日陰が恋しい

山形(酒田)~秋田

朝から気温が高い。自分が寝させて貰った部屋には雨戸がなく、障子しかなかったので朝日が部屋に差し込み5時位には目が覚めてしまった。しかし、眠い。だが、眩しい。直ぐ近くに線路が通っていて列車が通過するたびにガタゴトと部屋が揺れる。むきになって布団に潜り込んでいたが、そんなこんなしているうちに無常にもセットした携帯の目覚ましが鳴り出した。時刻は6時30過ぎ。夕べはリアルな夢をいくつか見た。4本位みたが、内容は良く覚えていない。だが、あまりいい夢ではなかった所は憶えている。旅が始まったばかりで精神的に落ち着いていないせいかもしれない。観葉植物がおいてあるフローリングの洋間に出ると、りんご氏は既に起きていてパソコンに入っているメールのチェックをしていた。
モーニングコーヒーなんぞ洒落た物を頂き、目が覚めた(多分)。7時半にはりんご氏は出勤するとのことなので、一服する間もなく荷物を外に運び出し、相方をガレージ(?)から出し、パッキングを始めた。おおよその荷物が積み終わった辺りで、りんご氏は愛車その3のジムニーで出発して行った。
相方に火をいれ、暖機を始めると自分の後ろを小学生の登校行列が次々と通り過ぎていく、皆それぞれに「でけ~」だの「すげ~」だの口々に言っている。見事な晒し者だ。目の前を通っている道路は酒田市内へ出勤する車の流れが激しい、りんご氏の自宅が閑静な住宅街の真ん中にあるのだから、この光景は別段不思議ではない。
しかし、いざ自分達が出発してみてから後悔したのは、今現在の自分達の場所を把握していなかった事だ。幾ら走ってもR7に出られない。地元の車の流れの多い方に沿って走るがなかなか思うような方向に走る事が出来ない。というか、どこに向かって走っているのかさえ分からない。そうこうしているうちに、遠くに「鳥海山」が見えてきた。あれだ、あれのワインディングを久しぶりに今日は走るのだ、ということでその後は標識にもろくに目もくれずにひたすら、「鳥海山」目指して走るようになった。
結局、R7には出る事我出来ず、一本の滑走路のような農道を走るうちに山形県と秋田県の県境にある遊佐町に入った辺りで、ようやくR345に合流した。
そのまま、北上し吹浦という所から海沿いに出て鳥海ブルーラインの入り口を発見、登って間もなくの駐車場でやっと一息入れることが出来た。実は、ここまで朝飯すら食べていないで来たのでそうとうにイライラしていたのだ。しかし、そこの駐車場にある食堂兼みやげ物やは朝の早い時間とあってまだ準備中。しかたなく、その駐車場下にある食堂にもいってみたが、ここは営業中の看板がさがっているにも係わらず、ブーツを脱いで上がりこみ、呼べど叫べど反応なし。イライラは頂点に達してきた。ブツブツと文句を言いながら再び元来た駐車場に戻ると、先ほどの売店が営業を始めている、これでようやく朝飯にありつけると思って、中に入ってみたら「すいません11時からなんですけど」との返事。ガックシである。こんなんだったら途中のコンビニでサンドウィッチでも齧っておけば良かった・・・・アルコールも抜けきっていないし、まだ眠いし、ハラペコだし、どうしようかと思っていたら、食堂のおばちゃんが「ザル蕎麦なら用意できるよ」との有り難いお言葉を貰い、さっそく頂く事にした。

