う見たくもない電光掲示板の下を通過し、第1展望台に到着。物凄く寒い。真っ白。何も見えない。直ぐ近くまで料金徴収係のオバサンが近づいてくるのも分からなかった位視界が悪い。登山口も見えないので、オバサンに聞いてそこへ向かう。
駐車場の片隅に摩周岳登山口という看板を見つけ、いつものように登山者名簿に名前を書き込み登山開始、熊笹の生い茂るほそい一本道を登ったり下ったりを繰り返す尾根伝いのトラバースが思いのほか長く続く。夕べ見たガイドブックには片道約2時間と書いてあった。摩周岳の標高は857メートルと今まで登った山の中では一番低い山であるにも拘らず、この時間は何なんだ?と思っていたが、歩き始めてその疑問は直ぐに解けた。第1展望台からのコースはとにかくひたすら反対側にある摩周岳に向かって、摩周湖の外輪山に沿って歩くしかルートは無いらしい。湖には船は愚か水際に降り立つ事も出来ないので、そうするしか方法が無いわけだ。裏摩周展望台から摩周岳に向かうルートは、昔有ったらしいが道東沖地震で登山道が崩落し無くなってしまったらしい。だから、遠回りしてでも摩周岳に向かうには大人しくアップダウンを繰り返しながらダラダラと長い道を歩かなければならないのだ。しかも、見渡す限り真っ白の霧だらけ。気温も低く体の負担にはならないが、つまらない。ところが、稜線をかなり下ると左手に湖面が見えるのに気が付いた。湖面に極めて近い所は霧が立ち込めていないようで此処からでも見る事が出来るようだ。第1第三展望台が霧に覆われていても、裏摩周展望台ではかろうじて湖面を見る事が出来ると言うのは、擂り鉢上に切り立った周囲の崖がうまい具合に層雲を湖面まで降り立たせないように出来ているからのようである。
霧の中から僅かに見える湖面は、鳥肌が立つほどの青さであった。
太陽光が差し込んでいないのにこんなに青く見えるのは、何故だろうか。直ぐ近所にある神の子池も同じ様に曇天でも雨天でも青いというように、水質から来ているのだろうか。早い段階から摩周ブルーを見る事が出来、これで取り敢えず山頂到着までの間に湖面が全く見えなくて完敗という事は免れた。キツイ登りが無いお陰で、1時間歩いては小休止という繰り返しで、持って来た水もいつもの半分程だったがそれでも充分間に合った。2時間後摩周岳の縁に到着。
此処からはいつもの登山道らしい勾配のある道となり、しかも道そのものが傾斜していて非常に足場が悪い。今回は標高が低いと言う事で登山ストックを持ってこなかったのを少しだけ後悔した。やはり、一本だけでももってくれば良かったか。特にきつかった登りは頂上まで500メートルという所からであった。恐らくこの標識は、後500メートルだけどきつくなるよ、という登山者への予告の意味もあるのかもしれない。これまで休憩をケチってきたのでここで一気にスタミナが消耗してきた。相変わらず周囲は真っ白なので、どこが山頂なのかも見当がつかない。
天気が良くて遥か彼方に山頂が見えて
「まだ、あんなにあるのか」
と言うのと、真っ白で
「いつになったら山頂なんだ?」
というのとどっちがきついだろうか?
やはり、後者であろう。なにせ目標とするものが見えないのだから気持ちとペースのコントロールが難しい。やはり、いい景色を眺めながら少しずつ近づいてくる終着点を見ながらの方が頑張り甲斐がある。
11時10分。頼りなさげに立っている山頂を示す標識が見えてきた。山頂到着。真っ白。何も見えない。何処が湖なのかも分からない。風も強く誰も居ない。それもそうだろう。
しかし、ほんのりと温かさを感じる。見上げると太陽が薄い雲間から見えている。時々まるっきり隠れてしまう事もあるが、殆どは薄日が差すというかなり期待ができる天候状況だ。斜里岳よりは全然ましだ。雨も降っていないし、岩陰に隠れればかなり寒さを凌げる。勿論今回も着替えを持ってきたので、速攻で着替え持って来た衣服を全て重ね着してひたすら晴れるのを待ってみる事にした。
実は、今回は昼飯を持ってきていない。昨日の夜までは摩周岳には登るつもりは無かったのだが、NOBさん情報を聞いてから一晩置いて考えた挙句、折角2日間共通の駐車券を持っているのだから、第1展望台に相方を置いて摩周岳に登れば、その間に時間が経って晴れ間が出てくるかもしれないと思ったからだ。それにちょっと摩周岳登山コースをなめていたのも正直有った。もっと早く着くだろう10時ごろには山頂についてその頃には霧も晴れるだろう、それから下山して駐車場のレストハウスに戻る頃には丁度昼過ぎになるだろうとたかを括っていたので、あえて街中のコンビニには寄らず、直接登山道に来てしまったのだ。
