5.03
連休を利用しての久方ぶりのツーリングをした。
ソロではなく、いつものおなじみのメンバーである。
埼玉組は9RのN村氏、その相棒のK村氏は今回もレンタルで最新型6Rを調達、その他には東京から現役レーサーのT口氏がTカーのSRV、長野組からはM原氏がZRX1100R、その同僚のM山氏がZZR1100という強力無比な顔ぶれと相成った。
朝の5時に起床し、近くの牛丼屋で朝飯を済ませ出発。
待ち合わせの場所、関越嵐山PAの給水塔の近くで、埼玉東京組みと合流。
しばし歓談の後、長野組と合流する為下仁田のこんにゃくセンターに向けて出発。関越道は折からの連休渋滞でごった返していたが、上信越道は我々が降りる下仁田から先で渋滞が始まっていたために、なんなくクリア。
9時半過ぎにこんにゃく観光センターに到着し、長野組と合流。
長野組の2人は、この冬乗鞍高原でスキーを共にしたメンバーだったので、すでに勝手知ったる仲。早速バカ話に花を咲かせながら名物(?)の味噌おでんをつつきながらしばしの休憩。

その後、あーでもないこーでもないと言い合いしながらもこの先のルートを決めて出発。
少し戻って妙義の山を越え、長野原に入り少し前まで不通区間だった国道R406を北上、須賀尾峠に差し掛かった辺りで、ノロノロ走る4輪の後ろに付いた。
暫くはパッシングポイントが無い、曲折路が続いていた為に大人しく付いていったが、流石に眠気を催してきたので、短いストレートに差し掛かったところで、一気に追い越しを計った。
3台の車の先頭に踊り出て、その先のコーナーに飛び込んだその刹那だった。

「!」

コーナーは180度のヘアピンカーブ、そして逆バンク、その奥には雪解けの後に残った土砂が数センチ堆積していた。
自分は相方と共にそこに乗り、フロントから一気に転倒したのである。
「あいちゃー、久方ぶりにやっちまった・・・」
即座に立ち上がり、両手を挙げ後続車両に事故を知らせる。
仲間が廻りに集まり、「大丈夫か!」と口々に言う。
取り敢えず歩けるし、自分で相方を引き起こす事が出来た。
相方は右側のウィンカーが吹っ飛び、ヘッドライトハウジングには痛痛しい傷が。
ミラーもあさってを向いていたが、あらかじめネジを緩めにしておいたので、損傷は無し。
エンジンガードが更にポイントカバーに近寄ったが、ガードはしてくれた。
自分も右ひじをすりむき、左の腰を転倒の際にしたたかに打ったせいかジンジンと傷むが、ほぼ軽症で済んだ。
だが、一番凹んだのはそんな事ではなかった。
下の画像にあるように、ジャケットに大穴が開いてしまっている。問題はそのジャケットにある。これ、実はこの日卸したばかりのパッキパキの新品だったのだ。
久しぶりにライディングウェアを新調し、意気揚揚に出発したその矢先にやってしまったのである。


「あああ・・・・(涙。サラのジャケットがもうこんなかよ・・・」
誰も悪く御座いません。ええそうですとも、アッシが無理してコーナーに飛び込んだからですよ。この後直ぐに走り出そうと思ったが、仲間に止められた。
「ちょっと気分を落ち着けてから行きましょうよ」
確かにそうかもしれない。何事も当てはまるのだが、何か問題が起きた時は慌てて解決に走ろうとせず、一息いれてから取り掛かった方が、間違いを再発せずに済むと言うからだ。
その場でしばしの休憩をした後、気分を入れ替えて出発。R145は長野原草津口手前で出てきた。
どうやら今まで走ってきた道は、冬はともかくサマシーズン中はいい抜け道になりそうである。
いつもだったら、渋川伊香保から長野原草津口駅前まで延々とR145は渋滞の長い列が出来ているからだ。

レンタルバイクのZX-6Rは、長野原草津口に出る前に他のメンバーが、
「オレにも乗らしてくれや」
とのリクエストがあったので、別のメンバーが乗っていた。しかしあの乗車姿勢である。
駅前の国道は折からの連休真っ只中、激しく渋滞していた。
後ろから「渋滞かよ!渋滞かよ!じゅうううったああいかよぉぉぉ!!!」
という悲痛な叫びが聞こえてくる。全員メットの中で爆笑。

