知床半島船で巡る
羅臼国設野営場滞留
朝の5時半に目が覚めた。目覚ましを掛け忘れていたが、既に体がキャンプモードになっているので、ちょっとした物音や何者かの気配で目が覚めるようになっている。点とのファスナーを開け、外を見る。雲が多い。今日も駄目か・・・しかし、朝飯を食ったり、出発の準備をしている間に雲間から日が差し込んできた。「おや?これは今までとは違う展開だぞ」だが、過度の期待は大きな失望にかわる事が多いので、あくまでも「ダメモト」の気持ちのまま、今日は昨日よりも20分早くキャンプ場を出発した。
既に走りなれてきた知床峠を駆け上る、峠の手前で工事のための信号待ちに引っ掛かる。目の前に羅臼岳が見えている。完璧に頂上まで見える。ここまで羅臼岳を頂上まではっきり見たのは、知床入りして初めてだ。振り返ると目を疑うような一面の雲海。写真に撮りたかったが、信号が青になると行け無いのでここは後日に取っておく事にしよう。
「・・・・・・・・?」
ここの信号機は最長でも3分30秒が待ち時間のはず。しかし、どう考えてもそれ以上の時間が経過している。峠の向こう側から下りてきたBMW1200Cのタンデムライダーがすれ違いざまに手を上げて挨拶する。う~ん向こう側は青のようだ。しかし、長すぎる。そろそろ行ってしまおうかと思った時、先ほどのBMWが引き返してきた。
「この信号壊れてるよ、俺も向こうでずっと待ってたけど全然青になら無いんだもの」
「じゃあ、行っちゃいますかね」
「バイクだったら大丈夫だよ」
そう言って、2台揃って恐る恐る交互通行の道を走り抜ける。車は来ない、そして、向こう側の信号を通過した時振り返って見ると、赤のままになっている。やはり、これはおかしい。公安員会の設置した信号のクセにこんな所でえらい時間のロスをしてしまった。ロスした分を取り返すために、少々ペースを上げる。BMWが離れていく、手を上げてギヤを1段落とし、更にペースアップ。ストレートのところでジャケットのポケットから携帯電話を取り出し、時刻を確認、まだ充分に余裕がある。早めに出て来てよかった。ウトロの町に入ってペースダウン。ボンズホームの前に到着したのは8時10分前だった。何も看板が出ていない。
(↑ボンズホーム前に留まっていたCBX)
しかし、その日の船が出るかどうかは8時になってから決定するので時間が早すぎたのだろう。店の前でタバコに火をつけ看板が出るのを待つ。半分ほどタバコが灰になったところで昨日の民宿の主人が出てきて、店先の柱に看板を掛けた。「出航」の文字が読めた。
やった!2日目にして乗船できるなんてなんてついているのだろうか。話によると、1週間粘ってやっと船が出たと言う話も聞いていてので、これは相当にラッキーである。
ところが、集合時間になってもメンバーが揃わない。
主人も店先でソワソワしている。聞くと、岩尾別YHのメンバーが来ていないらしいのだ。岩尾別YHと言えば、北海道3馬鹿ユースの一つだ。やはり、肝心な時になるとその馬鹿ぶりが発揮されるのだなと思った。出航時間の8時半を10分ほど回った所でYHの連中がやって来た。
遅れてやってきたくせに「遅くなってすみません」の一言も聞こえない。やっぱり、こんな所に止まるような奴は処世術を知らないような連中が寄せ集まる物なのだ。つくづく、泊まらなくて良かった。もう「桃岩の悪夢」は沢山だからな。YHの連中はこう言う船に乗りなれていないのだろうか、揺れる船にどうやって乗っていいかまごついている。自分はダイビングでこんな船には何度も乗っているので、勝手知ったる物だ。
連中とは違う所からひょいと飛び乗り、一番後ろのいい席を占領した。
(船の舳先は競りあがっているので、椅子に腰掛けたままでは景色が良く見えない。しかも揺れるのは舳先なので酔いたくなければ、船尾に陣取った方が良いのだ)
8時40分ウトロ港出港。船は想像していた通りの漁船そのまんまだった。
切り立った崖が延々と続く半島を岬に向けて船は走り出した。いくつも見える滝や、無数の飛び交う海鳥達。怪岩や洞窟もいくつも見受けられた。
そして、ポツポツと点在するバラック同然の番屋。海は鏡のように静かである。たしかに、人口建造物はそれくらいしかない。跡は、断崖の間に掛かる知床第2大橋くらいか。だが、次第に退屈にはなってきた。確かにこの船の出航目的は熊やイルカを見る為の物ではなく、あくまでも知床の自然を見て欲しいというものである。ゆえに、熊やイルカを目当てになんかで乗ったりしたら、退屈で仕方が無いのは何となく分かる。
この船に乗ったら、ただボーっと知床半島の緑を眺めて居ればいいのだ。見所が見えてくれば、船長がマイクでアナウンスしてくれる。だから、自分はそのアナウンスがあるまで最後尾のベンチで横になり、目を瞑っていた。それ程景色に変化が無いからだ。切り立った海沿いの崖の風景なら、春の長旅でも「青海島」で見てきているし、こう言う風景は正直言ってあまり自分にとっては新鮮味が無かった。ちょっと「知床」という名前に踊らされすぎたか?そして、船長が「右手に見えてきた滝はナンタラ滝です」という言葉を聞いて起き、その様子を眺める。その繰り返しが岬まで続いた。そして約3時間後、NWBは人間の上陸を厳しく禁止されている「知床岬」に到着した。
船はその近辺をぐるっと周り、引き返す。取り敢えず簡単には来られない所なので、証拠写真を撮った。
帰りの船は、行きとは違い陸に可能な限り近づいて航行する。熊が降りてきそうな所を見つけては、借り物の双眼鏡を覗いて必死に目当ての物を探す。しかし、中々見つからない。やはり、サファリパークとは違うからなァ・・・・。・・・と、結局幾つかの滝と海鵜の巣に近づいたりを繰り返して、船は2時半過ぎにウトロに到着。接岸後の船長の一言
「いや~熊を1頭も見られなかったのは、今年初めてだぁ」
っておい!例えそれが本当だとしても、そんな事終わってから言うか?嘘でも
「ここのところずっと熊が出てこなくてねぇ・・・・」
くらい言ってくれよ。
テンション下がっちまったじゃないか。まぁ、特に目新しい光景ではなかったからもう2度と乗ることは無いけど。いい経験でした、と自分で自分に言い聞かせるしかない、そんな船旅だった。
ウトロのコンビニで今晩と明日の分の食料を買出し。明日の天気は午前中は0%との事なので、朝の雲行きを伺ってGOサインが出たら「羅臼岳」に登ろうと思っている。今日は全然体力を使っていないので、そんな事も出来るわけだ。もし、朝から怪しかったら半島東部の海岸線沿いに点在するセセキ・相泊温泉のハシゴでもしようかとも考えている。今日はそんな所だ。でも、これで知床滞在の先が見えてきた。同じと頃にずっと居つづけるのが苦手な自分にとって、今日の船旅はまぁまぁ有効に使えたのでは?ってな感想だ。