「・・・・・」
1時間経過、変化無し。2時間経過変化なし、その間に他の登山者が登って来て、自分が隠れている岩の向こう側で昼飯を食べ始めている。おかしな物だ、じつは先日の斜里岳に登った時、頂上で昼飯を食べたのは自分と連れ合いのチャリダ―M氏だけで、あとの登山者は皆写真を撮っただけで直ぐに下山していったのである。ここの山よりずっときつくてスタミナを必要とするのにである。
よりかかった岩に頭を預けて目を閉じて待つ事2時間半、不意に顔が暑くなった。
目を開けると頭上に青空が見えた。そして、直ぐに霧に隠れてしまうのだが、周りの景色が少しずつ見えて来たのである。霧が薄くなって来たのだ。これこそ、昨日の天気の繰り返しだ。バッグからカメラを取り出し、いつでもシャッターを押せるように準備した。この目まぐるしく変化する天候状態、一瞬でも湖面が見えたら写真に収める構えで待っていた。だが、そんな体制は必要なかった。時間が経過するに従ってどんどんと青空が広がり、背後の摩周岳の火口が全部見えてくる様にまでなって来た。
そして、雲海の形が目で確認出来るようになり、その遠くに恨めしい斜里岳の山頂が聳え立っている。今日あの山に登った登山者はさぞかし素晴らしい展望に感動している事だろう。その思いに耽る間もなく、摩周ブルーはいきなり眼下に姿を現した。
その青さは、先ほど登山途中でみた以上の青さで、正に吸い込まれるような色である。その青さで比べるならば、礼文島の澄海岬か、種子島の千倉の岩屋で見た夏の海の色と同等と言って良いだろう。いや、でも世界1の透明度を誇った摩周ブルーの方がより深みのあるそれでいて淀みの無い青かもしれない。空の青さよりももっと青かもしれない・・・・この2~3行の文の中で何度「青」という文字が出て来ただろうか・・・。
気がつく頃には360度全て見渡せる大パノラマが広がっていた。銀塩とデジカメの両方を駆使してこの貴重な晴天の摩周湖周辺の景色を全て記録した。摩周湖の青さと周りを取り囲む緑の山々、遠ざかっていく雲海。最初からドカーンと見えていた羅臼岳とはまた違った感動を摩周岳は自分に与えてくれた。山頂に到着して2時間半待った末の逆転勝利である。ありがとう、カムイヌプリ、待っていた甲斐が有りました。これで、今回の登山の勝敗は2勝(内1勝は2時間半の延長戦)3敗1分けとなった。
そして、空腹のまま一気に下山。その間右手にはずっと摩周湖が見え、摩周岳山頂からは陰になって見えない、カムイッシュ島もはっきりと間近で見えていた。レストハウスに到着したのは夕方の4時。すっかり遅くなってしまった。まぁそれでもこの時間で戻ってきたのだから、結果的には楽な山だったのか。遅すぎる昼飯をレストハウス内の食堂で取る。この時間ではもう夕食か。まぁいい、晩飯を遅くして夜食にすればいいだけのこと。勿論、自炊する気なんて全く無いから、いつものようにコンビニ弁当だ。
取り敢えず、空腹を満たして落ち着いた所で撤収。その頃の第1展望台は、昨日とまた同じ様に分厚い雲に覆われ薄暗くなって来ていた。一応、展望台に登って湖面を今一度見てみる。湖面は灰色になっていて、摩周岳の山頂も再び雲に隠れようとしている。今日の晴天の摩周湖を見る事が出来た人間は、1時~2時の間の僅かな晴れ間の間に駐車場に来た一般観光客と、摩周岳に昼頃に登った登山者だけということになる。ようするに、自分が知っている限りではここ数日の摩周湖は本当にタイムサービスなのだ。定期観光バスや、レンタカーで移動途中に寄って見るだけとするならば、そうとうに運が良くなければ見られない、ちょっと展望台に上がっただけで「駄目だ真っ白だ」と言って直ぐ帰るような人間には摩周湖は姿を見せる気にはなってくれないのだ。それだけに、自分がずっと摩周湖を見ながら下山してきた時には、「もう摩周湖は暫く見なくても良いや」とまで思っていたのである。
これで、屈斜路湖に実質的に滞在する用事は無くなった。
しかし、ここからだと日帰りで行く事が出来、まだ満足して引き上げていない所が1箇所ある。「オンネトー」だ。あそこに居た間、道東は特に天気が悪かった時なので、「オンネトーブルー」を見ていないのだ。それに雌阿寒・雄阿寒の山頂も見ていない。明日は、それをまとめて片付けたいと考えている。
そして帰りに先日通った時真っ白だった美幌峠をもう一度通ってみて、屈斜路湖がバッチリと眺められれば本当に屈斜路湖滞在はお終いである。