○ 八月九日 北海道の洗礼を受け、発狂寸前 午前八時 フェリー航行中 ![]() フェリーの浴室にシャンプーがないのにそれを相方のタンクバッグに置いてきてしまい、 頭パリパリのまま朝をむかえた。しかもハブラシも忘れてしまったのでかなり気分が悪い。 野宿ライダーを自負している人間の言う台詞ではないか・・・・・・。 朝食を終え、デッキに出る。天気は曇り、あの新潟までの猛暑はどこへ行ってしまった のだろうか、船上を吹き抜ける風は肌寒くまるで一晩で季節が秋に飛んでしまったようで ある。いや~な予感がしたのはこの時、まさかこの天気が今回のツーリングの前半の予定 を大幅に狂わせてくれるとは思いもよらなかった。もしかしたら、ニセコの山中でえらい 目にあってしまうかもしれない、ベッドの上で何度も地図のチェックをする。 正午過ぎ、デッキから自分の肉眼で初めてはっきりと蝦夷を陸地を見た。だが、それは 北海道のイメージとは掛け離れたもので切り立った崖とそれにこびりつくように生えてい る低い縁の樹木が海岸線ギリギリに広かっているだけである。 フェリーは重い雲の下をくぐるようにして積丹半島を束に回り込み、三時過ぎに小雨の ぱらつく小樽に接岸した。そして、バイクはクルマやトラックが降りてからの下船となるので我々が北海道の地に足を下ろしたのは夕方の五時になってしまった。 渋滞で流れの悪いR5を酉に走る、小樽から少し西にあるオタモイの生協にて北海道最初の食料買い出しを済ませ初上陸の感慨に耽る開もなく国道をニセコに向かって走り出す。海岸線を離れて内陸になるに従って天気はますます悪化の一途を辿っている。走りやすい幅員の広い国道であるが、こんな天気でも取り締まりがあるかもしれないと考えていたので制限速度プラス″に抑えて走る。悪天候と日没の時刻が過ぎスモークシールドのせいで殆ど視界がきかなくなり、半分開けたままにしながら倶知安に到着。 ガソリン補給をしながらスタンドのオッチャンに『湯本温泉」まであとどれくらいか開くと、あと二十分くらいで着くという。 時刻は七時近く、まっすぐ迷わずに目的地に着けば八時前である今夜の風呂は我慢して夕 食にありつければ翌日はゆっくり後方羊蹄山に登る事が出来る、まあ天気次第だが。 ・・・・・・・・だが、悪夢はここから始まった。 中心街での交差点を右に曲がれば直ぐニセコの山中に入り込むことが出来たのに、自分は倶知安の町中をそのまま直進し、なぜかニセコの町を目指して走り始めてしまったのである。車が殆ど走っていないR5を三十分ほど来たところでニセコの駅前についた。 ここで、初めて自分達が間違っている方向を目指している事に気がついた。「まずい・・・完全に無駄足をくってしまった」だが気がついた時にはもう時刻は八時を過ぎていた。ニセコの駅前には入一入おらず、とても心細い。 メットを脱いで雨の当たらない所に逃げ込んで、もう一度じっくり地図を見直してみる事にした。地図で見ると、ここで気がついたのはまだ良かったのかもしれない、この駅からまっすぐ道道456を昆布温泉に向かって山を登ればその先に目指す湯本キャンプ場があるはずである。 目印になるものが全くない道道を走る、おまけに霧が出てそして叩きつけるような強烈な雨も振り出した。晴れた日中であれば最高のワインディングが展開する筈なのだが、今は相方の照らすライトさえも頼り無い程の暗闇と前方に人がいるのでは?と錯覚させるような反射を起こす真っ白な霧が目の前を遮るだけである。途中 『昆布温泉」という所で改めて道を聞き、自分の目指す方向が開違っていない事を確認する。だが、ニセコ・五色温泉と分岐する所をすぎても目指す湯本温泉の看板は見つけることが出来ず(見落としたか)、かといって相方から離れると暗くて全然周りを見渡す事が出来ない。同じ所を何回か通り過ぎたがわからずじまい、仕方無く五色温泉方向に転換し走り出す。 雨は相変わらず強く、気温も標高の高い所を走っている為だろうかシールド曇り、それを嫌って掛けた伊達メガネも曇ってしまう。こんな時間、こんな山中を走っいる馬鹿者はもちろん他にはおらず、まるで徘徊しているようだった。焦りの原因になるので、ハンドルに引っ掛けてある時計をなるべく見ないようにして、時速三十キロ程でノロノロと走る、ところが道は登りをやめ下り始めているではないか。 そんな状況になって、今現在自分が何処にいるのか全く分からないのでそのまま走って目印が見えてくるまヽ走るしかなかった。完全に舞い上がっているのが自分でも分かっていた。「ちきしょーっ!全然わからねぇじゃねぇかよ!あのおっさん適当な事教えやがって!」 とヘルメットの中で怒鳴る。 ふらふらと走るうちに道端を何かの小動物がライトの中に浮かび上がる、キタキツネである。相手はちょっと驚いた様子だったが逃げようともせず我々が通り心ぎるのをじっと見送っていた、まさか一日目からキツネに遭遇するとは・・・この先で兄つけたキャンプ場がキツネに化かされた幻影でない事を祈りながら先を急いだ。 そして、唯闇に浮かび上がるようにして見えてきた建物は一件の大きな高級ホテルであった。見すぼらしい恰好のままフロントに行き、もう一度五色温泉の場所を間いた。なんと今着た道を引き返した所だと言うではないか、その場にへたりこみそうになるのをどうにか耐えて相方に跨がって暗闇の中へと走り出した。登り勾配が終わり道が下りに差し掛かった辺りで、僅かな明かりが灯る旅館を発見した、そして自分達が立ち止まった直ぐ横に『五色温泉』の立て看板があるのに気がついたのであった。 時刻は夜の九時を過ぎていた。 |
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