今日は、昨日に引き続き事の運びが上手くいっていない、今後の道程が気に掛かってくる。鳥海ブルーラインを一気に駆け上がり、一番上の駐車場で一服、天気は少々雲があるもののほぼ晴れ渡っている。下界の眺めも申し分ない。早速デジカメでパノラマ写真を収め、山を下りた。ブルーラインは過去にも来た事があるし、この先の秋田までそれなりの距離があり、また今日の宿を提供してくれる人との待ち合わせもあるので、早々に山を下りたのだ。今度は迷いも無くR7に合流、北上を再開する。
気温は昨日と同じに下界はかなり高い。走っているうちは楽だが、信号待ちで停まったりすると途端に汗が噴出してくる。はやく、秋田市内に入ってどこかの公園で昼寝をしたい、淡々と車の流れに乗って北を目指した。イエローラインが続き、なかなか遅い車を追い越す事が出来ず、自分のペースで走れない。東北の車の流れはえてしてこんなものだ。我慢の走りが続く。
昼あたりになって、秋田市に到着流石に県庁所在地だけあって、市内至るところ車だらけ、人だらけ。落ち着いて昼飯を取れるような所を探す気持ちにもなれなかったので、沿道で目に入った「吉野屋」で昼食とした。その後、携帯電話に今日会う人のメッセージが入っていたので、電話をし待ち合わせの時間までまだ暫くあるので、待ち合わせの場所から少し離れた所の市内にある大きな公園の木陰で昼寝をしているということを伝えたら、先方から「じゃあ、仕事早引けしたらそっちにいくから」との事。ということは、寝ていれば良いわけだ。高清水公園という、広大な公園の広場の一角に丁度いい木陰があり、しかもその下にベンチもあったのでそこに寝そべり、直ぐに寝てしまった。
「・・・・・・・・・・」どれくらい時間がたっただろうか、ふと人の気配を感じて起き上がると、そこに先ほど電話で連絡を取り合った相手の人が傍に座ってジーッとこっちを見ていたのである。その人は「忍(ニン)さん」という女性で、カワサキのメーリングリストのある意味姉御的存在の人で、メンバーの中の人気者(こんな表現が適当かどうか・・・)、行動力があって、まめにMLにもレスを書きこみ、つねにMLの中に「忍」旋風を巻き起こしている張本人である。
でも、実際は普通のうら若き女性である。(スリスリ)話してみるとやはり、姉御的な言葉づかいでこっちが「ヘイヘイ」となってしまうような感じはあるが、決して怖い人ではない。これは忍さんの名誉確保の為に言っておく。
彼女は、仕事を早引けしてまで自分を向かえに来てくれたのである、しかも一端自宅に戻ってバイク(バリオス)に乗り換えてからだ、いやいや本当に皆さんには頭が上がらない。
Nさんは今日の天気だから、このまま一緒に男鹿半島まで走ってツーリングするつもりだったらしいが、こちらが二日酔いでへばっていたので、それはキャンセルを願い出た。忍さんは明日は午前中しかお付き合いが出来ないということで、本当は今日行きたかったらしく、少々残念そうだった。少し頭がすっきりした所で、忍さんの案内で秋田市内にあるカキ氷屋に向かった。忍さんが学生の頃から通っているお店で大のお気に入りらしい。
看板もノボリも無い店に入ると、店の中は大入り満員、席が空くのを暫く待つことになった。そして、空いた席にすわり、自分は生レモン汁とアイスクリームが乗っかった物を注文。お代は「いいからいいから」と忍さんに押し切られ、奢っていただいてしまった。出された氷はきめが細かく、頬張っても頭にキーンとこない。量も山盛りなので食べ方にコツが要るようだ。カキ氷なんて食べるの、何年ぶりだろうか・・・・・。さらに、目が覚めたということで、忍さんは自分が疲れているということを考えてくれてそのまま自宅に案内してくれた。忍さんの自宅は道路をいくつも曲がった行き止まりにあり、これまた立派なガレージが棟続きで造られていた。相方を中にいれ、必要な荷物だけを下ろし、家の中にお邪魔すると、忍さんの母上が出てきた、これまた忍さんそっくり「うちの母です」と忍さんに紹介されるまでもなくすぐに分かった。
見た感じは、「渡る世間は鬼ばかり」に出てくるオタキさんをもっと豪快にした感じ。(失礼!いい意味でですよ)
また、このうちにはワンコが一匹いて(シェットランドシープドッグ)、名前をマロ(麻呂・麿?)というオス。見慣れない客人に恐れをなしたのかやたらに興奮して吠えまくっている。近づいてなでようとすると飛び上がって逃げ出す。犬好きの自分にはこのワンコの気持ちがわかる。まぁ、慣れるまでにはそんなに時間は掛からないだろう。そうこうしているうちに、忍さんの父上が帰ってきた。逆におやいさんのほうは、細身の長身で母上とは全く逆の体格。だが、これがいいバランスになっているのだろう。
座敷に通して貰い、まず冷たい飲み物を一杯頂いた後、早速近くの温泉にNさんの運転する車で連れて行って貰う事になった。お風呂代も忍さんに払って頂き(別にたかっている訳でもないし、貧乏旅行をしているわけでもないのだが・・・・・ここのところ奢られっぱなしだなぁ・・・・)、風呂に入る。本当は、もっとゆっくり入っていても良かったのだが、何せどこもかしこも暑い。
あまり長いこと湯船に浸かっていると本当に湯当たりしそうだったので、30分そこそこで外に出た。忍さんと一緒に帰り道の途中で酒の買出し、今日もまたアルコール漬けだ。普段晩酌すらもしない自分、大丈夫なのだろうか・・・・・。
自宅に戻ると、すでに晩餐の容易がされていた。これまた、豪勢なご馳走である。強烈だったのは大人の手のひらでも一杯になりそうな程巨大な生岩牡蠣。普通は、殻ごと手に持ってツルッとやるのだが、これは出来ない。箸で持ってもその重たさがずっしりと手に伝わってくる。こんなの東京で食べようと思ったら一体幾らの値がつくだろうか・・・・・。ようやく慣れてきたマロを構いながら、自分対忍さん3人家族とのお話は途切れる事が無かった。
それにしても、以前から噂は耳にしていたが忍さんはやはり相当なザルのようだ。500ml缶を二缶軽く空けたが、顔色一つ変わっていない。こっちは1本半缶空けて真っ赤っかになっているというのに。そんなこんなで、ビールとご馳走でお腹一杯になり、またも強烈な睡魔が襲ってきた。時刻はまだ10時ごろだったが、そうそうに部屋に引っ込ませて頂く事にした。
部屋では忍さんがノートPCを広げて早速MLのチェックをしていた。自分はこんな状態で細かい文字を見たら悪酔いしそうだったし、何分眠くて仕方が無かったので、そのまま布団に潜り込む。しかし、意識が薄らぐあたりで忍さんがMLを読み上げてくれるので、なかなか寝付けない。迷惑ではなかったが、忍さんが楽しそうにメールを読むので自分もつられて笑ってしまう事もあった。
やがて、「Tavito眠そうだね、もう引っ込むわ」といって忍さんは部屋を出て行った。すいませんね、くたびれた男でまともにお話も出来なくて。