最初は駅前の食堂で昼をと思ったが、なにぶん時間帯が悪くバイクをゆっくり駐輪する事もママならない状況だったので、N氏の提案で急きょ場所を変更。渋滞の列を脱出し万座の方向に向かって走り野反湖方面へ。
途中に道の駅があったので、そこで昼とした。行き止まりの国道沿いにあるのに、ドエライ混雑。バイクも数多く見受けられた。なかには幕営仕様のものもあって、彼らは恐らく湖奥にあるキャンプ場に向かうのだろう。道の駅の食堂は立錐の余地もないほどの客入りの為、その隣にある焼肉屋にメンバーはなだれ込んだ。
入り口を入ると、いきなりもうもうとした煙。ここも連休中は繁盛しているようである。
注文を聞きに来たバアサンはろくすっぽメモを取らないで厨房に行ってしまうので「ええと、オタクはなんでしたっけ?」
などとすっとぼけた事を抜かしにきやがる。それを繰り返す事数回。
「だから・・・・オレは焼肉だっての」
「オレはエノキ饂飩だってばさ」
と、メンバーは空腹と疲れで少々切れ気味に注文を言い直していた。冷水もマトモに出せない程、店の人間はパニクっているので自分が全員に水を配る。しかし、なんでここまでアタフタするほど忙しいのだろうか?焼肉屋なんて、肉と野菜を切って客に渡せばあとは客が勝手に焼いて食ってくれるのだから、やるこたぁそんなないだろうに。タダ単に、要領が悪いのか?
それともいつも暇であることに慣らされているから、こんな状況になるとアップアップしてしまうのだろうか。

まずステンレス皿に盛られた肉と野菜が出てきた。
メンバーの内の3人が焼肉をオーダーしたので、これは効率がいい。これだったら誰かが食べている間だれかが常に鉄板の肉の状況を監視する事ができる。一部にラム肉も入っているので、いちおうジンカンなのか。テーブルのレンジに火を入れ勝手にジュウジュウとやりだす。
まぁ焼きだしたら出したで、ペースは早い。
そのうち残りのメンバーが注文した饂飩が出てきた。焼肉メンバーがハフハフしているその刹那、隣から「なんだ!これ!」
声の主はN氏だった。
眉間に深い皺が刻まれている。箸でつまんだ麺を凝視している。
「うわ!キショッッッ!」
たしかに、その麺はなんだこれだった、なんせ色が抹茶ソバのような緑色をしているのである。
「さささ、N氏見ていたら味がワカランから食べて食べて」オレが煽る。
N氏が嫌そうな顔をしながら饂飩をすする。
「・・・・・・●△×#!@*」
声には出さないものの、その表情にはあからさまにこの麺に対する酷評の言葉が現れていた。どうやら美味しくないらしい。自分もスープだけだが試食してみた。
「・・・・・・・」
何故?饂飩なのにこんなにツユに油が浮いてんの?そして甘口で。
「マズーーー」
N氏は文句を言いながらも一応その饂飩を完食はしたが、店を出るときのセリフ。
「二度と此処ではクワネェ」
出発である。国道で草津に抜けるのは自殺行為なので、その先の「長笹林道」経由で草津に出ることにした。しかしこの林道が非常に走りにくい。確かに幹線国道ではないので交通量は少ない。しかし雪解け間もない舗装林道である、路面には見たくない砂利やホコリがウッスラ均一に堆積している。
見通しは当然悪く、先行する遅い4輪をパスする事も出来ず、巻き上げられたホコリの煙幕の中、ガマンの走りを強いられる。9RののN氏、まずい饂飩は食わされるはカッタルイ車にコースを塞がれるわでたいそう深い眉間皺が刻まれている事だろう。かくいう自分も先ほどの転倒がトラウマになっている為か、右コーナーの曲がり方がおかしい。全く滑らかでなく、ギクシャクしている。上半身にも無意識に力が入ってしまう。これではかえって転倒しやすくなってしまう。早くこの林道が終了してくれるのを願うしかない。

そのうち錆び色に変色した岩が一面を覆っている渓谷に出た。見ると、大きな水溜りがあり衣服を着ていない人間が数人。
「・・・・・・・!」
前を走る眉間皺N氏が指を指して何か言っている。
多分「何だ!あれ!」
だと思う。
ここがかの有名な「尻焼温泉」である。そこに見えているのは無料の露天風呂だ。中に浸かっている人間の殆どは水着を着ているが、中にはフル○ン(どちらにも当てはまる・・・・・か?)で貫いている猛者も通り過ぎざまながら確認する事が出来た。前方を塞いでいた先行車はその尻焼温泉の駐車場に入り、コースはオールクリヤーとなった。とたんにペースが跳ね上がる。狭い山道とブラインドコーナーの連続で著しく走りにくいワインディングだが、このペースである。大きな通りに出たところで「長笹林道」は終了した。

此処から先は、どうしても避けられない草津の街中を抜けることになる。それ以前に、街中へ入る道路そのものが機能していない。

「大渋滞」

おまけに、この時期に道路工事なんぞやってやがる。休日は休めっちゅうの。
そして志賀草津道路に出たものの、その状態は思い出す乗鞍高原への大渋滞。ううむ・・・日取りを著しく間違えたな。しかし急峻な山岳道路、大人しく一般車のノロノロ運転に付き合っていてはストレスと披露が溜まるばかり。しかたなくなし崩し的に、対向車線を使いながらの強行突破を余儀なくされた。勿論先頭を切って飛び出したのは、N氏9R。
その後を我々が対向車を見ながらジャンジャン前に突き進む。中には間に入れさせないようにと間を詰めようとする不届き者の車も居たが、残念ながら、我々の鋭い突っ込みには反応が間に合わず、車間を詰めてきた頃には、既に対向車線に出て先に進んでいる。
「相手が悪いのよ、俺らの邪魔なんて日曜日にしか車を運転しないようなレベルの人間には逆立ちしたって無理なのね」と、メットの中でほくそえみながらアクセルを開ける。
逢ノ峰の峠を過ぎ道は下り坂になるが、流れがスムーズになる気配無し。
結局は万座へ分岐する道まで渋滞を非合法的な方法での通過を強行する羽目になった。
ご存知の方も多いと思うが志賀草津道路は途中で万座へと分かれる道の部分に、小さな広場(ジャリ・草っぱら)がある。そこにバイクを乗り入れ、一服。時刻はまだ午後4時位。
まっすぐ宿に向かっても早すぎて面白くないという意見が大多数を占めたので、料金所までは無料区間のワインディングを利用して、急きょスペシャルステージが設定された。浅間白根火山ルートがそのコースである。ここで、バイクをさらにシャッフルすることになった。自分が6R、K氏がZ1に交換。
本日の宿は、熊の湯温泉にあるのでこのまま下ってしまうと、前々見当違いの方向に言ってしまう。スペシャルステージは、料金所手前でのピストンコースだ。
ここで何本か走って時間を潰し、渋滞が少しでも緩和された間隙を縫って宿になだれ込もうという算段である。
6Rに乗って出発。


最初はひたすら急坂を一気に下る。6Rのポジションではまさに前方宙返りか巴投げを喰らいそうなほどにキツイ。だが、こちらのルートは空いていて好きなだけスロットルをワイドオープンする事が出来る。しかし毎度新しいバイクに乗るたび思うのだが、30年と言う技術の進歩は本当に凄まじい。まさに別世界のバイクである。とにかく、軽いのだ。
そして決して怒涛のパワーで押し出される感覚ではないのだが、甲高く廻るエンジンは正にモーターそのもの。一瞬のうちにコーナーが迫り、直ぐにブレーキング。
「あ、ちょっと遅れたかな?」などと、ブレーキングに失敗しても、凄まじい減速Gを伴って、安全にコーナーをやり過ごす。BMWのようにコケル気がしないわけではない、やはり、きついポジションのせいか上半身に力が入ってしまい、スムーズな体重移動が出来ない。
瞬く間に全身に汗が出てくる。殆どバイクに乗せられているような有様である。だが、これまでの鬱憤を晴らすには充分な全長23キロ超のスペシャルステージを堪能する事が出来た。
さて時間もそこそこ過ぎたので、再び志賀草津道路に戻る。入れ替えたバイクを戻して出発。
渋峠。

大混乱

駐車場に収まり切れない車が道路に2重駐車。まさに無法地帯、標高2000mの高地で鳴り響くヒステリックなクラクションがマヌケである。勿論、我々は素通りである。渋滞の車列は幾分密度が薄くなったもののまだまだ交通の流れはスムーズではない。再び、ムリヤリ走行体制が敷かれる。

夕方5時ジャスト。熊の湯温泉ホテルに到着。
観光地での渋滞は処理するだけでも都内に比べてタチが悪いので体力を想像以上に消耗する。宿に到着した安堵感のせいか、少々お疲れ気味のメンメン。自分も久しぶりに気合の入った走り+峠での転倒の影響か、結構疲れていた。あとは宿になだれ込んで、飲んで食って、浸かるだけである。
しかし・・・本人の思いもよらぬ悲劇がこの宿の中で待ち構えていたなどと、知る由もなかった。到着した宿は前述したように「熊の湯温泉ホテル」という。スキーシーズン中は修学旅行生でごった返す事で悪名高い宿である。
で、現在は春スキーのシーズンらしい。気温は20度はあろうかというのに、宿の駐車場にはスキー板を積んだ車が多く停まっている。雪質が著しく悪いこの時期にも、滑ろうと言うのだからよっぽど好きなのだろうか。かく言う自分は悪雪大嫌い人間なので、間違っても滑ろうとは思わない。むしろ、凍死寸前の極低温下でのサバイバルチックな滑走は好み。汗を掻いてまでは流石にしたくないねー。こけたらコケタでベッチャベチャになること請け合いだろうし。

さて、部屋に通されてまずはビールで軽く乾杯となった。自分も今日の暑さでノドがそれなりに乾いていたので珍しく500ml缶で乾杯、一気に空けた。
しかしこれが間違いの始まりであった。
最初は何ともなかったのに、時間がたつに連れて吸い込まれるような睡魔に襲われた。
そして夕食の時間になる頃には、気分が最高潮に悪くなり、食堂にたどり着くまでに途中のトイレで胃の内容物をリバースしてしまったのである。たかだか500mlのビールでである。結局夕食は一口も手をつけず、部屋に退散。既にしかれてあった布団に倒れこみ、ひたすら酔いが覚めるのを待つしかなくなってしまった。自分でも分からない。
もとからビールは好きではなかったが、500mlくらいで悪酔いするなんて事は今までなかったのである。やはり転倒の精神的ストレスか?それとも前日は5時間位しか寝ていなかった為か?

暫くして他のメンバーが腹一杯になった状態で、部屋に戻ってきた。
「Tavitoさん大丈夫?」
「・・・・・・」
「風呂いける?」
「・・・・ムリそう」
「じゃぁオレラだけで行くんで留守ヨロシクね」
「・・・・・ん」
ドスドスドス・・・・と枕もとを歩くメンバーの足音。
そして「スーッピシャ」と唐紙のしまる音。
「バタン」ドアが閉まる音。

「シーーーーーン」

最悪だ。なんちゅう惨めさ。
しんとした部屋に一人っきりでうめきながらフトンの中をあっちへゴソゴソこっちへゴソゴソ。
気持ちが悪いので、眠いのに寝られない。旅先でこうはなりたくなかった。大学生じゃないんだから、ビールごときで動けなくなるなんてありかいな?今更後悔してもしょうがないが、乾杯はやっぱりポン酒だったら、平気だったのかもしれない。歳を重ねるにしたがって、ますますビールには弱くなり、ポン酒には適応するようになってきた感じがする。

結局その晩は、枕もとでバカ話をするメンバーの気配を感じながらも朦朧とした状態でフトンに潜ったままの自分。これほど散々な内容に終始したツーリングも非常に珍しい。メシも食わず、風呂にも入らずの志賀高原。うっすら目を開けてカベの時計を見ると、まだ9時あたりのよう。今のうちに寝ておけば、明日は早起きできるはずだ。そうしたら、せめて朝風呂ぐらいは入っておかないと、宿代が余りにも高すぎる。

5.03終了